SS3

□ベンキョウ会
1ページ/1ページ

いつものように女子が集まってる
みんなとなんとなく仲の良い私はやっぱり何故かそれの輪に入って話を聞いていた
それはもう受験生になって部活も引退して暇になった学生たちが勉強会と称してのお遊びだ
三年間を共にした私たちはいつの間にかたくさんのことを学んでいて
それはいらない情報だったり嘘の情報だったりするのに知ったかぶって話すのがとても楽しいものだった



「ねえ、彼氏とどこまでやったー?」



きゃいきゃいとはしゃぐ姿は少女で居て大人びている
と言うか大人に見せたくてやっているようにも感じる
机をくっつけあっているのに別々に存在するコミュニティのようなグループの中で私は彼氏が居る子が多いグループに入っていた



「んー…えっとねー…!」



少し照れているが誇らしげにも見える
こういう話が大好きなのは大人も子供もきっと同じなのだろう
私もちょっとだけ、周りがどこまでの情報を知っているのかが気になってもいる



「キスはもうしたでしょ!?」



「ぶふぉ!?」



今さっきまで購買で買っていたパンを頬張っていた私は口の中のものを一気に吹き出していた



「神楽ちゃんどうしたの?」



「大丈夫?」



女子たちはそんな言葉を当たり前で使うのかと驚きつつも自分が幼いだけかもと気恥ずかしくなる
口元をグイグイと吹き終わると小さく咳をして落ち着いく
不思議そう覗き込む彼女たちは実は私が吹き出した理由くらいわかってるように見えた
やっぱり私遅れてる?



「ちょっとむせちゃっただけアル!」



誤魔化しながら苦笑い
そっかーとみんな何もなかったように話に戻していく
キスはしたとかちょっと一線超えちゃったとかみんなけっこうな経験だ
いや、私がそんなこと考えてもいなかったせいかもしれない

想像くらいはするけど…
実際は…うーん。

誰とどこでどうやって?
具体的な想像は全然できない
漠然とロマンチックなものだ!
そう感じることしかできないが自分から聞くのは恥ずかしいから言えなかった



「神楽ちゃんは?」



話が途切れたのだろう
畳み掛けるようにみんなの視線が私に集まる
何が"神楽ちゃんは?"なのだろう
一瞬思考が固まってしまった



「え?あー、うん。まあ。いろいろやりまくりアルよ!」



適当な返事をするとみんな"えー!?ほんとー!?"と食いついてきてしまった
適当に答えて適当に流そうと思っていたのにそれは失敗に終わる



「な、流れと勢いで…うん。」



"そうなんだー"と返す人も居れば"だよねー!"とか
なんだよ。
知りませんよ何も
流れと勢いで何やらかすんだよ



「やっぱり総悟くんとだしSMなの?」



「あぁあ!?」



今度は変化球を投げられた気持ちだ
例えるとフォークボールのような
フォークボールが実際どんなもんなのかはよくわかっていないけど
こう、いきなり消えたと思ったら目の前にあった的な
え?これフォークボール?あれ?
焦りつつも目を泳がせて考える
考えても何もひねり出せないとすぐに答えはいきついて思考停止



「沖田は…関係ないアル…よ?」



「「別れたの!?」」



みんなは何故かそんなことにかぶりつくようによそを向いていた他のグループの女の子まで乗り出して居る
みんな、私にどんなイメージを持ってるんだ
私は何故沖田と付き合いそしていちゃこらせねばならんのだと



「元から、そーゆーのじゃないアルよ?」



"そうだったんだー"って声がしばらく続いてやっと終わったらまた好奇の目に晒される
総悟くんじゃないなら誰と?なんてワクワクした瞳で見つめられちゃったら困ってしまう

誰とだろう?

適当に言ってしまった分取り返しがつかない

そこにガラリとドアがあいたかと思えば担任の先生
下校時刻だからさっさと帰れ!と追い出されて私はやっと解放された



「チャイナ?」



学校からの下り坂で後ろから声をかけられて振り向く
声の主はやっぱり今日話題に出た沖田
チャリを押しながら坂を下っていた
そういえばこの坂ではチャリ漕ぐの禁止だったかな
なんてどうでも良いことを考えながら立ち止まる



「おう。沖田は部活帰りアルカ?」



「おう。」



チャリを押しながら私に追いつくと自然に一緒に帰りはじめる
今日の女子たちとの会話を思い出して意識してしまうが、それはほんのちょっとで実際こいつとは…ないよなー。って思えてしまう



「沖田って誰かと付き合ってたことあるカヨ?」



私ってやっぱり遅いのかな
そんな不安の中でこいつは私と同じなんじゃないかとどことなく思っていた
それはあっさりと否定されるのだが



「まあ、それなりじゃね?お前よりかは経験豊富なのは確かでィ」



得意気に返された言葉に落ち込むことはなかったがイライラと不安だけが溢れていた

みんなそんなもんなのか!?
私の周りだけませてるだけじゃないのか!?



「何アルカ?それ。」



自慢気な態度?それとも経験?どちらも?
イライラとした感情はチクチクと私を刺激してくる
やっと出てきた言葉を返すとそろそろ坂道が終わるところ
沖田が少しだけ吹き出したので振り返ると不安そうな私にニヤリと笑いかけた



「なに?焦ってんのかィ?」



図星なのかわからないが恥ずかしいと思ったのは確かだ
まるで私は他の人より劣ってると言われたようだ
そんなに大差ないと思っていたのは私だけでみんなとは本当は全然違うのかも
キスした、してないで世界が違うのかも
あり得ないことであっても学生の私には周りが全てて常識なのだ



「私は、別に好きな人とか居ないし、良いアル!焦る必要なんかないネ!」



自分に言い聞かせるような自分を否定するような私の声は大きすぎて辺りに響く
そんな私を横目で見たかと思えば沖田は頷いた



「お前、付き合うとか向いてなさそうだしねィ」



バカにされてるような、でも私を肯定してくれているような
いつも通りの反応なんだ
これが沖田でそれとまたギャアギャア喧嘩してるのが…今の私には丁度いいんだ



「モッテモテで困るくらいだからみんなの神楽ちゃんのままで居ないといけないしナ!」



ふはははは!と高笑いするのを沖田もゲラゲラ笑っていて
ちょっとムカついたから蹴りをかましたらしばらく黙っていた
たぶん相当痛かったらしい

その後は沖田に仕返しされながらそれをやり返してを繰り返してやっと2人の別れ道に差し掛かる
じゃっ、と別れようとしたが沖田にがっしり手首を捕まえられる
なんかやり返されるのかと思ったらそのまま引っ張られて沖田とあと一センチほどで唇と唇がくっついてしまうというところで止められる

カチンコチンに固まった私に沖田はしたり顔を見せて離れた



「お前が俺のになるまで待っててやらァ」



間近で見せられた異性の顔、異性の匂い、異性の雰囲気
今まで感じたことのない沖田に真っ赤になってしまう私
沖田はじゃっ、ていつも通りにさっさと帰ってしまった



「何アレ!!?」



もう待つ必要ないんだけど!!!
心の中でそんな叫びを上げた気がしたがブンブンっと顔を振れば自宅の方側に方向転換して逃げ出すように駆け出した



ベンキョウ会

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