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□外に居る引きこもり
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人生はマラソンだとかゲームだとか
勝手にかっこよく言って
人生はただの道で
ただの土台で
ただの足場でしかないさ

足場は大事だとか言うけど、壊れなきゃ良いよ
それだけ

人生がマラソンならもう俺は走っているはずだ
なんなら疲れてしまって歩いてるだろうな
人生がゲームならきっともっとフラグのたてようは決まっていて、プログラムがあるんだ
成功の仕方だって規則的に決まってるんだ

俺はただの人で世界全体から見たらゴミ屑同然なんだ
なにもできやしないけど、俺は俺で俺が面白いと思ったことだけをするんだ

俺は動ける、生きてる時間を、ただただ消費してるに過ぎない



「オッス。お前またしけたツラしてるアルなー。」



いつもの見回りサボりの時用サボり道兼隠れ家の裏道になぜかひょっこりとその少女は飛び出してくる
まるで虫けらみたい
鬱陶しい
潰すことは、できないけど



「おめぇこそこんなとこ来るってこたァなんかワケありなんじゃねぇの?」



普通は通らないし気がつきもしない家の横から入り込む裏道を突き進むと見えてくる少し広い場所
そのまま通り抜けもできるがだいたい地元民でもあまり通らない

この少女はいつの間にかこんなところに迷い込んだとでも言うのか?



「別に。なにもないアル。ちょっと散歩ネ」



こんなところをか?と聞きたかったがそれ以上話すのさえめんどくさくて口を噤む
自分の残りの生きる時間は短くも感じないし、こいつと話すことで時間をつぶすのは…なんとなく嫌だ
それならもっと有意義なことがしたいもんだ
俺の思う有意義なことが本当に有意義なことなのかはわからないが



「最近寒いアルな」



なにもしゃべらない俺なんか見もせず空を見上げて独り言のように呟いた
俺もそれにつられて空を見上げる

秋晴れって言うのか?
雲は薄い。まるで乾いてきた絵の具の白を無理矢理描きなぐったみたいだ。

ふと思った
こうやって空を見上げてるうちにいきなり爆弾が落ちて来るかもしれない
もしかしたら見上げて油断した途端にこいつから刺されるかもしれない
人間なんていつ死ぬかわからないもんだ

いつ死んだってしょうがない



「もしさ」



思った言葉で口を動かした
あまりにも唐突な言葉に怪訝な顔をされたがまあいい
別に良いさ。こいつなら。
何を言おうとどうせこいつからは文句を言われるもんなんだ



「俺が余命一ヶ月とかだったらどうする?」



最初に開いた口の勢いで言い終わると
本当にどうでも良さそうに遠くを見つめてみる
実際は動揺していてけっこう目を泳がせているが



「…どうするって何アルカ?」



ちょっとした好奇心で聞いてみたことに質問で返されればこちらだって困りものだ
ただの興味本位であって深い意味は全然ない
自分だって勝手な質問をしてるがそれを質問で返すのは少しムカつく



「悲しいとか思うのかなーってねィ。」



イライラを表情に出すことさえめんどくさくなってその言葉は適当に放られた
目をまん丸くしたチャイナの表情は初めて見る表情で、自分まで驚いたような顔になってしまう



「お前性格悪いから長生きするアル。想像なんてしなくても大丈夫ネ。」



自分でもわかっていたように笑ってからボリボリと頭をかく
本当に、平和なもんだなぁ
心が乱れたことなどいつの間にか時に流されて有耶無耶になって消えていく
いつからこんなに楽天家だっただろうか
暇ってものはなんてくだらないものなんだ
どうでもいいことばかり考えてしまう



「じゃあ、もし、私がもうすぐ死ぬならどうするアルカ?」



ずっと考えてばかりだった自分にいきなりの質問で驚いたが表情を崩さずに横目で見る
普通の女の子なのになぁ。背中合わせだったり、隣りであったりと意外とよくそばにいたことを頭の中を巡った



「せいせいすらァ」



コノヤローと恨み言を囁かれたがそんなものは頭に入って来なかった

もし、本当に居なくなってしまった時
どんな気持ちでその日を過ごすだろう?
どんな気持ちでそれからを笑って暮らすのだろう?

死なんてね、ただの別れでしかないんだよ
心の中に生きてるから…
本当にそう思うか?
心の中に居るから寂しいと思うんだ。心の中に居るから悲しくなるんだ。
時によって風化される中で、ふいに心の中で弾けたような痛みが広がるんだ
俺の知ってる感情を言葉であらわしたってそれは本物にはならない
人に説明したってなんの役にも立たない
この感情を、心に秘めたまま

サヨナラの次に出会いがあるって、なんだよ。それなら出会わなくたって良いから、サヨナラなんて…

右頬にチャイナのグーが埋め込まれた
痛いと言うかただ押し退けられたようにグーを入れられた



「いてェ」



そのグーを自分の右手で払いのけてその手でチャイナの左頬をつねりかえす
チャイナはムッとした顔でそれがなんとなく面白くてプッと吹き出すように笑ってしまう



「置いてくなヨ。お前の世界に引きこもってんなヨ。」



怒っているのか拗ねているのか、泣き出しそうなチャイナの顔からひねった手を離してその言葉に引き込まれる
どんな意味を持ってどんな風に発されたのか考えてる俺の頬にまた手を添えられる



「ほら、また。私は置いてきぼりアルカ?」



遠くを見ていたような視界でやっとチャイナにピントが合った
そばに居るのにチャイナを置いてきぼりってこのこと?

見つめると今度はチャイナの世界に引き込まれてしまいそう

そんな顔しないで

気がついたらチャイナの頬を両端ともつまみ上げて笑顔に変えていた
俺もそれを見て口角をあげる

サヨナラなんて、しないよ



「やっと笑った」



俺はまだ全力で走っていたようだ



外に居る引きこもり

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