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□秋といえば
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この季節がすごく好きだった
もちろん春も好きだ
もちろん夏だって楽しいし
冬だって好きだ
だけど秋が少しだけ特別だった

春はあいつと出会えた最高で最悪な季節で
夏は日傘が欠かせずあまり遊べなくて
冬は動き回る前が寒くて寒くてかじかむ
それに、年末はなんだかあいつは忙しそう

秋はご飯が美味しくて、動き回るのに最適な温度に最適な日差し
春よりもなんとなく日が短くなってくるのがどことなく哀愁が漂っていて
意外と乙女な私をもっと乙女にさせた



「クリスマス予定ある?」



今時な短い丈の着物を着た少女たちが通り過ぎる
つい聞き耳をたててしまっていた

クリスマス、かぁ
それは私に無縁だったのに、いつの間にか銀ちゃんと新八で過ごすのが楽しくなってる

恋人の日…とか言われるんだっけ?



「彼氏と過ごすよー!」



楽しそうに話してる少女の会話は通り過ぎていくことで続きは聞こえなかった

彼氏と過ごすって…なんか想像できないな
家族でさえそんなに過ごしたことないし、銀ちゃんと新八は大好きだけど恋愛なわけではないし
恋ってどんなもんで恋人と過ごすのがどんなに楽しいのか知らない

知ったところでなんとも思わないかもしれないが

傘をクルリと手元でまわして遊びながらトボトボと歩いていた



「…?」



視線の先にはいつもぱしられてるよく知った地味な奴がお店の大きな窓から何か覗き込んでいた

変なの

関わったところで得はないかもしれないが、暇つぶしにはなるだろう
横から何を見てるのか覗き込む



「ん…?髪飾りアルカ?」



そこには紳士物のネクタイであったり万年筆であったり、女性用の髪飾りなど幅広く置かれており
恋人へのプレゼントにいかが?
だなんて売り文句がついていた

私がぼそりと呟いたのにビクッと飛び跳ねて私から一歩ほど離れる



「チャイナさん…、驚かさないでよ…」



地味なジミー山崎が地味らしく地味に怒る
地味地味言い過ぎだとツッコミがあったけどそれも地味であったから省略
もう一度ショーウィンドウを覗き込んで何がお目当てなのかと探した



「たまになんか買うアルカ?」



確かこいつはたまに歪んだ恋心を抱いていたはずだ
チラリと見やると焦っているのか照れているのか顔を真っ赤にしていた



「い、いやぁ…まあ、そうなんだけど…うん。」



クリスマスは恋人だけでなく片想いのやつらまで浮き足立たせるようだ

ストーカーから貢くんに変更かな
と目を細めてあきれるように見つめたが相手は気づいて居ないようだった



「チャイナさんは?」



「?酢こんぶ三箱で良いアルよ」



こいつは本当に貢くんになるかもしれない
それが楽しみなのかもしれない
うん、人の人生いろいろだよな
自分だったら嫌だけど



「違う違う!隊長に!」



また首を傾げる
こいつはあのサド野郎にまで何か買ってやるつもりなのか
買ってやるのは良いが私に聞かれても何が欲しいかなんてわかるはずもない
想像さえもできない



「あいつにも買うアルカ?」



もしかしてこいつ実はゲイ?
もしかしてそういう感じなのか!?
え!?でもたま居るし、あれ?
少しだけ軽蔑したような私の視線にやっと気づいたらしい
慌てて手で否定した



「違う!チャイナさんが!隊長に!」



なんだ。と少し安堵のため息を吐いてから
いや、なんで私があいつに?とまた疑問が出てくる
クリスマスって男がなんか買ってくれる日じゃねぇの?
私にはサンタさんが肉まんおごってくれる日だろ?



「なんで私があいつに貢がなきゃいけないんだヨ」



サンタでさえも良い子にしていないと来てくれないのだ
あいつにサンタも私もプレゼントをする必要はないだろう。

クルリと手持ち無沙汰に傘をまわした



「ああ、日本ではね、仲の良い人とプレゼント交換って習慣があるんだよ。」



知らなかったー?なんてヘラヘラと笑ってるザキを軽く蹴っ飛ばしてからまた傘をクルクルまわす

仲の良い人とってなんだよ
仲良くないし、交換せずとももらえるものはもらうし!

