SS3

□言い訳
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デートの帰り道
暗くなってしまった道を二人並んで歩くと距離が掴めない
隣りに寄り添ってならんでいるのだけど、それはぶつかりそうでぶつからない距離をお互いに測っているようでもあった

車道を歩いているのはチャイナで、普通は男がそっちなのはわかっているのだけどそれを言い出したらなんだか生々しくて気持ち悪く思ってしまう
自分のいらないプライドのせいだと思うが、そのプライドが折れることはなく二人歩いていると後ろから光が差し込む

眩しさから自動車がきたのはすぐにわかるので少しだけ歩道に寄ってやるとチャイナも自動車に気づいて歩道によってくる

コツンっと当たった手の甲に顔を一瞬見合わせたが車が通り過ぎる時にはどちらとも目をそらしていた

俺がそらす時にチャイナもそらしたから、たぶん…そう。

なんでデートまでしといて手は繋げないんだか



「お前、手あったかいアルな…」



きっと空気に耐えられなくなったのだろう
口をひらくチャイナになんて顔して良いかなんてわかんねぇよ



「心があったかいもんでねィ」



そろそろ寒くなってくるこの時期
チャイナの手も冷たかった
俺は緊張のせいか手汗かくほど暖かい



「お前より私の方が心はあったかいと思うアル。確実に。」



この流れで手でも握れたら良いのに
なんて言えば良いんだろう?わからない
あっためてやるとか?
手汗かいてるけど…



「俺の方が心でかいしあったかいと思いまさァ。異論は認めねェ。」



とか言いつつ空を見上げてみる
空って見上げるたびに遠くなってくのに、今は手が届きそうな気がしてる
今日はなんだかなんでもできそうな気がするんだ

手、つなぐだけ…

気づかれないようにチャイナを横目で確認して
いざ手を伸ばそうとするとチャイナはそんな俺に気づかずに傘を持ち替えた

これは…繋げない…

内心しょんぼり
今さっきより手は冷えた気がする
手汗が冷たい

やっぱり、何もできないなぁ



「まあ、そう思っとけば良いアルヨ。」



俺の気も知らないくせに
ムッとしながらも帰り道を歩く
そろそろ、屯所についてしまう

デートの帰りに男の方が送られるって…どうなんだろう…

そんな疑問を持ったところでチャイナに格好良く送って行くよ。なんて言葉は言えない



「もうついちゃうアルな…」



静かに風が吹いてる
その風が冷たかったせいかチャイナのほっぺたは少し赤くなってる気がした



「遠回り、したい気分でさァ」



「え?」



思い切って吐いた言葉は小さく小さく
空気に吸い込まれた

向き合った顔は何も言えなくてそのまま赤くなるだけ
手は冷たくなってくのに、顔は熱い

気づかれないように手汗を服で拭けばその手でチャイナの手首を掴んで歩き出す



「いきなり何アルカ!」



その手は振り払われる事はなかったのだけど、数歩進むと傘が落ちて大きな音をたてた

しゃがんでその傘を手に取ると今度は手首じゃなくて手をつなぐ
恋人繋ぎはできないけど、ギュッと握ると暖かい俺の手とチャイナの冷たい手がしっかりと繋がれた



「散歩するから途中まで一緒行ってやらァ…」



送って行くなんて言えなくて
ましてや手がつなぎたかったなんて口が裂けても出てこなくて
言い訳と言い訳を重ねるだけ
ただ手がつなぎたかった、もう少しそばに居たかった、家まで送ってあげたかった
そんなの…言わない…



「手、濡れてねェ?」



握った手が少しだけ湿ってる
たぶん俺の手はちゃんと拭いたから、違うはず
チャイナも俺と手を繋ぐの緊張したのだろうか?



「温度差が!あったからアル!」



俺と同じ無理矢理な言い訳にホッとするのと、なんだか嬉しかったのと心の中に刻まれる

今日が初めて手を繋いだ日
女々しいかもしれないけどこれは忘れられない



「温度差のせい…かもねィ?」



俺とチャイナの言い訳も重なってる

俺の言い訳にチャイナは何も言わないから
俺も言わないで居てやるよ
だから俺のこれからの言い訳も見逃せよ?



「なぁ、寒いからキスしようか。」



言い訳

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