SS3

□女子になるまで
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なんでこんな奴を好きになれたんだろう。ただのゴリラじゃねェか。その言葉を毎日頭の中で繰り返す。好きと言う感情はただただ大きくなるばかりだった。

あいつは俺を見つけると大体近寄ってくる。学年は違うのにあいつにとっては気にすることでもないのだろう。平気で二つ上、三年の教室に入ってくるのだ。誰にでも慣れなれしいやつではあるが、こうやって俺のところにわざわざ来ていれば少し可愛くもみえてくるもんである。



「腹が減ったアル。酢こんぶよこせヨ」



ゴンゴンと音をたてながら椅子を蹴ってくるが毎度毎度やられているので慣れた。相手にしないようにスマフォをいじる。こうすることでチャイナのイライラを募らせるのだ。



「オイ。ハゲ!聞いてるアルカ!?」



「ハゲはお前の親父だろィ?」



めんどくさいオーラを出しながら答えてやると嫌味を返しただけなのにちょっと嬉しそうに見える。単純で可愛いじゃないか。
ゴンゴンという音がバキッという音に変わった瞬間に俺はイスから転げ落ちた。

前言撤回。ただのゴリラ!

場所は変わって空き教室。チャイナと一緒に銀八の説教を聞くのとその空き教室から新しい机とイスを持って行くためだ。俺は特に何もやってないというのにいつもこう。理不尽である…。
隣りに居るチャイナは説教中に鼻をほじったため銀八のハリケンが炸裂していた。俺はそれをガン無視でボーッとしていたらついでに殴られた。理不尽だ(二回目)。

説教終了後、新しい机をチャイナに持たせ、俺は軽い方のイスを抱えて廊下を歩く。説教の帰りというものは気まずさ全開で、隣りに居るのに目を合わせることもなく運ぶことしか考えていないかのような顔をしてそっぽを向いていた。



「お前が悪いアル」



ボソリと恨み言をたれるチャイナ。不貞腐れたような声と表情にやっぱり可愛いと思ってしまっている…。

ただのゴリラ!ただのゴリラ!ただのゴリラ!
俺の学習能力はゴリラ以下なのかもしれない…



「イス破壊する女子にそんなこと言われても、ねィ?どう考えてもお前が悪いに決まってらァ」



ゴリラに語りかけてもウホッしか帰ってこない。わかってるつもりなんだ。それでも話しかける俺って…俺って…

俺の頭は結構湧いてるらしい。

ゴリラが持っていた机で俺を小突いてきたため反撃にイスでぶん殴ってやろうとするとチャイナも机を振り上げ、俺めがけて振り回してくる。
パリーンと音がなった時にはもう遅かった。

また銀八の説教である。どうしようもない、だってコイツはゴリラだから。



「だってコイツが!!「黙ってろゴリラ!!」



つい口走ってしまえばまたあの戦いが始まる。今日が三回目になるのか。銀八はもう呆れてイチゴミルクを飲んでいた。俺はチャイナを押し倒し、あと一発ぶん殴って黙らせようとしたがキン○マを蹴られたため逆にノックアウト。あまりに痛かったので潰れたかと思ったが生きてた。良かった。
キ○タマを押さえてうずくまる俺に足をかけてゴリラが雄叫びをあげていたが俺はそれどころではなかった。それはもう、ホントに。



「沖田くんももうゴリラって言わないようにね。今度こそ潰されるよ。キンタ○」



そのあきれた一言で今日の説教がやっと終わった。もう一度机とイスを運び始め、チャイナと並ぶ。
こんな馬鹿力のゴリラのくせに。ゴリラのくせに、ゴリラのくせに、ゴリラのry

授業中のため、静まり返った廊下を好きな子と2人きりで歩いている。それはそれは素晴らしい青春の一ページで、チャンスでもあるのに、俺はうまく立ち回れない。チャイナは机をめんどくさそうに抱えていて、俺に視線を向けようとしない。



「なんでこんな奴好きになったんだろうな、俺は」



聞こえるように言ったのにチャイナからの反応はなし。やっぱりゴリラに日本語は通じない。伝えようとしなければ、コイツにこんな甘い言葉は届かない。



「意味わかんねェアル」



いつも無視されてきた言葉に初めて返事が返ってきた。そのくせ、意味わからないって…そのままの意味なのに。
これ以上伝えようとしないのはこの関係が終わってしまうのが怖いから。こんなにグチャグチャな気持ちをちゃんと伝えようとするときがくるのだろうか…?
"そのまんまの意味。"なんてサラッと付け加えることができる日がるのだろうか。カタンとイスを廊下に下ろすと、俺より少し前に行きかけたチャイナが振り返る。



「交換。俺が机持つ」



チャイナが持っていた机を取り上げると、その先の階段を淡々と登って行く。チャイナがイスを持って後ろから追いかけてくる音がして一人分右に避けると一段違いで横に並ぶ。



「いきなり何アルカ?」



さっぱり意味がわかってなさそうなチャイナにチクリと腹が立った。
レディーファーストだっつの。
でもそんなこと言える素直さは俺にはなく…。



「うるせェ、ゴリラ」



"何だとー!?"と叫ぶゴリラを無視して進む。
はやく俺のことを好きだと言いにくれば良いのに。ゴリラが普通の女の子に替わるまで…あと…何、年…?



女子になるまでずっと、隣りで、君を見てる

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