Creating the World

□17話
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外した。

世の中には『絶対』というものが存在しないという輩がいるが、『絶対』というものは存在する。

人間は父と母から生まれる、絶対だ。

地球は回っている、絶対だ。

人間は死ぬ、絶対だ。

自分が生きている、絶対だ。

目の前の倒れている敵を殺せる、絶対だ。

少し前なら絶対のはずのだろうか。少なくとも外した現在では絶対ではなくなった。

突風が巻き起こり木の棒が雲頸の腕を弾いた。気が緩んでいたのも確かだ、なにせ木が倒れるかとおもう突風だったのだから。そしてそのスピードで飛んできた棒に腕が弾かれるのも必然。

それぐらいの力はあった。

問題なのはタイミングだ。見事としかいいようがない。殺す直前にそんな偶然が起こっていいものだろうか。

これではまるで、奇跡ではないか。

凍った、自分の考えに。恐怖した、自分の愚かさに。

「……私ってこんなことができるんだ」

能力に覚醒した者が最初に得られる情報は例外なく自分の能力についてだ。

確信に変わってしまった。この少女の能力について。殺す相手を間違えた。そしてもう殺せない。臆病に震えていた少女を。

「魔法使い―」

雲頸の口からは彼女を呼称するにふさわしい言葉が出ていた。

ランク、マジック。それを魔法使いと言う者もいる。

「あなた、許さないから」

腰が抜けていたはずの少女はおもむろに立ち上がるとその言葉を吐き出した。

その瞬間に雲頸はその巨体を激しく揺らして下がった。手はある。ただし、失敗する可能性は高い。

一般的に超越者は一人で戦う。自分の能力で味方を傷つけてしまうこと、最悪殺すことなどが想定されるからだ。今ここにもう一人仲間がいたら隙を作ってもらい、作戦は上手くいったからも知れない。それができないから泣き言にしかならないのだが。

「魔法使いといえど、その身はただの人間!」

火龍拳。剛の身体をこれでもかというほど曲げたときに使った技だ。拳に炎を纏わせ、皮膚を焼く効果を期待するものだが使い方はそれだけではない。今は距離が離れている。遠距離の武器として使えるということだ。雲頸の腕力をもってすれば打ち出されるはずであろう炎の塊は銃弾の三分の一の速度は期待できる。

力一杯拳を突き出した。

「無駄」

木が倒れていた。倒れている途中だ。丁度、雲頸の右腕に当たった。

「ぐぁぁぁあ!」

悲鳴にも似たものだった。突き出された右腕だけに当たった木。先ほどの棒ぐらいの大きさのものだったら何とかなったのだろうが、その大きさを遥かに凌ぐ木に腕はなすすべもなく弾かれた、龍の鱗が腕を覆っていたからだ。

それが災いした。弾かれた右腕は曲がり、左の肩を強打した。もちろん、発射される予定であった炎もきちんと当たった。左の肩の辺りは鱗が溶け、肉があらわになっている。

「なんという奇跡か……」

改めて実感させられた。





魔法使い。

それを聞いた時に私は合ってるなぁと感じた。

偶然を自由に起こせる空間を作れる能力。それが私の力。ここまで来て超越者を否定しようという気にはなれなかったが自分に与えられた能力には驚いた。

考えを張り巡らせた。幸い、いつもよりも頭がよくなった気がするので信じることは苦でなかった。

偶然から連想されるものに何があるか。ありえない状態で起こる偶然を人は奇跡と呼ぶ。あぁ、私は神様にでもなったのか。自分が作った空間内限定だけど。

そうだ、名前が欲しい。もらったものに名前をつけるのは私の信条だ。どんな名前がいいか。どうせなら大袈裟なのがいいな。

「―世界創造(クリエィティング・ザ・ワールド)」

世界を創る能力。間違ってはないかな。

だってこの空間は私だけ、私の願いを叶えてくれる世界なんだから。



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