Creating the World
□16話
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「まずいな」
早く動く術を持たない礼治は大儀そうにつぶやいた。
超越者同士の戦いは仕留めるか、仕留められるか。そういう戦いだ。一度刃を合わせたなら否が応でも自信の能力を晒すことになる。
次に襲われる時に不利に働いてしまう。超越者といえどもその身は人のそれと大差ない場合が多い。次に会う時には拳銃などの遠距離武器により一撃で殺されることになる。最初から遠距離武器を使わないのは相手の能力が遠距離武器を反射するものだった場合を想定しているからだ。
今回もその例に漏れることはない。自分と香は大丈夫だが真姫や歌恋はもろい。剛なら一発ぐらいなら受けても大丈夫だろうがミサイルでも打ち込まれたらやっぱり殺されるだろう。
故に情報を持ち帰られるのは非常に困る。だから礼治は意地でもここでクレイドと決着をつけなければならない。クレイドが真姫や歌恋のことを知っているとは思えないが知らないという保障もないから。
「久しぶりだけど、契約は消えることはないし、呼ぶか」
礼治は不死身である。先ほど自分で神だと述べていたが間違っていない。この世界を創った天地創造の力というものを有している。不死身もこの力に起因する。
およそ九割の力を使って世界の時という概念を捻じ曲げているため、礼治は歳をとることも知らなければ、身体が朽ちることもない。
そして神が持ちうる力はこれだけではない。
「―我は道を開くものなり。古の契約の元、彼方の地から刹那で駆け、我が前にその姿を現せ」
四方が光で満たされる。光が収縮した時、現れたのは馬を豪華に装飾したような生き物だった。
「久しいな、麒麟」
黒いそれは麒麟と呼ばれた。
「あぁ、友よ。時に今回は何ようか?」
「俺の脚となって欲しくてな」
麒麟。
中国の伝説上の生き物だ。目の前の麒麟は特別だ。角端と呼ばれる黒い麒麟は他の色の麒麟よりも優れているといわれる。人語を理解し、一日にして地球を回る足を持つ。
「全く、いつもと用事が変わらぬな」
礼治は現実、少なくとも存在が確認されていない生物の何体かと契約を交わしている。昔に彼らを倒し、自らを主と認めされることによって。
「逃げ切れたか?」
肩で息をしながらクレイドは傍にあった木に背を預けた。戦場から逃げるのは癪だが死んでしまっては意味がない。
役に立つと決めた。
クレイドには昔、剣の道に導いてくれた友がいた。友は外国からやってきた自分に始めて声をかけてくれた。一般人だった。それでも普通の人間よりかは強かった。何故強いのか、と問うた時に彼は『じいちゃんが剣の使い方を教えてくれた』と答えた。興味があったので自分も習ってみたがあっという間に、というか能力のせいだが、友よりも上手くなってしまった。
立つ瀬がないと彼は笑って済ましてくれたのが支えだった。
楽しかったあの日常は一人の超越者によって壊された。
道場破りという名の殺人鬼だった。自分が買出しから戻ってきた時には道場は血にまみれていた。
仇は討てた。自分の方が強かった。
その後、駆けつけた警察とは違う格好をした集団から聞いて、知った。国連の裏『月』なる組織があることを。誘われた、もちろん加入した。
野良の超越者を狩ることで守れなかった人が守れるなら、それでいいと思ったからだ。
「見つけた」
ほっと緩んだ気持ちが締め付けられた。声は木を隔てて聞こえた。
木を盾にして覗き込んだ先には見慣れない生き物に乗った礼治の姿があった。
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