書
□帰省シリーズ
1ページ/10ページ
*伊丹、ただいま帰省なり*
最近無性に一人が寂しく感じる。
長引いたどでかい事件が解決して気が抜けたのだろう、無性に実家に帰りたくなった。有り余った有給を取りすぐさま一週間分の荷物を用意して実家に向かった。
「あれま、突然どしたとね?」
「別に・・・有給有り余ってっから、使っただけだ」
「連絡くらい入れなさい、父さんまだ帰ってこんとよ」
「親父に会いたくて帰ってきたわけじゃねぇ」
久しぶりの帰省に嬉しいのか目を輝かせまとわり着いてくる母を一睨みして自分の部屋に向かう。
「・・・・・・」
部屋に残しておいた家財はそのままだった。あれだけ処分しておけと言ったのに、俺が家を出た日のままになっている。
「憲一、あんたいい人見つかった?」
「見つかってたら連れてきてる」
「・・・まだ見つからんと?老後どうするとね?」
「まだそんな歳じゃねぇよ。仕事が恋人な俺に女が出来ると思うか?」
「ほんとは欲しいくせに」
「・・・・・・うるせぇ」
部屋を出て台所に向かう。ちょうど晩飯が出来たのだろう、おかずがいくつも並んでいた。懐かしい匂いに腹の虫が鳴き、耐え切れなくて煮物を一つ摘むと背後から拳骨が腰に降ってくる。
「い゛っ・・・」
「なぁに摘んどると!・・・っとに昔から変わらんねぇ」
「・・・うまいよ」
「当たり前でしょ!」
机に置いてあった新聞を広げたところで、渋い親父の声が聞こえた。どうやら帰ってきたようだ、昔と変わらず母が親父を出迎えに行く。
「おかえり、憲一帰っとるよ」
「お、めずらしいな。明日は雨か?」
「帰ってきて早々おかず摘んだ」
「変わらんなぁ」
二人して笑いながら居間にやってくる。暖簾をくぐってきた親父におかえりと声をかければ、頭を撫でられる。恥ずかしさのあまりその手を叩いてしまった。
「やーめーろー」
「相変わらず一匹狼か、その悪人面も老けただけじゃ和らがんな」
「うっせぇわ、親父に似たんだよ」
「俺の血を引いてる証拠だな」
読んでいた新聞を取り上げられ親父を睨む。
「帰ってきてまで仕事すんな。どうせ事件がないか見てたんだろ」
「テレビ欄見てたんだよ」
「テレビ欄はここだぞ?こんなに大きく広げるはずが無い」
勝てる気がしないのでため息を吐く。そこにおかずを持った母がやってくる。
「ご飯にしようか。二人ともお腹減ったでしょ?」
「「・・・・・・」」
「意地張らない。食べないの?」
「「食べる」」
「ははっ・・・親子だねぇ」
母一人で準備しているのを見て、今更申し訳なく感じいそいそと手伝いなんぞをしてみた。
「憲一・・・あんた」
「いや、今更だけど何か申し訳なく感じt「熱でもあるの?」・・・は?」
母を見て唖然とする。俺の行動に驚いたのか親父まで台所に来て心配そうにする。あれ?俺なんか変なことした?
「憲一が母さんの手伝いをするなんて・・・明日は嵐が来るな」
「おい、それどーいう意味だ」
「あぁぁあぁぁ・・・どうしよう・・・ご先祖様〜!!」
和室に走りこんだ母を見送りため息。親父がポンポンと肩を叩いてきたところをみると相当俺の行動がめずらしかったらしい。
「どうすりゃよかったんだよ・・・」
「久しぶりに帰ってきたんだ、全部母さんに任せとけ」
「ハァ・・・」
暫く帰ってこない母をそのままに親父と二人で飯を食う。特に会話もなく静か過ぎる空間だったがそれが何とも心地よかった。
「風呂入るか?」
「ん・・・お先どーぞ」
「いや、お前先入れ。ちょっと母さんと話あるから」
「じゃあお先」
着替えを持ち風呂に向かう。温度を確認してゆっくり湯に浸かると疲れが取れていくのがわかるくらい気持ちよかった。広々とした風呂、ガキの頃は友達誘って一緒に入ってたっけか・・・。
「憲一〜生きてるか?」
「・・・あ?」
扉を開け顔を覗かせてくる親父を睨み何用かとたずねる。何かあったのか?
