マギ

□私だけ
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気分が悪い。

胸が苦しい。

耳を塞いで目を瞑る。

シンの元に急に訪ねてきた娘。

目的は、たぶん、

「シンドバッド様!わ、わたくし、貴方のことをずっとお慕いしていましたの…。」

良い身分の娘のようだった。

顔も悪くないし、性格も良さそうな子だった。

(ああ、シンに告白するのか。)

そんな場面は見たくない。シンが告白される所など。

シンも満更でも無さそうなのがもっと私の胸を苦しめた。

シンの部屋に入りたくても、入れない。

「俺を?」

「ええ、わたくし、シンドバッド様が好きです。」

(やっぱり。)

ドクンドクンと心臓が跳ねる。

聞きたくないのに、こんなこと。

「…そうか、それは嬉しいな。」

がたん。

私は持っていたお茶の置いてあるお盆を落とした。

しまった、と思ったときにはもう遅くシンは驚いた顔をして私を見た。

「も、申し訳ございません。お二方。お茶をお持ちしたのですが…。し、失礼、します。」

シンの顔が見れない。

お辞儀をしてそそくさと片づける。破片が飛んでしまったのか私の足は血が流れていた。

上げていた裾をおろし、腕まくりも直して布巾で床を拭いた。

コツコツと足音が近づいてきて、ドクン、ドクンと大きな音を立てた心臓はとてもうるさかった。

「ジャーファル、おまえ、」

「すいません、すいません、ごめんなさい。」

「おい、ジャーファル」

「で、出てきますから。」

「話を聞け!」

怒鳴るシンに私は驚いて体が大きく跳ねた。

「あ…、っ…」

震えが止まらなかった。シンに嫌われたのではないか。

ずっと扉の前にいたなんて知ったら、いや、たぶん分かってた。

「シ、シンドバッド様?」

「悪い、怒鳴ってしまって。」

「シンドバッド様ってば…」

「ジャーファル、平気か?痛むか?」

シンは娘の言葉に耳を傾けることなく私の傷を心配した。

「っ、シンドバッド様!わたくし今日の所は失礼しますわ!」

ドタドタと音を立てて、私をギロッと睨むと出て行ってしまった。

「シ、シン、良いのですか?あの方が…。」

「そんなことどうでもいい。足の傷を見せなさい。」

大分深く刺さったようだ。私の足は血が伝っていた。

「っ…。」

「酷いな…。」

「あ、あのっ、シン…?」

シンは私の足をまじまじと見つめた後、足に伝う血を舐め始めた。

「!?シ、シン!!駄目です!汚いですから!や、やめっ…んっ…」

嫌なのに、汚いから止めて欲しいのに、それでも止めて欲しくない。

矛盾している気持ちがぐるぐると頭の中で回った。

「汚いことなどあるものか、ジャーファル、お前の血だぞ?汚いわけがない。」

そう言うとシンは傷口をじゅっ、と音を立てて吸った。

「ひっ…、シ、シン、もう平気です、か、ら。」

実を言うと痛くてたまらなかった。

深く刺さった破片は取れたものの、痛みはなくならなかった。

(心も、いたい。)

「ジャーファル、俺の可愛いジャーファル。」

まるで子供をあやすように私の髪を優しく掬い上げては撫でる。

「シン、もう、」

(私を苦しませないで。)

「ジャーファル、ごめんな。嬉しいなんて嘘だよ。」

やっぱり私が扉の外にいたのは気がついていた様だ。

「嫌です。私、シンが、シンが他の人間に触れるのが、」

「俺もジャーファルが他の奴に触られるのも、触るのも嫌だ。」

「しない、しません、だから。」

「ああ。」

「私だけ、見てください…っ…」

「ああ。」

「シン、シン、」

「ジャーファル。」

シンは私を力強く抱きしめた。

その体温が暖かくて、凄く幸せだった。

「私だけに、触れて下さい、シン…。」

「愛してるよ、ジャーファル。」

シンはそういうと私に深いキスをした。

少し、酒の風味がしてくらくらする。

「告白、断って下さい、ね。」

あの女性には悪いけど、シンは私だけ、だと思うと笑みがこぼれてきそうになった。

シンにキスをされたら不思議と胸の痛みが消え去った。

足の傷はシンが包帯を巻いてくれた。

床に落とされたままのカップに目もくれず、ただただシンとのキスに溺れた。

(この時間が、永遠になれば良いのに。)

叶うことのないことを願いながら、シンも同じ事を考えてくれていたら、そう思いながら私は目を閉じた。








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嫉妬するジャーファル!これは紅玉に対してではないけど、紅玉に対して嫉妬しててくれたら嬉しい!

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