SS3
□年越し(2014年ver)
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今年も終わるのか…
よぎっていく今年の記憶はあいつで埋め尽くされている。
イライラしてむしゃくしゃしてぐしゃぐしゃになった薄っぺらい心が、ボロボロと己の奥底に落ちていくのを感じた。
この手でたくさんのものを消してきたのに、掴むことも守ることも今は想像できない。
自分勝手にも程がある。
白い息を吐きながら、今日は珍しく真面目に見回り経路を辿っていた。
大晦日となると夜でも出歩く奴がわんさかいて、その中でいくつかねじの外れた奴が炙り出されてくるもので、それを取り締まるのは暇つぶしくらいにはなるのだ。
「居た…、あの白い肌の色に傘…ああ、間違いない」
そっと耳を澄ませばやはり聞こえてくる危険な匂いのする会話。
これは絶対犯罪関連だろうな…。
白い肌に傘?今さっき思い浮かべたあいつをまた思い出す。
不審に思われないようにそっと周りを見渡したら確かに大きな傘を持った少女は遠くに見えた。警察の自分に気がついたのか今さっき会話をしていた男たちはもう周りには見当たらない。
面倒ごとが起きたな…。
土方さんに連絡するべきだろうか?
だがこれから動いてしまえば1人でもどうにかなるような気もする。
そういえば、今日くらいは近藤さんを非番にしてやろうとどうにか調整していた土方さんだったが、そんな土方さんを一部の奴が思って内勤にしてやっていた。
俺だって非番か内勤が良かったものを…。
ムカつく…けど、だからこそ、こんなことであの土方このヤローに報告するのがとても嫌だ。
しかも犯罪の匂いがするというだけで本当に起こっているのかわからない。
適当な角で曲がると、チャイナが行くであろう道を先回りしてやろうと歩き始める。
先回りとは言えあいつを追い越してはいけない、あいつを追いかけてる奴らに気づかれてはいけない。
慎重に路地裏を突き進む。
「女子供とは言え夜兎だ。注意しろよ」
もう一つの道へと繋がる路地裏を曲がる前の角でまた声が聞こえた。
なるほど、そういえばあいつは夜兎とか言っていた。それがどんなものか、少しは聞きかじっているもののよくはわからない。
力が強いとか、そんなんだった。でもその強さは育てば育つほど巨大なものとなり、惑星を一つ破壊するほどのものとなる。
あのチャイナもそうなるのかは、よくわからないが。
まあ、そうなる可能性があるとしたら恰好の儲け話だな。
そんな化け物を必要とする黒い奴等はどこにでもいるものだ。
そっと近づいてまた耳を澄ます。チャイナを追いかけるあいつらは見張るのに夢中で俺の存在には全く気がついて居ないようだ。間抜けなもんだ。これから夜兎と言われる化け物を捕まえようとしているのに。
そこまでを思ってまたよぎっていくあいつとの思い出。
確かに、バカみたいに食べてバカみたいに下品なことして、でも至って普通の女の子。
女の子って、すごい似合わないけど。
あいつはただの女でガキで
ただのチャイナ
て、変か。
路地裏の曲がり角から奴らの様子を覗き見ようと気配を消し、角から少し顔を出す。
その先にあるのは銃口だった。
「…っ」
何も言わずに睨みつける俺を2人組の奴らはおかしそうにニヤリと笑った。
「気づかないとでも思ってたか?」
俺に銃口を突きつけた方の片割れがもう一歩俺に近寄る。
もう片方はまたチャイナを追いかけるつもりなのだろうクルリと背を向けて歩き始めてしまった。
「気づいてるってわかってついてきてたに決まってんだろィ?そうでもしねぇと年末に仕事なんてつまんなくてしょうがないんでさァ」
からかうように言ってやるとやはりその挑発にのり簡単に隙を作る。その瞬間に自分の刀で拳銃を手元から遠くへと飛ばして危機を回避する。
「あーらら、もう形勢逆転ですかィ?」
余裕に笑ってみせる俺に奴は悔しそうに睨みつけてくる。本当に簡単に逆転してしまった。もうちょっと楽しめばよかったものを…。
喉元に刀を添えて、あと少し手を動かしてしまえばあっさり消せることを想像する。
本当に、そうやってしまうのはあと何秒後なのだろう…
そこでまたチャキっと銃口を添える音が自分の後ろで聞こえた。
「仲間が1人だけだと思うか?」
逆転の逆転らしい。こいつを殺したところで俺は殺されるし、殺さなくても俺は殺されるってか。
後ろの奴がどのくらいのでかさかなんて気配だけで悟れるはずもなく刀を落として降参のポーズをとる。
「もう好きにしてくだせェ。悪あがきってめんどくさくて嫌いなもんでねィ」
