Creating the World

□最終話
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剛の目がかっと見開かれた時、彼の姿は雲頸の懐にあった。

「とりあえず、のけ」

突き上げられた拳を避けられるわけもなく空中に突き飛ばされる。

雲頸は思った。おかしい。自分には龍の鱗がある。飛ばされるはずがない。果てしなく、おかしい。

「大丈夫ってわけでもないか」

寝てしまっている歌恋には剛の言葉は聞こえてない。

「まぁ、あとは何とかする」

先ほど突き飛ばした敵を見据える剛。自信に満ちている。

「何をした?」

雲頸の目から見ても剛の傷が癒えていることは明白。それも疑問だが今、雲頸は聞きたいことでない。自分の最大にして最強の防御手段である龍の鱗があるにも関わらず突き飛ばすという芸当ができたのかということだ。

「簡単だ」

その姿に納得せざるを得なかった。血を吸われた。たいしたことではない、きっと回復手段の一つ。それぐらいのことだと思っていた。

間違いだった。自分と同じ龍の鱗を纏う剛の姿を見て理解した。

「俺の能力の本質は体がただの人間より丈夫とか寿命が長いとかそんなことじゃねぇ。血を吸うことによってそいつの能力をコピーすることだ」

剛は一直線に走り込む。運動能力であれば雲頸よりも剛の方が上だ。最初の戦闘で二人に差があったのは龍の鱗という特殊能力のおかげ。それを共有したのだ。今また空中を待っている雲頸がいてもおかしくはない。

「ぐっ、くそ、くそ、くそ!」

地面に叩きつけられてから素早く体勢を立て直した雲頸は乱暴に言葉を吐いた。直後、顔面に蹴りが入る。

「うっせいぞ」

剛は吸血のできる鬼である。本質は鬼だ。西洋の純粋な吸血鬼とは違っている。剛の先祖である鬼は蓬莱という場所からこの地にやってきたと言われている。その時には吸血の能力はなかったが代を経るごとに徐々にその力を現していったらしい。そして剛がそのたった一人の末裔だ。

この話はあの礼治も詳しくは分からないといっているが鬼がいたことは間違いないという。現実に剛という鬼が存在しているのだから。

「これでも喰らえ!」

雲頸が放ったのは火龍拳だ。だが空しく、その攻撃は空気にしか当たらなかった。完全に自分のペースに乗っている剛にはかすりしなかった。素早くしゃがみ込み、同じく火龍拳を腹に決める。

「お返しだ!」

だが威力は段違いだった。飛ばされた巨体は一本の木をへし折った。



「歌恋っていうのか」

すっかり打ち解けてしまった。二人は今輝いている夕日をバックに先程買ってきた缶コーヒーを片手に話をしている。

「あんたは?」

「剛、南波 剛」

よろしくな、と剛は軽く笑って続けた。

「それにしても屋上で歌を歌うなんて物好き初めて見た」

「うっ、まぁ場所ないし、これでも一応歌手を目指してるんだから歌わないと」

「カラオケとか行けばいいじゃん」

「いや、高校から引越したから友達とかいなくて……一人で行くの寂しいじゃん」

「なら俺たちと行こうぜ」

「え?」

その日のうちに歌恋を生徒会室に強引に連れて行って礼治、真姫、香を紹介した。



「まだ、死ぬわけにはいかん…」

雲頸が死ねばここで龍の血は絶える。そんなことは許されない。だから気絶してもおかしくないぐらいに激しく飛ばされても彼は立ち上がる。

「もう、いい」

もうしっかり立てない雲頸の前に剛は静かに佇んでいた。

「死ね」

雲頸は腕を動かそうとしたがそれはできなかった。腕が折れていた。

「貫・心抜」

瞬間、剛の手は雲頸の左胸を貫いていた。
貫・心抜。敵を飛ばすことは簡単なことだが人の身体を素手で貫くことは容易なことではない。それを可能にしたのは剛が出せうる最速のスピードで腕を動かし、敵の心臓一点を狙っての一撃を繰り出したからだ。決まれば心臓は敵体内で粉々に砕ける。

手を雲頸の胸から抜いた。巨体が倒れる。

「終わった」

夕日が眩しかった。



「で、彼女、どうするんだ?」

真姫と香、歌恋が帰った後の生徒会室で礼治と二人で歌恋について話した。

「間違えなく、一般人の枠からは外れるぞ」

薄々ながら剛も感じていた。自分達を普通として受け入れる歌恋は異常なのだ。自分達と同族、そうとしか思えなかった。

「まぁ、遅かれ早かれ彼女は覚醒するだろうから俺たちが関わったところでどうということは無かったかも知れないが」

礼治はため息しかこぼさない。

「大丈夫、あいつは俺が守る」

剛は知らないうちにそう答えていた。多分、さっき見た彼女の笑顔が綺麗だったからだと思う。



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