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□神楽誕(2013ver.)
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今日は何かあった気がする。忘れてる何かが、あった気がする。気になって部屋の角にあるカレンダーを見たが小さく赤字で文化の日と書いてあるだけだった。
周りの人々は祝日、そして俺は今日も出勤日だ。公務員のはずだが警察はかなりのブラックなんじゃないかとあきれながらいつもの見回り(サボり)ルートを回るのだった。
歩いているとふと今時珍しい電話ボックスに目がいった。前からあった古臭い佇まいはなんとなく寂しさを醸し出している。
"プルルルル…"
誰かの携帯?俺の着信音これじゃないし。
"プルルルル…"
公衆電話の前を通り過ぎてわかる。なっているのは公衆電話だ!映画のワンシーンを思い出し誘拐事件を連想させる。
お父さん良いのか?他人が出たら直様ドカンじゃねぇの?見渡してみるも電話ボックスを探して居そうな人間は見当たらない。人通りは普段より多く感じるが、気にしてる風な人間も居ない。
たぶん、今のところ気づいてるのは自分だけ、だろう。
めんどくせェ。
そう思いながら通り過ぎようとしたのに体は好奇心だけで電話ボックスの扉をあけ、そのまま受話器を耳に当てた。
「一番隊隊長の沖田総悟くん、だね?」
受話器の向こうから聞こえたのは機械を通したような歪な低い声。
"めんどくせェ。"その予感は見事に的中した。めんどくさいことがこれから始まるようだ。
何も答えずに受話器の向こうに耳をかたむけると電話の奥で低くクククと笑う声。そしてブシャーッと不穏な音と共に目の前のボックスの壁が茶色く染まった。
「君のことはちゃんと見えているよ。さぞ驚いているようだねぇ。らしくないじゃないか」
また不愉快な笑い声を響かせる。
「滑舌わりィんでィ。なんて言ってるか聞こえねェ」
「君のことは!ちゃんと!見えて!居るよ!さぞ!驚いて!「うるせェ!」
なんだかムカついたのでガチャ切りしてやった。ボックスから出た瞬間にブシャーッとまた不穏な音がきこえて胸元に濡れた感覚がする…。見下ろすとやはり同じく茶色に染められていた。どっから来たかと見渡したが、もう相手は逃げた後だろう。どこにも気配が見当たらない。なんてすばしっこい奴なんだか。
プーンと胸元から漂う香りが鼻につく。
これ、醤油?
匂いと色で正体に気づき舐めて確かめようかと思ったがやめた。気持ち悪いし。
また背後で"プルルルル…"と電話ボックスの電話が主張し始める。めんどくさいがスカーフが茶色に染められた怒りで振り返り受話器をとる。
「てめェ何がやりてェんでィ。クリーニング代よこせクソ野郎」
醤油まみれのスカーフを胸元から外して電話ボックスにかける
「フハハハハ。やっと私の恐ろしさに気がついたのかい?遅い、遅いよ。醤油飲んで死ね」
「てめェが死ね」
「良いのかな?クリーニング代払わないぞ?」
「やっぱ生きろ」
フンッと鼻で笑うような声が聞こえて俺もフンッと笑い返してやった。
「で、どこに行けば良いんでィ?」
本題に入ってやれば相手から明らかな動揺が見えた。何かの資料を取り出し、間抜けた"あ、ちょっと待ってください。"とかキャラが崩壊したことまで言ってやがる。音だけでも地図を確認していることが丸分かりだ。
「いつも沖田さん…あ、君がサボってる公園があるだろう?まずはそこの電話ボックスだ。走れば10分で行けるか?」
「15分」
「あ、じゃあ20分後で」
「お前すげェ腰低いねィ?大丈夫?」
ちょっと心配になったが大丈夫、との事なのでそこで受話器を置いて電話ボックスを出る。
歩いて15分もかからないだろう。のんびりと歩いて10分程度でいつもサボってる公園までたどりついた。
あと10分時間を潰そう。と電話ボックス近くのベンチに向かおうと電話ボックスを通り過ぎる時だった。
"プルルルル…"
本当に監視してやがるようだな。
電話ボックスに入り受話器を耳に当てる。
「早いじゃないか。疲れてないか?もうちょっとゆっくりでも良いぞ」
「気遣ってんじゃねェよ」
疲れさせてんのはお前だろうが。とツッコミたかったがここでなんとなく相手の考えが脳裏に過る。何かから離れさせようとしている?なんのために?