「ばっかじゃねーアルカ?」
そんな声が空から降ってきた。
後ろで男が呻き倒れる音と何か大きなものが落ちてきた音がする。もう死の危機は逃れたのだと振り返ると倒れた大男と小さな少女。
透き通った白い肌に真っ赤なマフラーを巻いて傘を肩にかけていた。
何か言いかけようとしたがうまく言葉にならず、とにかく今さっきまで俺に銃口を向けてた最初の男に蹴りを食らわせ態勢を崩したところで手錠をかける。
大男は伸びているようで心配はなさそうだ。
「お前本当に間抜けアルな。何勝手に修羅場やってるアルか。私だったら一発で伸してるアル」
「ハラハラ感がたまんねェんだろィ、わかってねぇなァ」
「メンタル弱いくせによく言うアル。プレッシャーに負けるだけダロ」
なんとでも言えよ。と投げやりに言って刀を腰におさめる。
「お前のために動いてやったってのに散々な言われようだねィ?」
助けに来たはずなのに助けられてしまい、言われた通りメンタルの弱い俺は実際かなり落ち込んでいる…。なんて言って良いかわからないほどだ。
「それは、素直に礼を言ってやるアル…。ありがとう…」
小さな声で嫌そうに呟くチャイナは照れていて顔も耳も赤く染まっていた。
全然うまくいかなかった今日だったのに、それが一気に吹っ飛ぶくらい脳内が浸食されていく
「てか、お前は一応女なんだからこんな夜遅くに出歩くんじゃねェよ」
動揺などしていないというように説教を垂れるとチャイナは気づいてなかったのだろう。
説教に対してぷいっと顔を背けた。
俺はその間に部下たちを呼び出しておいて大男の方も手錠を一応はめておく
仲間はあと1人だったが、まあ、そいつの標的、仲間はもう保護済みとなると逮捕されるのは時間の問題だろう。国外、世界外逃亡されたら終わるかもしれないが…。
パトカーが路地を囲み部下たちが男2人を引きずっていくのを横目に俺はそこらへんのパトカーの後部座席に座りあくびを一つ
窓から顔をのぞかせチャイナの方を見たら事情聴取中のようだ。
俺もどうせ屯所に戻ればされるんだろう。それプラス土方さんからのお説教も覚悟しておかなければいけない。
車の時計を見ると23:45から46分に変わる瞬間だった。年明けまであと15分をきったのである。
コンコンっと窓がノックされたのでそっちを見るとチャイナが不服そうな顔で覗き込んでいた。
窓をあけて肘をつきチャイナを見上げる。
「お前の部下って日本語通じないアルな、どういう教育してるアルカ?」
知らないって言ってるのにずっと聞かれたアル。とご機嫌斜めのご様子だ。
「まずお前が地球外生命物体だしねィ」
その後もギャンギャン吠えていたが右の耳から入って左の耳へと通り抜けていった。
ふと思いついてもう一度時計を見ると年明けまであと10分。
パトカーのドアをあけて外に出るとチャイナの腕を掴み部下や野次馬を掻き分けて普通の通りに出る。
「何アルカ?どこ行くアル?」
人通りが疎らになったところで掴んでいた腕を離し、隣りに並んで歩き始める。
「どこ行くネ?」
「家まで送ってやる」
ここまで言って自分に似合わないセリフにぞわぞわと虫唾が走った。チャイナもそのようだ。
せっかくの優しさでさえ俺には似合わない。
人が少なくなって行き2人だけの帰り道にドキドキしてるのも、本当に似合わない。
戦ってる時に2人っきりであろうと何も気にしないのに。
何もなく並んでいるのは目の前の恋心に目を背けられなくなる。
汚れた手で大切なものに触ることも、段々抵抗がなくなってむしろ触れたくなって…
「好きすぎて気持ち悪りィ」
聞こえてたんだろう。固まるチャイナと言ってしまったからにはもう取り返しはできないと諦めた俺。妙な距離をあけてとぼとぼと歩く歌舞伎町の外れた道。街灯に照らされて怖さは微塵も感じない。むしろロマンチックにも思えるくらいだ。
「お前…な、何」
とチャイナが何か言いかけたところで目の前から走ってくるメガネに気づいて押し黙った。
「神楽ちゃーん!はぐれたから心配したよー。沖田さん見つけてくれたんですね、ありがとうございました」
丁寧にお礼を言われたが俺は後ろめたい気持ちも少々あって、ああ。と返すことしかできなかった。
旦那はなんだか俺の雰囲気に勘付いたようでチャイナを自分の方に引き寄せると、ありがとねー。とヘラヘラ笑っていた。
チャイナは俺の方を見ても何も考えていないのか考えているのかただただ無表情。
あの三人は初詣に行くらしく俺はここから1人見送り携帯を開く。
あ、ちょうど年明けた。
ひとりぼっちの年明けに、来年はふたりぼっちを願った。
年越し(2014年ver)