Creating the World
□最終話
4ページ/4ページ
どうも、泉 歌恋です。
現在私達の夏休みとは手を振ってお別れしました。
「だるい」
始業式が終わって私はシェリルに来ていた。
「あらあら、それは大変ね」
顔をテーブルにくっつけてだるさをアピールしている嫌な客であろう私に嫌な顔せず話してくれる陽子さんはできた人だと思う。
……夏休みの戦闘。忘れたくても忘れられない出来事から一ヶ月近く。
目が覚めた時には真姫の別荘にいて剛がボッコボコにされていたのはよく覚えている。私を守れなかった罰として真姫から鉄拳制裁が加わっていたのだ。
結局、私はめでたく超越者の仲間入りということでその日の夜は赤飯まで炊かれてしまった。迷惑な話である。でも巻き込まれてしまったのは仕方ないので私は素直に受け入れようと思う。
なんだかんだ私の居場所がそこにある気がするから。
「あら、いらっしゃい」
陽子さんがドアのベルに反応して接客の決まり文句を言う。洋子さんと私の二人だけの空間に入り込んできたのは普段はあまりここを利用しない人物だった。
「魔法使いが三人になったわけよねぇ」
感慨深そうに生徒会室のソファでゆったりとくつろいでいる真姫が言った。
「あぁ、俺も予想外だった。あれのことだからせいぜいスプーン曲げが関の山だと思っていたがとんだ大物だったな」
やれやれと生徒会長専用のイスに座っている礼治はため息をついた。
「世の中何が起こるかはわかりませんし。まぁ、作戦が成功しただけよかったではないですか」
真姫の反対側のソファに座っている分厚い本に目を通しながら香はつぶやいた。
「無理矢理巻き込んで能力の覚醒を促進させる。確かに大成功だった」
『月』に見つかったのは面倒でしかなかったが収穫は十分にあった。これで歌恋を守りながら戦う必要はなくなったのだから。
「ただし、これからもっと大変よ。連絡が途絶えた場所からここが割り出される可能性は十分あるんだから」
あいつらとは夏休みの戦闘で倒した『月』の刺客のことだ。真姫はそれを言いつつ、リーダー的ポジションにある礼治を見た。
「なんとかなるだろう」
リーダーは偉く楽観的だった。
「……ほんと、苦労が絶えない日々が続きそうで先が思いやられます」
香が消え入りそうな声で、続けて、まぁ、楽しそうですけどと言ったのは誰にも聞こえていなかった。
入ってきたのは原始人、剛であった。
真姫のお気に入りの場所は落ち着きがあるところで剛のような人間は望まれないのだ。というか来るな。何故来ている。
「ケーキ一つお願いします!」
「はいはい」
注文を済ますとさも当たり前のように私の隣に座る。
「何故来た」
「そういう気分だったからだ」
最近反抗する精神をゴミ箱に棄てたらしく私は剛の応えに何も言えずにオレンジジュースについてきたストローで遊んでいた。
「それじゃあ剛、私はこれで」
「おい、ちょっと待て……」
最後まで聞かずに私はシェリルを飛び出した。
「あ、剛君。お会計」
「……なんでジュースとケーキ代が二人分なんすか?」
「彼氏さんなんだから歌恋ちゃんの分も払って上げなさい」
「あのアマァァア!」
入り口前でそんな声が聞こえた。
「それに俺は彼氏じゃねぇ」
「あらそうなの?……まぁいいわ」
その会話は私には聞こえなかった。陽子さんが不適に笑ったのも知らない。
それにしても危なかった。顔が暑い。夏が秋を刺し殺して再来したようだ。
原因は分かっている。でも絶対に他人には言えない。口が地震で真っ二つになった大地よりも裂けたとしても、絶対。
まさか私を守りながら戦ってくれていた剛に惚れたなんてべたでべったべったな純情小娘みたいな理由で顔が赤くなってるなんて、私に限ってそんなことあるはずないんだから。
.