いたたと蹴られたところを摩りつつザキは困ったように笑う



「え?なんか悪いこと言った?」



とぼけたことを言うもんだからほっぺたをプゥっと膨らませてそっぽを向く

もう一度横目でザキを見るとその後ろにはあいつが立っていた
噂をすればなんとやらだ
今来たあいつの方が少しだけ身長が大きいがだいたい一緒でじとーっと沖田がザキを睨みつけるとザキが一層小さくなった気がした



「いやー、隊長じゃないですかー。こんなところで奇遇ですねー…!今日って屯所勤務じゃなかったですっけ?」



ザキはそんな事を言いつつも少し肌寒いくらいなのに大量の汗を吹き出している
いつもサボっているのは沖田のくせに今日はザキが怒られる側か
大変だなこいつも



「閉じこもってたら気が滅入るから気分転換でィ」



偉そうにそう言って今度はわたしと目を合わせた
バチっと音をたてるように睨み合う



「…よう。今日も暇そうだねィ」



嫌味をいつも通りに言ったところでザキがじゃっ!と言って走り去った
いつも通り喧嘩になるのを止めるのがめんどくさかったんだろう



「お前も暇そうアルな。税金泥棒」



言われ慣れてしまったのだろう食いつく事もなくザキと今さっきまで一緒に見ていたショーウインドウを沖田も覗き込んだ



「欲しいもんでもあんのかィ?税金も払ってない貧乏人」



なんでそんなこと聞かれるのだと少し怪訝な表情をしたが沖田はまっすぐと見据えていた



「…酢こんぶ」



「へー。やっすい女」



イラっとしてザキの時より強めに蹴ってみるとけっこう痛かったようで
やりすぎたなぁ。とは思ったが少しスッキリ



「あー…これ折れたわ。確実に折れたわ。」



棒読みでそんなことを言いつつしゃがみこんだまま動かない
お前はどこの柄の悪い輩だ
無視して方向転換
そのまま歩き出す



「あー!これやばいなー!!これから大事な仕事あるのになー!!どっかのバカチャイナから蹴られたばっかりになー!!!」



ムカついて振り向くとまた目線がバチっと音を立てる
そのまま無視して歩いて行きたかったがなんだか自分の責任な気がして来て戻ると沖田がまた口を開いた



「送れ。」



「は?」



単語をびしりと突きつけられてもあまりピンとこない
おくる?おくる…?おくる。
頭の中で何回もリピート
考えすぎて"おくる"がゲシュタルト崩壊してしまいそう



「屯所まで、送れ」



そう付け加えられてやっと意味を理解してちっと舌打ち
でも自分の責任だし、いや、でもこいつが悪いし
いろいろと繰り返したあと背中を向けてしゃがみこむ



「お前に貸しだからナ!後できっかり返せヨ!?」



ドサッと沖田が乗ったのを軽々しく持ち上げて屯所までトボトボと歩きはじめた
なんか話しかけるもんなのかな?と悩みながら黙り込む



「…山崎と何話してたんでィ?」



耳にかかる息にゾワゾワするくすぐったいような、変な感じ

なんて答えようか迷ってから口を開く



「なんでそんなこと聞くアルカ?」



人通りの少なくなってきた道路の端の木を眺める
そろそろ葉が色を変えはじめる
きっとこの葉は黄色く色を染めていくだろう



「…気になったから」



服越しに感じる体温は熱くて
この葉が色を変える前に赤くなっている気がした
たぶん、こいつの熱のせい
緊張して手が湿ってるのをわからないようにギュッと握り直す



「お前とは関係ない話アル」



本当は関係あるけど、お前の話してたとか、言えるわけもなく
素っ気ない言葉に変わってしまう
どうせ私は可愛く振る舞えないよ



「ふーん。」



屯所までは思ったより遠くてそれがなんだか複雑な気持ちにさせた
居心地が悪くてでも少しだけ安心できる体温を感じて

やっぱり、秋だからかな
乙女な思考回路は全開で、クリスマスじゃなくたってロマンチックに思える
普通は男女の態勢が逆だって言われてもそれが2人のカタチだもんなぁって思っちゃう

なんだそれ。なんだよ。



「山崎に…」



沖田が何か言いかけたところで後ろから車のクラクションで掻き消された
振り返るとパトカーでマヨラーが助手席に座っていて隊員であろう人が運転席に座っていた



「総悟とチャイナ娘、何やってんだ」



しね土方と後ろで沖田が唸ったのが聞こえたがマヨラーに沖田を引き取ってもらい手にはまた傘だけを持つ



「サド、今さっき何言おうとしたアルカ?」



車の中で不機嫌そうに足を組む沖田はまた不機嫌そうに顔を背けるだけだった
ムカついて殴りかかろうとしたがマヨラーに止められた



「じゃ、悪かったな」



謝る態度ではないマヨラーが言葉だけで謝って助手席に座り直す
不機嫌そうな沖田をチラリと見るとバッチリ目があってクスリと笑った

本当は続き聞こえたよ
あー、自分ってなんて魔性の女なんだ。小悪魔ってやつ?

パトカーが走り出した方向に背を向けて歩き出す

"山崎に妬いてる"

傘をクルリとまわしてまた笑う
秋は恋の季節でもあるのかも…なんて



秋といえば

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