マギ

□merryXmas
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雪はしんしんと降り続けた。

12月25日。

そう、世間はクリスマスで賑わっている。

この王国、シンドリアでも宴は行われていた。

その宴は長く、長く続いた。

一国の王、シンドバッドは酒を飲んで完璧に泥酔している様子だ。


(クリスマスなのに。ムードも何も、)

「シン、シン起きてください。」

シンドバッドが寝てしまってから宴はお開きになった。
ヤムライハやシャルルカン、マスルールに片づけを手伝ってもらい、早々に片づいたところであった。

「シン、自室で眠ってください。片づけも終わりましたから。」

うーん…。と唸って頭の位置を変えたシンドバッド。

ジャーファルは諦めて「では、ここで寝てくださいね。」そう告げると部屋を後にしようとした。







※ジャーファル視点



シンが酔いつぶれるのはいつものこと。寝てしまうのもいつものことだ。
(今日は起きててほしかった、なんて。)
クリスマス、などというイベントに期待した自分が馬鹿らしくなった。

「シン…。」

起きてくれないか。そう願いつつ、私は部屋を後にすることにした。

「ジャー、ファル」

「え?」

くるりと振り返ると眠そうに目を擦るシンの姿が。

「シ、ン?」

「ジャーファル…。」

「…ッ、シン!貴方って人は全く…!」

文句を言ってやろうと思ったのに、貴方のその瞳に見つめられると何もできなくなるのです。

(私はこれほどまでに貴方に、)

「悪いな、後片付けも、仕事も。」

「そう思うのでしたら禁酒でもしたらいいのでは?今も眠たそうじゃありませんか。」

私は遠まわしに寂しかった、と言ったつもりだった。

「禁酒は辛いなぁ。それは勘弁してくれ。」

シンはそんなこと全然気付いてなくて。

(私より酒なのですか。シン。)

「もう結構ですよ、シン。アンタに期待した私が馬鹿だった。」

言ってしまってから後悔した。自分で喧嘩になるような一言を言うなんて。 

(怒鳴られるかもしれない。)
「…ジャーファル…。」

途端、ぎゅっと私の身体は締め付けられた。

シンの腕に。

欲しかった体温が私の身体に伝わった。

触れたかったその長い髪が私の肩に掛かった。

「シ…ン…?」

「ジャーファル、すまない。」

突然上から降ってきた謝罪の言葉。

「な、何をおっしゃるのです、私が出過ぎたことを申し上げたまでのこと。貴方が謝ることはないのです。シンドバッド王よ。」

「違う。」

身体を離されてその瞳にしっかりと見据えられる。

(また、この目。)

「俺は最低だ。恋人に、自分の恋人にクリスマスだというのに何もしてやれなかった。すまない。ジャーファル。」

「っ…」

「俺を叱ってくれないか。」

これは命令ですか?希望ですか?

貴方の命令は絶対です。
貴方の希望であるなら、私貴方を叱らない。

所詮は政務官。政務官が王に意見することなど、到底、

「それは…命令ですか。」

「ああ。」

その返事を聞いたとたんに私の中の何かがキレた。いや、切れたのです。

「っ、アンタはっ…!!俺が!どんな思いで今日過ごしたのか分かってるのか!俺がいるのも忘れて酒に溺れて!!ふっざけんな!!!…私は、私だけ貴方のことを好きなようで嫌なのです…。」

よしよし、とシンの手が頭の上で行き来する。

(叱ったのに。いや、怒った。か。)

「ごめんな。ジャーファル。好きだ。」

唐突にそんなこと言うから、私は貴方から離れることができないのです。

こんな貴方でも側にいたいと思うのです。

「私も、ですから。」

自然と涙があふれてきた。この涙は何で流れたのだろう。

「シン、シン…」

「愛してるよ。ジャーファル。愛してる。」

こんなに簡単に愛を囁くシンに、女遊び、飲酒が激しいシンに、私はこんなにも溺れているのだ。

(これだから女たらしと言われるのです。)

その言葉が他の者に浴びせられたらと思うといても立ってもいられない私は、シンの酒と同じで、私もシンから離れられないのです。












「(遅くなったけど、メリークリスマス。ジャーファル。)」

「(遅いですけど、許します。来年は、)」

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