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□良い夫婦(2013ver.)
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やっと慣れてきたの包丁さばきと味噌の溶き方。ちょっとずつこの生活が当たり前になってきた。
毎回万事屋に帰っていたのに、今では毎日通っていることになる。
帰ってくるのを待つのは、人が変わるだけで昔と変わっていないけど。
ギィッとアパートの思いドアが開く音がして、また帰ってきやがったかと嬉しいような恥ずかしいようなむず痒い気持ち。



「ただいま。今日はちょっとくらいマシな料理できてんだろうな?」



喧嘩を売るような聞き方に相変わらずの仏頂面。まあ、これもある意味特別なのだ。と思えるようになってきたのも慣れの一つか。



「お前の分は作ってねぇヨ帰れ」



「ここは俺の家でィ。お前が帰れ」



夫婦のくせに毎日このような会話が繰り広げられ、本当に結婚したのだろうかと時々頭を悩ませる日もあったりする。
ちょうど味噌を溶いた出来たての味噌汁をお椀に盛って目の前のムカつくいけすかねぇ野郎に渡すと黙って一口味噌汁を啜る。



「まあまあ」



これはいつもの一言で、文句がない時に使う台詞。それをわかってるから心の中でガッツポーズを決めて素知らぬ顔をする。



「ふーん。とりあえず着替えてきたらどうアルカ?」



何も言わずにそのままリビングを出て行く旦那サンを横目で見送って炊き上がったご飯と味噌汁、おかずを食卓に広げ夕飯の準備を整える。
これが三年前だったらまだ料理は一品も完成せず、黒焦げだけが溜まっていただけだったのに。
全部整ったところで、まだ着替えから帰ってこないサドを探しに行く。最近はドアの隙間をそっとあけて定春と戯れようとするサドを眺めるのが趣味だ。
今日もやってるやってる。
歳を重ねて大きな体の定春は日に日に寝る時間の方が増えている。そんな定春と遊べる時間はごくわずかで、カプッとサドの頭にかぶりつくのもあと何日続けられるのかすらわからない。



「見てねぇで助けろよチャイナこのヤロー」



ダクダクと頭から血を流すサドをこうやって笑えるのもあともうちょっとだけだと思うとストレスで死にそうだ。



「お前なにこわいこと考えてんでィ」



しょうがない、とサドを定春の口から引き剥がし定春を優しく撫でる。



「こんな汚いの食べちゃダメアル。変な病気うつるアルよ?ダメサド野郎になるアルよ?」



「おいその変な病気先にお前に移してやろうかィ?」



軽蔑した目で一瞥してやってからリビングに戻る。どうせ着替え終わってたからすぐにくるだろう。
いつものブスッとした仏頂面を覗かせたサドは、今さっきは持っていなかった小さな紙袋を持っていた。



「それ、なにアルカ?」



ん。と変わらず仏頂面でその紙袋を渡され、その流れで受け取った。
これはもしかして、プレゼント?サプライズと言われるもの?
ニヤッと笑ってしまいそうな口角を抑えてそっとその紙袋を開き、中の小袋を取り出す。
少し重たいような…?動かすとジャラッと小さく音がする。なんだろう?



「それ見たらお前の顔がチラついたから。買ってきてやったんでィ」



感謝しろよ。と照れ臭そうに目を逸らすサド。
なんだなんだ、こいつやっぱり私のこと好きだな。
抑えきれなくなってきっと私はさぞかしニヤニヤしているだろう。



「んー、お前の趣味は残念だからナ、期待はしな…は?」



小袋から出てきたのは雌豚とネーム入りの首輪だった。照れ臭そうに見えたサドの顔は真っ赤になりながら笑いを堪えていた。



「ちゃんと名前まで入ってんだぜ?ぶっ…!」



言い切ったところで自滅。堪えきれずに腹抱えて笑い出した。
首輪をぶん投げて見たがただひたすら似合う、とか言って爆笑していた。
定春、あの時噛み砕けば良かったのに、こいつ。
しばらく笑い続けるサドをそうシカトで炊飯器のご飯を飲むように食べる。
こいつと居たら暴飲暴食が止まらない。ストレスのせいで。
飲み込み終わったところでやっと笑い終わったらしいサドはまた部屋を出てからケーキ屋さんの箱を抱えてまた戻ってきた。



「冗談でさァ。これが本物でィ」



笑い転げ終わった後だからかこいつの顔は完全に悪人の気持ち悪い笑顔だったが、きっとそれは首輪が本当にツボだったんだろう。箱の中に入っていた幾つものケーキを鷲掴んで口の中に一気に二つ放り込む。



「辛っ!!!」



半泣きになりながら水道水を一気に飲み干す。サドは大変愉快そうに床で転げ回って笑っている。



「もう!お前とは絶対離婚アル!」



「丁重にお断りしまさァ」



こんな日々がこれからもずっと続きそうだ…。



良い夫婦(2013ver.)

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