マギ

□王と私。
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シンが結婚することになった。

相手は良い身分の姫で、シンドリアに対しても好条件な持ち掛けだった。

それを聞いた私は倒れそうになったが、よくよく考えてみれば当たり前なのだ。

(王が臣下と?ありえるわけがない。あっちゃいけない。)

ましてやわたしは男。子も孕むこともできない。それはシンの跡継ぎがいないという事。

「…ァル、」

これが、国にとっても、シンにとっても、私にとっても、幸せ、なんだ。

最善策なんだ。そうやって私は自分の感情を押し殺した。

「ジャ……ル、」

「…」

「ジャーファル!」

急に聞こえたシンの声。シンはムスッとして私を見ていた。

「っ!シ、シン!?どうされたのですか!?」

「どうされたのですかじゃないだろう。何回呼べばいいんだ。」

どうやらシンは私のことを呼んでいたらしい。

(その、私を呼ぶ声も、もう、)

「…すいません、なんでしょうか。」

シンは一息、はあっ、と溜息を吐くと、胸に手をしばらく当ててから真剣な目つきをして私を見つめた。

「…ジャーファルは、結婚、どう思う。」

何を聞いているんだ、この人は。

どうして、私に。

そんなの答えられるわけ無いだろう。

(本当はしてほしくないなんて言える訳無いのは、分かってるだろ。)

だから、また、この感情を殺して、沈めた。

「何を聞くのですか?我が王よ。結婚はすなわち、貴方の次の世代を担う子ができるということ。それに身分の良い姫じゃないですか。我らがシンドリアの景気だって、」

「本当に、そう思っているのか。」

なんで、なんでだよ。言える訳ないんだよ。なのに、何でこんな辛い思いをさせるの。どうして言わせるの、シン。

あなたは残酷すぎる。

本当はまだ、触れていて欲しいし、私の名前も呼んで欲しいし、その長い髪を解かせて欲しいし、キスだってして欲しい、思い出話だってしたい。

でもそれは叶わないんだよ。絶対に。

それを、なんであんたは。

「ええ、当たり前、じゃないですか。」

「お前は俺が結婚して嬉しいのか。」

「っ、だって、」

私の中の感情が溢れだした。抑えていたのに、

ああ、またシンの思い通り。最後まで私は貴方の臣下でしかないんだ。

「言える訳無いだろ!?私だって、私だって嫌ですよ!!当たり前だろ!?どれだけ、どれだけ私が自分の運命を呪ったかあんたに分かるか!?」

はあはあと息を切らし叫んだ姿は貴方にはどう見えているのだろう。

シンは驚いた顔をして、私の肩に置いていた手の行き場に困っている。

「ジャーファル…、ごめん。」

「…王の貴方と部下の私、はは、思えば元からおかしいんですよ。」

嫌だ。

「っ…」 

「貴方は私に好意なんて抱いていなかった。」

止めろ。

「違う!!俺は、」

「酒の勢いなんでしょう?」

「ジャーファル、」

駄目だ。止めろ、本当はこんなこと、思ってない。

シンのこと信じてます。私は、あのときの好きだという言葉も。

違う、こんなこと、言いたくない。

ごめんなさい、シン。

でも、せめて、

「貴方に結婚していただけて良かったです。シン。」

私のことを、嫌いになってから結婚して、

「っ…ジャーファルっ…!」

「…シン、私は明日からただの部下。貴方の臣下。もう肌を重ねることもできませんし、私の名を呼ぶ機会も減るでしょう。だから、今から言うことは、全て忘れてください。」

この選択であっていたのだろうか?嫌いになって欲しいと思った反面、貴方にずっと好きでいて欲しい、愛して欲しいと欲がでる。

だから、今、思いの丈を話すことにした。

「…私は、…私は貴方に出会えて良かったです。」

「ジャーファル、俺な、」

シンが何か言い掛けたが私は話を続けた。

(だって今下手に貴方の話を聞いたら、決意が揺らいでしまうから。)

「貴方が私を救って下さったのです。手を差し伸べてくれたのです。…酒癖は悪いし、仕事もろくにしてくれない王でしたが、私は、」

「シン、あなたが大好きです。それは、今も。」

言ってしまってから少し後悔をした。

(これを言ったら、ずるずると私は引きずってしまうのではないだろうか。)

