Creating the World

□16話
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あれに乗ってきたのか。

人間では動物に追いつけないのは身体のつくりが違うからだ。敵にその手があったのならもう逃げることすら叶わない。

「焦るな、もう逃げはせん」

目の色を変えた。絶望ではない、僅かな希望を期待する目に。

覚悟を決めよう。倒せない、不死身。それでも自分の全力なら、命を懸ければ傷一つぐらいなら残せるかもしれない。それでいいではないか、自分はせめて武人として散ろう。
想いは人を強くした。

「麒麟。下がれ、久しぶりに本気で行く」

麒麟はおとなしく下がった。礼治はいつも本気で望んでくる人間を蔑ろにしない。どんなにみじめな人間でさえ目的を決めてかかってくるものを拒んだりはしない。

「俺も全力で行こう」

クレイドは言葉を発しなかったが雰囲気と目を見れば礼治には分かった。

こいつ、死ぬ気だ。

「いつでもかかって来い」

優勢である礼治が上から目線になることは自然の流れだった。光の剣を取り出し、礼治は構える。切っ先を地面につけて腰を低く構える。

「参る」

クレイドは応えた。

クレイドが使う流派に名前はない。ただおかしなことに奥義とされるものには名があった。

六天昇華の一突

会得したものは自分しかいなかった。これは書物に記された遊びで考えられた技としか思えないもので一瞬と思える間に両肩、足の付け根、頭、心臓の六点に突きの斬撃を浴びせる技だ。

それを行うことに成功すれば六度の突きが一突きに見えるらしい。もちろん常人に出来る技ではないため現実に成功させたものはいなかった。だがクレイドは能力である人間にはない神経伝達速度、その限界を持って成功させた。

不死身の敵に意味があるとは思えない。だが自分の武人としての集大成をぶつけることにした。

構えは刀を少し引いて敵に刃を向けた状態にする。突っ込んだ。

一瞬だった。

「……もう少し、この世に残りたかった」

「贅沢な悩みだ、未練などなくしてさっさと逝け」

倒れるクレイドの顔は笑っていた。

一瞬のうちの六度の突きは一振りの光刃によってなぎ払われた。単純な力押しにクレイドの技は破れた。

「惜しいな」

光の剣をしまって礼治はつぶやいた。

「凄い技だった、俺以外に会っていたらそいつは殺させたかもな」

礼治が不死身になったのはいつの頃だったか。この世界の創世が終わって一万年近く経った後だろう。最初の方は死ぬことが嫌なだけでそろそろ死のうかと思っていた時に近頃出てきた人間が面白いと思ったからしばらくは不死身でいようと思ったのだ。

その点で今回も満足した。

身を投じて戦いに挑む武人というものはもういないものだと思っていた。人間というのは礼治を飽きさせない。『礼治』という名さえ昔の友人の思想の片鱗であったりする。

「……帰るか」

礼治はまた人間が自分を楽しませてくれるのを願った。



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