そこがわからずにモヤモヤする。
空いている手でスカーフがなくスースーする胸元を押さえた。
「フフ、寒そうじゃないか。まあいい。次は歌舞伎マーケット2階でダウンジャケットを買って来い。今日は衣類品3割引だからな。買ったら歌舞伎マーケット1階公衆電話で待ち合わせた」
今度は一方的に切られて歌舞伎マーケットまで歩き始める。だからこいつは俺に何をさせようとしてるんだ。皆目検討もつかない。
寒さに背中を丸めながらも歌舞伎マーケットにたどり着く。
なんでサボり場の公園?俺は何から離されてる?大事なものだって何も人質になど取られていない。
なんでこんな事に付き合っているのかというとどこか楽しくなってる自分がいるから。それだけだ。
歌舞伎マーケットで適当なダウンジャケットを買い1階の公衆電話まで
またもタイミング良くなる公衆電話
慣れた手つきで受話器をとる
「ちゃんとサイズはあってるだろうな?」
出てからすぐこれだ。相手も慣れて来ているのだろう。
「知らねェけど買ったぜィ?」
「寒いだろう?着ろ」
「なんの気遣いでィ!」
ついツッコミながらも寒かったからダウンジャケットを羽織る。
真冬の洋装だが寒いよりマシだ。
「腹減らなかったか?」
ここからまた気遣いばかりで、昼食→ジムでプール25m(水着が何故か用意してあった)→行列のできるパンケーキ屋
ここまできてやっと自分の携帯がなった。相手は土方さん。
いや、でもさすがに土方さんがこんな事するとは考えられない。そして、そんな事する理由がない。
少し疑いながらも電話に出た。
「お前とりあえず屯所帰って来い」
出た途端それでブチッと切られる電話。
これ無視でも良いか…?
とは言えもう業務交代の時間が迫っている。一旦は屯所に帰るとしよう。
そこら辺に居たパトカーを捕まえて屯所まで帰り、屯所の門を開ける
パンパンッと軽快な音に驚いたがそれはただのクラッカー
出てきた紙切れが頭や肩に垂れ下がった
「え?」
門の中で待ってたのは万事屋の旦那とメガネと近藤さんついでに土方さん。そして隊士(ザキ含む)に取り囲まれている。
今日、なんか祝う日だっけ?
文化?文化?え?いや、なんで?
「良い沖田さんの日おめでとうアルァァァァア!」
雄叫びが背後から聞こえて振り返ると既にチャイナが飛びかかってきていて上手く頭上に蹴りを食らわされる
「もうー、近藤さんと土方さんから頼まれて大変だったんですよ。ちなみに僕が電話の相手でした。クリーニング代もダウン代も食事代もその他雑費も全部土方さんからもらってくださいね!」
メガネが作ってくれたであろう料理の良い匂いがして、なんだか全部どうでも良くなる。
去年面白がって良い沖田さんの日だと1人張り切っていたのを土方さんも近藤さんも覚えてくれていたらしい。
ワイワイと食事の用意された宴会場まで移動して飲み始める。
みんなが酔いつぶれてる中、未成年のゴリラが料理を貪りまくっていた。
「お前、今日誕生日だったろィ」
サッと隣りを陣取って日本酒をゴクリと一口飲む。
「おう、だから誕生日祝いしてもらう代わりに名前変えてやっただけだからナ。別にお前を祝うためにやったんじゃないアル」
ほうほう、ちゃんとツンデレを発揮しているじゃないか。
つまり、別にあんたのためじゃないんだから!貧乏な銀ちゃんじゃいっぱいご飯食べさせてもらえないけど真選組から出してもらえばいっぱいご飯食べられると思って協力しただけなんだから!
て奴らしい。
良い沖田さんの日。そう言われて思い出した誕生日。俺も祝ってやろうって思って、でも素直に祝う事なんてできなくて結局そうやって自分で自分を祝った。
やっと今年で良い沖田さんの日は本来のように使えたらしい。
「うん、おめでとう」
「うるせェ!よっぱらい!」
流したようにご飯をガツガツと食べていたが、こいつの顔が赤くなってる事、それが照れてる証拠だってわかってる。
実際は今日一日一緒に居たみたいだし?
俺は隣りでクスリと笑ってそれを肴に呑んだ
神楽誕(2013ver.)
「何笑ってるアルカ、気持ち悪ッ」
「ひでェ」