「お前、長風呂派だっけか?もう一時間以上経ってるぞ」
「え、まじでか。すぐ出る」
普段こんなに時間かけてまで入らないのに、一体どうしちまったんだ俺は。早く出ようと立ち上がれば湯気が立ち込める浴場に冷気が入ってくる。
「ちょ、早く閉めろって。さみぃだろ」
「立派になったな」
あきらかに下半身を見て呟く親父にお湯をかける。もう今更だが改めて見られると気まずい。
「いいから閉めろ、寒い」
「昔はあーんなちっこくぶらさがってたのになぁ・・・」
「おい、聞いてんのか!寒いっての!」
「かあさーん、憲一立派になったぞ〜こりゃもうすぐ孫が見れるぞ〜」
「母さん、親父連れてってくれ・・・いい加減うざい」
しばらくそんなやりとりがあって、ようやく着替えて居間に行くとちょうど母がビールを持ってきた。
「飲むでしょ?」
「ん、母さんも飲めば?」
「私はいい、最近おいしくないの・・・歳かねぇ」
苦笑いを浮かべ呟く母を、ビールを飲みながら眺めていた。最後に見たときよりだいぶ痩せてシワも増えた。でも笑顔は昔と変わらない。
「あっ憲一だけずるいぞ〜母さん俺も〜」
「自分で取れよ、母さんパシんな」
「なんだよーお前は取ってもらって俺は自分でやれってか〜えらくなったもんだなぁ」
結局母さんにとって貰ったビールを飲むと、机をトントントンと三回叩く。親父がこうしたということは・・・
がらがらっ
「ただいまぁ」
聞きなれた昔と変わらない女らしさのない気だるい声。妹だ、ドサドサと荷物を置く音が聞こえる。あいつも帰省か。
「あれま、兄ちゃんも帰ってたとね?おかえり」
「おう、お前もおかえり」
昔から習慣づいた軽いハイタッチ。今回も軽いかと思ったらもの凄い力で驚いた。
「おまっ・・・喧嘩売ってんの?」
「へへっ兄ちゃん見てたらイラついたわ」
「なんだそれ」
妹の頭に軽いチョップを入れ、伊丹家全員が揃った。さて、何から話そう?
「二人とも仕事はどう?」
話題を探していたら母が話を振ってきた。よりによって仕事の話かよ・・・
「あたしははかどってるよーもうばりばり!」
「憲一は?」
「・・・仕事を与えてくれる全国の犯罪者に感謝」
「しちゃだめでしょ、ちゃんとご飯食べてるの?」
「家事に至ってはもう主夫並みにばりばり」
「だからさっき手伝おうとしてたのね」
「先祖に報告すんな」
「兄ちゃん彼女は?」
「いる」
「「「嘘付け」」」
「・・・・・・」
なんだこいつら。一人身がそんなにいけないことか?
うだうだと話しているうちに眠気がやってくる。皆より一足先に寝て、次の日からは俺が色々パシられる事に・・・まぁ、久しぶりに家族とふれあうのも悪くないと思った。一人は寂しいが、毎日家族といてもイラついてくるだけで・・・もちずもたれずな間柄が一番いいと実感した帰省だった。
「じゃ、帰るわ」
「今度帰ってくるときはちゃんと連絡いれなさいよ?」
「覚えてたら・・・」
「覚えとけ」
「兄ちゃん、今度遊びにいっていい?」
「向こう何も無いぞ?」
「たいした趣味もなく一人身でかわいそうな兄に金を使わせてあげようって」
「お前なぁ・・・さりげなく失礼だぞ」
「芹沢君紹介して」
「あのヘタレはやめとけ(俺のだから)」
「ヘタレにヘタレ言われたくないと思う」
「芹沢め・・・覚えてやがれ」
最後の妹の言葉の棘を胸に残したまま、自分の家に帰ってきた俺は芹沢を家に呼ぶ。
「先輩?なんすか?」
「ただいま」
「あ、おかえり」
ヘタレ犬に抱きつくとよしよしと頭を撫でられる。それが何とも心地よくて自分からは絶対にしなかったキスをお見舞いしてやった。
「・・・いただきます」
「ごゆっくり・・・////」
ちぎれんばかりに尻尾を振った芹犬に押し倒され、俺は今度実家に帰るときは芹沢も連れて行こうと考えていた。妹に取られないように、俺のモンだと宣言するために。
「憲・・・俺を一週間もおいてけぼりにして・・・」
「悪かったよ、これからは鬱陶しいくらい構ってやるから」
芹犬の頭を撫でて、俺たちは愛の波に飲み込まれた。
END