Creating the World
□最終話
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二分は経った。
動かなかった、歌恋は。動けなかった、雲頸は。
「殺しはしない。けど、動けないようにはする」
魔法使いから判決が言い渡された。
普通の超越者同士の戦いなら殺さずに相手を動けないようにするまで痛めつけるのは不可能に限りなく近い。ただし、両者の力に大幅な差がある場合は別である。
「戦うしかあるまい」
元より雲頸に逃げる気はない。どんな強者であっても逃げることは恥じであると考えているからだ。しかも今回は相手が殺さないと断言までしてくれている。ならば隙を狙って殺すしかないだろう。
また木が倒れた根元が朽ちていたのか定かではない。ただ倒れたという事実だけが存在している。
「全く、厄介でならない」
雲頸は素早く前に動いて避ける。続いて風が吹く。砂埃が目に入る。
「立ち止まっている暇はない!」
思わず動きを止めてしまった雲頸だがすぐに動き出した。敵の隙をつくのに自分が隙を作ってどうする、自分を叱咤した。その時、今度は五本もの木が自分を中心として襲い掛かってきた。
受け止めるしかない。瞬時に結論を出して雲頸は身構えた。
「ぬん!」
受けきった。だがその重さはいつまでも耐えられるものではなかった。突如、木が燃え始めた。雲頸が焼いたのだ。
「危なかった……」
事実だ。さすがにあの重さに耐えられなかった。考えがあと一歩及ばなかったならばそこで押し潰されていただろう。疲労が溜まる。また歌恋との距離が縮まっていない現実も頭を悩ませるものでしかない。
「ほっとしない!」
歌恋がそうつぶやいた瞬間、雲頸の足元が崩れた。理由などいらない。起こってしまうのだから。
「くそっ!」
もう完全に逃げ場はない。
瞬間、突風が起こった。
雲頸のすぐ隣からだった。突風というよりむしろ暴風というほどの威力を持っている風が巻き起こったのだ。理解するのには時間がそうはかからなかった。暴風の中心にクレータができていた。
隕石だ。
地球に降ってくることすら希であるというのに当たりかけるとは何百万分の一の確率に遭遇してしまったものである。それを可能にしたのも全ては雲頸の目の前にいる少女の力だった。
バタリ。
雲頸が力の差を見せつけられ自分の死を覚悟した直後、歌恋が倒れた。
「あ、れ……?」
身体が動かないのを歌恋は不思議に思った。まだ痛めつけるほどに至ってない。隕石も何故か外れてしまった。まずい、殺される。動かないからだにそう訴えても返事はなかった。
「初めてなのに力を使いすぎたな」
マジックのランクが強い言われは強大な力と反動のなさ。ほとんど反動がないと言ってもいい。しかしあくまでもそれは慣れてからの話だ。誰しも練習なしには力は使えない。急に当たらずとも隕石を落とすような奇跡を成し遂げたのだから歌恋が倒れるのは必然だった。
「世話を焼かせてくれたな」
足音が近づいてくる。止んだと思うと雲頸は歌恋の側で立っていた。
「しっかりと殺してやる」
拳が挙げられる。
この時、雲頸は忘れていた。助けた本人である歌恋でさえも気付いていなかったのだから気付くのは無理といえばそこまでだが、本当に間抜けなほどに彼の存在を忘れていた。
ゴクン。
雲頸は止まった身体を不思議には思わなかった。むしろ、自分を責めたぐらいだ。
ゴクン。
やっと身体と思考がつながった。
ゴクン。
身体を思いっきり振り回したときにはもう彼は後ろに下がっていた。
「ご馳走様でした」
手で口に付いた雲頸の血を拭いた鬼はそう言った。
「……血を飲んだのか」
もう少女のことは今度こそ放っておいて問題はない。雲頸はそう考えた後に改めて少年と向き合った。
「にゃははは!」
この場には似合わない、けれどその活気に溢れる笑いは雲頸にはただの恐怖だった。
「自己紹介がまだだったっけ」
何かに満たされた狡猾な笑顔を浮かべながら少年は言った。
「南波 剛。吸血鬼だ」
彼の金色の目は眩しかった。
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