Creating the World

□14話
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男は語った。

龍……誰でも知っている伝説上、空想上の生
き物。

存在したという記録はないといえばない。だが『いなかった』と断言できるものはいないだろう。存在したかも知れないからだ。龍に限らず、伝説上の生き物はこういった風にひどく曖昧なのだ。

ただ、この男が言うには龍は『いた』らし
い。

実存は本質に先立つ、という言葉が頭によぎる。

それでも私は嘘であると思っている。でないと、私は目の前で起きている現実を受け入れてしまうことになるから。

「まぁ、昔にいたかいなかったなど些細なことだ」

問題なのは現在どうなのか、ということ。雲頸は龍の血を引いていると言った。彼の言い分は次のようなものだった。

「龍は繁栄していく人間を羨ましく思った。崇拝され、満足していたはずなのにそれなのに満足できなかった。自分には人間のように自然の美しさを詩に書くことも家族と夕食も共にできない。

あるのは人間が恐れる巨大な力と身体だけ。飽き飽きしたのだろうな。あるとき龍は巨大な力を使って自分を人間にした。

もちろん人間となって力は確かに弱くなったが全てが無くなったわけではない。それほどに龍の元々の力は強力だった」

そして時を経て、子孫の末裔が雲頸だという。

「あぁ、それと力を持っているのは私だけだ。どうも長男に力は受け継がれるらしくてな」

父であった人も雲頸が生まれてから急に龍の力を失ったとか。

「さて無駄話はここまでのようだ」

私も剛も話しを聞いていた。おそらく剛がケガから立ち直れるまでの時間を作ってくれたのだろう。

この男は何故敵の傷が治るのを待ったのか。

「俺に逃げろと?」

よろよろと立ち上がる剛。金色の瞳はまだ闘志を失ってはいない。

「その通りだ。私とて無駄な殺生はしたくない」

そう言って嗤った。

殺したくないのではなくて自分を恐れて逃げる様を嗤いたいのだ。

「お断りだ」

吐き棄てた言葉は紛れもない本心。

「残念だよ」

雲頸の拳から炎が上がる。一歩一歩確実に剛に詰め寄る雲頸。先制するのは剛だが、突き出した右手はいとも簡単に捕まえられる。雲頸の拳がまっすぐに向かった。



剛の身体がそれこそ死んだんじゃないかと思うぐらい曲がった。



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