Creating the World

□11話
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檻は気がついた時には一人だった。


何故そうなったかは覚えていない。ただそこをたまたま通りがかった神社で倒れているところを神主に拾われた。

その記憶は鮮明に残っている。身寄りのない自分に彼は何の迷いもなく手を差し伸べてきた、その優しさが身に染みているからだ。



「おぬしは何がしたいのだ?」

その時、自分には名前がなかった。

「神主様みたいになりたいです」

「それは無理じゃな」

彼は笑いながらそういった。

怒ったものだ、子供は夢を一蹴されたのだから。

「おぬしはおぬしにしかなれぬ。だからどんな自分になりたいか、それをこれから見つけていくのじゃ」

「……分かりません」

「そりゃそうじゃ。わしだってこの歳になるまでよくは分からんかった。ただこうしていることがわし自身であると思えるように思えたのじゃ。まぁ、まだおぬしには分からんじゃろうな。

これからじゃ、これから」

この会話の後、命の恩人は病にかかり、この世を去った。

ただ死に顔が満足そうだったので檻は何を言わなかった。

そして思った。

自分もこんな顔ができるようになってから死にたいと。

命の恩人のモットーは他人を助け、他人に迷惑をかけるな、だったので見習うことにした。事実彼は檻のように身寄りのない人を助けた。ただ死の床を見届けさせたのは檻だけだった。

よく言われた。自分には才能があると。だから仏教もならったし、神主が若い時に京都からこっそり持ってきた陰陽師の書物も熟読し、マスターしてしまった。

全国を自分の足で歩き、幾人もの霊を成仏させることができたし、世俗を離れてこの村で住職をやってきたのだ。



「分かった。余命を楽しく生きさせてもらう」

「理解が早いのですね」

「いや、ただ…」

もうこれ以上この世界にいてもすることがないのだ。

保険としてあの術式を張り巡らしていただけで自分には残すべく物はなにもない。これ以上考えることもない。

「本当に人間というのは不思議な生き物じゃな」

考えたところでやりたいことがないのだ。つまり死を前にして初めて気付かされた。

自分は満足しているのだ。

「こちらの台詞です」

ざっという音がしたかと思えば香は檻に背を向けて帰ろうとしていた。

「あぁ、達者で」

何事もなかったかのように檻は香を送り出した。

「……人間が不思議というかあなたがおかしいだけです」

聞こえないようにそうつぶやき香は走り去った。


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