GS美神×ネギま!
□人魚姫の溜息!?
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強化合宿のため普段なら練習中のこの時間、更衣室の中には当然のことながらアキラと茜の二人しかいない。
そんな静まり返った更衣室のベンチに座り、アキラは無言で茜が話をしてくれるのを待つ。
やがて茜がようやく重たい口を開いた。
「かなり前なんだけど、お姉ちゃんが事故に遭って……」
茜の話をアキラは黙って聞いていた。
時折辛そうな顔をする親友の手を優しく握り締めながら。
彼女の話を要約すると、どうやら事故にあった彼女のお姉さんの意識が戻らないとのこと。
一度は意識を取り戻したためそれを喜んだ友人たちがお見舞いに来たその日の夜、念のため翌日検査を行うということでその日お姉さんは病室で就寝したそうだ。
だが朝になっても以降に目覚める気配がない。
そしてそれ以降再び深い眠りについたままなのだそうだ。
彼女のお姉さんを担当しているのは国内でも屈指の腕を誇る脳外科医だそうだが、その医師ですら今回の昏睡の原因が掴めないのだとか。
そしてその医師がポツリと漏らした言葉を茜は聞き逃さなかった。
「その先生がお姉ちゃんしかいない病室で、悔しそうにこう呟いているのを聞いたの。
『医学的だけじゃなく、科学的にも原因がわからないなんて。 まさかオカルト的な何かが関わっているとでも言うの?』って……」
弱々しくそう呟く茜の瞳には涙が滲んでいる。
今にも溢れそうなほど涙を湛えた瞳で茜はアキラへと言葉を紡ぐ。
「ねえアキラ。 お姉ちゃん、このまま目を覚まさないのかな……」
「茜……」
「お医者さんでもわからないなんて。 もう誰に頼ったらいいのかわからないよ……」
アキラはかけるべき言葉が見つからない。
ただ優しく彼女を抱きしめてあげることしかできなかった。
だがそこでふとある人物の顔が思い浮かぶ。
「ねえ茜。 もしかしたら、の話なんだけど……」
そう前置きをして、アキラは彼女へと話しかけた。
事情が事情だけに楽観的なことは言えない。
だが先ほど茜が言ったようにもしオカルト的な何かが絡んでいるとしたら、きっとあの人なら何とかしてくれるのではないかと思えたからだ。
「私の学校の先生で、オカルトとかに詳しい人がいる。 私も一度お世話になったことあるんだけど、話ししてみようか?」
アキラのその言葉に、茜は俯いていた顔を勢いよく上げて彼女の両方をガシッと掴んだ。
「あ、茜!?」
あまりの勢いに、思わずアキラがたじろぐ。
だが彼女はそんなアキラの様子に構わずグッと顔を近づけ、早口でまくしたてる。
「そ、それ本当? お願い、お礼なら何でもするからその人紹介してッ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて茜」
「あ、ゴメン」
アキラにそう言われ、茜は思わず力が入ってしまった自分を恥じる。
「ふふっ、気にしないで。 うん、一度聞いてみる。
あと、お礼とかは気にしないでいいから。 それから……」
アキラに言われ、茜はホッと一息つく。
だがそのあとに続く言葉が気になるのも確かだ。
「それから?」
「『何でもするから』なんて、その人に向かって言っちゃダメだから」
「え、なんで?」
そう問い返してくる茜の耳元に口を寄せ、アキラは小声で囁いた。
「な、な、な〜〜ッ!?」
思いのほか免疫がなかったようで、茜は真っ赤な顔で金魚のように口をパクパクと開いたり閉じたりしている。
アキラとてそれほど異性に免疫があるわけではなかったが、彼の周りは刺激的なことが多すぎるのだ。
自然と耐性も付いてくる。
「あ、でも茜の場合は初めてあったら飛びかかられるかも。 『生まれる前から愛してました〜〜〜』とか言って」
そう言ってアキラはその光景を思い浮かべているのか、楽しげに笑っている。
だが茜はそうもいかない。
「な、なによそいつ。 ねえアキラ、ほんっとーーーーに信用できるの、その人?」
「大丈夫だと思う。 その娘が本当に嫌がることはしない人だから」
ジト目で問う茜に真面目な顔でアキラはそう答えた。
知り合った時間は短いが、随分と彼のことを理解しているようだ。
「アキラがそう言うなら大丈夫ね。 でも……」
アキラのその言葉にようやく納得したのか、茜がそう答える。
そして続く言葉も先ほどまでとはうって変わって本来の彼女が戻ってきたようだ。
「もし変なことしようとしたら、水月先輩直伝の『ゼロレンジスナイプ』ぶちかましてやるんだからッ!!」
「ふふっ、その調子。 でもまずはこの合宿、頑張ろう?」
「そうね、戻ろっか」
その後プールサイドに戻った彼女はコーチから『体調管理も……』というありがたいお話を頂いた。
だが先程までとは比べようもないほど調子を取り戻した彼女に、コートを始め他の選手たちもホッと胸をなでおろしたのであった。