SS3

□Sweet
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この頃沖田の様子が変だ。付き合い出したのは夏の終わりから、今はきっと絶頂期を過ぎて安定期に入るかどうかの境目。それなのにあいつはあまり私と会うことも話すことも少なくなった。同じクラスに居るもののいつもやっていて喧嘩すらしない程で。
避けられてるって事だよナ?

避けられてる

その言葉がグサリと心臓に刺さったように胸が痛い
避けられてるってことは、嫌われたって事…?

嫌われてるに関しては痛むどころじゃなかった。
ずっとお互いに寄り添わなかった。それが何を思ってか夏休みの終わりがけ、花火大会に誘われてやっと結ばれた。高校からの二年間の片思いは終わったと思っていたのに、両思いはあっけなく簡単に散るのか。
国語の教科書で顔を隠しながらソーッと窓側の席に居る沖田を覗き見る。いつも喧嘩をするからと廊下側、窓側で端と端に振り分けられたのが良かったのか、悪かったのか相手に気づかれることはなかった。
ちょっとだけ、気づいてほしかったりして。
あっ
こっちを振り返ったと思ったらただ隣りの女子を見ただけだった。何やら話してクスリと口元を緩める。
私と一緒に居る時、いつも笑ってないくせに。
いつもポーカーフェイスか憎たらしい顔で嫌味を言ってくるだけ。何を話したらそんな顔を見せてくれるのか、さっぱり。

つい、沖田の隣りに可愛い女の子が並んだらどうなるのだろうと考えてしまう。
私とは手を繋がないけどきっとその子とは繋ぐんだろう。私にはキスなんて迫ってこないけどその子だったらきっと何度もするんだろう。いつもは見せないような柔らかい表情を、その子だけには見せるんだろう。

勝手な妄想が勝手に動き出して頭の中ではそればかり。沖田には可愛い女の子がお似合いでわかってて私は沖田が好きで。
沖田はモテるから選び放題のくせに。何を思って私と付き合ってる?罰ゲームとか?いや、現実的にあり得ない。
沖田がもし、ただの気の迷いで他の可愛い女の子に目覚めてしまったらどうしよう。

これはただのヤキモチなんだろうけど、私が自信がないだけでもあった。
沖田から好かれてる自信は無いに等しい。からかいで"お前私のこと好きなんだロ!"くらいは言ったことあるけど…内心こわいジョークだった。

キーンコーンカーンコーンと授業終了の知らせのベルがなれば、楽しみにしていたお昼休みだ。私と沖田は同じ環境委員会なためお昼は一緒に花に水やりをしなければいけない。
2人の時間だと勝手に楽しみにしていたけど、今はもう楽しみではない。
いつもは沖田を引きずって中庭に出るけど今日は一人で教室を出て花壇まで歩く。沖田と2人だと競い合うように歩いた廊下がゆっくりと過ぎて行く。変な感じしかしないよ。
花壇まで辿り着いたらそばに落ちているホースを手に取り蛇口を捻った。勢い弱めの水で花壇に水やりも珍しい。いつもは水をかけあいながらやっていたなー…。水やりの後はお互いにビチョビチョだった。教室の中で2人だけ体操服、なんて慣れた光景。



「水やり行くなら声かけろよなァ。俺が来た意味ねェだろィ?」



めんどくさそうにポケットに手なんか入れちゃって沖田の登場。
水をぶっかけてやりたいのを我慢しながら花壇に水をやり終え蛇口を捻って水を止めた。



「お前が教室で女の子とイチャイチャしてたから気をきかせてあげたまでアル」



言った後に気がついたがこれはただヤキモチをやいていると伝えてしまったようなものではないか?
恥ずかしくて顔から火が出そう。
沖田の方なんか見れなくてしゃがみこんで花壇を眺めた。



「なら尚更声かけろっての。一応俺はお前の彼氏なんどけどねィ…?」



うわ、こいつなに言ってるんだ!こっちが恥ずかしくて死にそうになってるだろうが!彼氏とか簡単に言われたら、意識し過ぎてダメに決まってるだろう!
その恥ずかしさで花壇にはえてた雑草を引き抜いた。



「お前なんか、嫌いアル。他の可愛い女の子と勝手にイチャイチャしてロ!バーカ!」



私のこと避けてたくせによく言えるよな!くらいまでつけたしたかったが、それについてなんて言われるのか、考えるだけでこわくて言えなかった。素直に避けていると肯定されてしまったら…嫌だから。
持っていた雑草を花壇の外に投げつけると教室に戻るため沖田の横を通り抜けようとした時だった。
沖田から手首を掴まれ、無理矢理止められる。



「俺のこと好きって言え。ちゃんと目見て。じゃねェと、許さねェ」



真剣な瞳で見つめてくるあいつはいつもの強気で余裕ぶっこいてるあいつではなかった。
意味がわからなくてびっくりの反動で涙が出て来そう。
手を振り払おうとしたけどそんなのが通用するわけなくあいつの視線だけで追い込まれて行く。



「意味わかんないアル!今まで避けてたくせに!」



泣き出しそうに叫んだがあいつはちっとも反応を見せない。
動揺することも、何もかも。私にそんなあいつの心が読めるわけなんかなくて。沈黙が流れた。



「俺のこと好きなら、答えてやらァ」



瞳だけで今さっきのセリフをもう一度伝えられる。
"好きって言え"
なんでわざわざ私ばかりがこいつに言わなきゃなんないんだか…。



「…す、好きに決まってんだロ!?」



どもりながら、喧嘩口調での返しに沖田は手首をつかんでいた手の力を弱める。



「そういうのが可愛いから」



「…は?」



ぼそりと言うせいで恥ずかしさは倍増だし、
確かに聞こえたのだけど言葉の真意がわからない。疑うような目で見上げてもあいつが顔を真っ赤にしてこっちを見つめてるだけ。
私も十分真っ赤っかなんだろうけど。



「お前のせいで俺のキャラがブレブレなんでィ!前までこういうのなかったのに…。付き合って日が立つ度に可愛く見えて、似合わないのにデレデレしてる。だから…」



だからの続きはわかってる。だから、こいつは私を避けていた。



「お前のこと褒められた時とか、ニヤニヤするし、お前が居たらそっちばっかり見ちまうし。こっちだって好き過ぎて…困ってるんでィ」



困るの言葉が本当に余裕がなさそうで、こんな顔させられるのは私だけなんでしょ?なんて独占欲が丸出しで
お前のキャラなんて知らないし、私だって、私だって!
棒立ちのまま顔を真っ赤にしている沖田に自分の腕を回した。いつもの羽交い締めじゃなくていつもの馬鹿力じゃなくて。ギュッと抱きしめて沖田の匂いを隠れて嗅いだ。



「私だって、キャラ忘れてデレデレしたくなることあるアルヨ?」



見上げてみた沖田は目があっただけでフリーズして抱きしめ返すこともせず手は宙を彷徨って固まってる。
真剣だった瞳は私を捉えることすら恥ずかしくなったようで、手と同じように宙を泳がせている。



「なあ、好きって言ってみろヨ」



Sweet

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