「…っ、ジャーファル!」

シンは私を抱きしめた。

シンのその温もりに触れられなくなる。

「シン、シンっ…ぅ、ああっ…!」

「ごめんな、ジャーファル、ごめんなあっ…!!」

シンのその優しさは私以外に向けられる。

「シン、好きです、っぐ、愛してます、ふっう、」

「愛してる、ジャーファル、愛してる、っ、」

もうシンには、

「…、シン、最後、に抱いて下さい。私を、私をどうか、」

「今晩だけ。一緒に話をしましょう、それから、一緒にお酒を飲みましょう。それと、私の服を選んで下さい、えっと、あとは、シン、あの、」

私は少しでも貴方と長くいたい。だからこんなにたくさんの事をしたいと欲張った。

もうこの関係がなくなってしまうなんて信じられないから。

信じたくない、から。

「ジャーファル、お前の好きなことをしよう。酒も飲もう。お前を抱こう。何度でも愛してると囁こう。」

ほら、最後まで優しくしてくれるシン。

だから離れられないんです。もっと、もっと突き放してくれればいいのに。
だから王と臣下だということも忘れて貴方を愛してしまうのです。

「でもね、シン。明日の朝には、全て忘れましょう。」

私たちにはその約束があった。

今どれだけ愛してると言ったって、明日の朝には忘れなければならない。

本当に残酷なのだ。愛し合った過去でさえ消し去れと言うのだから。

「分かった、でもな、ジャーファル、」

「なんでしょう。」

「忘れても、俺は思い出すかもしれん。」

「はっ…?」

「明日の朝、この事を忘れたとしても朝食を食べ終える頃には全て思い出すよ。俺は。」

(なんていう屁理屈…。)

でも、それは彼なりの優しさだと分かっていたから、

ありがとう、シン。

「…どうですかね。」



















「おはようございます、シン様。」

「んん、…おはよ、う。」

「良いお目覚めですか?」

「んー…、そう、だな。」

「はは、浮かない顔なんかして。シン、そんな顔では姫に嫌われてしまいます。」

嫌われてしまえばいいのに、私の元へ戻ってきてくれればいいのに。私の中にはそんな真っ黒な感情が沸々と沸いてきた。

(だめだ、だめ。)

「そうだな、嫌われてしまうな。…ジャーファル、」

(ああ、またそうやってすぐに名前を呼ぶのですね。)

「…はい?」

「俺はお前のことを嫌いにならない。覚えておけ。」

どうやらシンにはお見通しだったようだ。私の考え、全てが。

でもね、シンもう手遅れなんです。私達は、いえ、私達の恋はもう終わりです。

「はは、シン、何をおっしゃるかと思えば。…臣下です。私は。好き、嫌いなどどうでも良いのです。ねえ、シン。」

私は今日からただの部下。そう言いましたよね。

「ジャーファル、俺はまだお前を愛している。」

「ほら、式の準備をしましょう。ね。」

「今も変わらず愛しているよ。ジャーファル。」

「ああ、シン!今日はとても天気が良いですよ!!」

「ジャーファル、」

「っ…シン、私も、」

私は簡単に昨日作った掟を破った。

ごめんなさい。ただただ謝った。ただただ、自分の運命を呪った。

「さあ、シン、みんなが待ってます。行きましょう、」

「ああ、」

「…この扉を開けたら、もう、」

「ああ、」

そう、シンのこの部屋から出た瞬間に私たちは、

「愛してます、シン様。」

「ああ、愛しているよ。ジャーファル。」

私たちは扉を開く前にキスをした、それから、抱き合った。

こみ上げてくる涙をきゅっと下唇を噛んで我慢した。

「…行きましょうか、」

「…そうだな。」

ぎいっと音を立てて開いた扉。
我慢できなくなって涙が二筋こぼれた落ちた。

そらはシンの手の甲に乗った。

シンはそれに気づくとニコリと優しい笑みを浮かべて私の涙をなめとった。
そんな表情も見れなくなるのかと思うと寂しかったが私は扉を全開にして一歩、踏み出した。

「姫君がお待ちです、急ぎますよ、シン。」

「ああ、分かっている。」

さよなら、私達の恋。

寂しいけれど、貴方のためならそれも幸せ。

シンに出会えて本当によかった、それだけでも伝えられたなら幸せじゃないか。

私はシンの後ろを一歩づつ、歩いた。

(あと三歩歩いたら何もかもリセットしよう。)

(一歩、二歩、)

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