SS3

□遠回り
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好きすぎるのは私だけ

ポツリと頭の中に降ってきた言葉
その言葉は自分に当てはまり過ぎてドキリと心臓をならせた

別に私もそんな好きなわけじゃないし、いやいや違うしそんなんじゃないし

否定しつつもたくさんの出来事が頭の中を巡ってく
あの時も、あの時も、私ばっかり合わせてるような
いやいや、合わなくて喧嘩もいっぱいしたし…
うん。それでも一緒にいるわけだし。うん。
うん…。



「何考えこんでるんでィ?」



覗き込まれた顔にびっくりする
覗き込んだ相手は呆れたようにため息をついてから大量の資料や書類をそれはそれは気持ち悪いほどの笑みで私に渡した



「これ、今週中な」



すごく嫌そうな顔して受け取る私にとても嬉しそうな顔して言う
サっと一瞬で血の気がひいたのが自分でわかった



「え!?無理アル!じゃない!デス!!!」



ついプライベートではタメ口だから仕事中にも出てしまう

一応上司なんだ…一応…。
こんな奴でも先輩だし、彼氏…だし。

書類を見つめて自分の苦手な計算も混じってるのを見つけてもっと顔が歪む

電卓あってもできる気がしないよ…。



「やれ。死んでもやれ。」



殺す気だ
私を過労死させる気だ…。
こんなに仕事渡しといて仕事でこいつを相手にできなかったらそれはそれで怒られるんだ
なんてひどい奴



「絶対私の仕事他の人より多いアル…」



「あぁ?」



独り言のつもりだったのに聞こえてしまったようで
ギロリと睨まれる
なんでこいつの部下に配属されてるんだよ私
何考えてんだよ神様!



「なんでもないデスヨ!」



書類をトントンと揃えてから一番簡単な仕事から取り掛かるのだった



「あぁー…おわんないヨー!」



締め切りは明日
今日中に終わらせないといけない
休日出勤をしてから最初は誰か居たのに結局1人でやってる
ブラック企業ならぬブラック上司だ…バワハラだ…

半泣きになりながらも、あいつ絶対私のこと嫌いなんだ
なんて付き合っていながらも思う



「もー…嫌いアル…」



半泣きだからか涙声でついつい呟いてしまう
仕事できない方だけど、できない奴と思われるのはシャクだし…
そんな自分が嫌だし



「嫌いって何が?」



いきなり視界に入ってきた沖田にビクッと身体が跳ねた
うん。本当にびっくりして跳ねた。
そんな私を見てクスクスと嫌味に笑う。



「お前の事アル!」



書類についてしまった持っていたシャーペンの跡を消しながら憎まれ口をたたく

そんな私を見ながらも笑い続ける沖田



「ま、ちゃんと仕事やってるようで良かったでさァ」



こいつの純粋そうに笑う顔は本当に腹立たしい
純粋そうに笑うくせに純粋なんかじゃないし、そんな顔をする時は人がとても苦しんでいる時だ



「お前がやらせてんダロ」



終わらせなきゃいけない書類はあともう少しだ
それを終わらせればあとはコピーをすれば良いだけ



「お前がちゃんとやるって信用してるんでさァ」



その響きだけ聞けばたぶん良い言葉なんだろうがこいつが言うだけで悪い事にしか聞こえない



「残業の上に休日出勤までしてる私の身も考えてくだサイ。」



計算やらなんやらを書き上げてからあまりこいつのムカつく話を聞かないように頭を集中させる

そんな私をどれだけ邪魔したいのかそいつは隣に座ってニヤニヤと私が焦って仕事をしてるのを見ている



「まだおわんねぇの?」



「終わらないアル」



立ち上げていたパソコンから読み込んだ書類を出してまた仕上げていく



「お前のせいでだからナ!」



打ち間違えながらも眉間にシワを寄せて隣りを睨みつけると
私の目を見つめてニヤリと笑った

そんな沖田にドキッとしてしまう自分の心臓が腹立たしい
勢いに任せて顔を向き直っても沖田から見られているであろう場所がチクチクと刺さって熱い気がした



「別に…それぐらい良いだろィ。」



またその声に沖田の方を見ると今度は笑わずに真剣な瞳がぶつかる
顔が一瞬で熱くなるのがわかる気がした



「普通に考えてありえないアル。こ、恋人にする仕打ちじゃないアル…っ!」



自分で言いつつも顔が火照っていく
こんなんじゃなくて普通に言いたかった
恋人って響きがなんだか恥ずかしいなんて、中学生か私は!



「…っだからでィ!」



つられたかのように沖田も顔が赤くなってる
2人ともちゃんと相手の目が見れてない
こんなの子供っぽいってわかってるんだけど



「だからって…何アルカ!?どSだからアルカ!?」



意味がわからないくらいの底辺な喧嘩をしてる気がする
こんなのは変なんだろう
普通の恋人ではないよね



「それもあるけど…!ちげェっ!」



「それもあるってどういうことアルカ!?」



だんだん反射的に言い返してしまう
喧嘩ばかりしてしまうのはこんな性格のせいだけど、なんとなくこんな喧嘩も楽しく感じてる
これが2人の普通のコミュニケーションって思っちゃうんだ



「だから…残業させたら、2人っきりになれるだろィっ!」



やけくそに言い放たれた言葉は言い返したくても恥ずかしくなって
ちゃんとした言葉が出てこない



「なっ!?なっなっなっー!!!」



そんな私の変さに沖田は緊張や照れが飛んで言ったのかまた笑った

そして私の頬に手を添えて、ゆっくりと唇を重ねた



「オフィスでこういうのも、良いだろィ?」



少しだけ目線を下げて私を見つめる瞳にキスの後のドキドキがまた激しくなってる



「…こんなの…毎日思い出して…仕事できないアル」



そうつぶやく私に照れたようにもう一度キスを落とされる
今度はもっと深く舌を絡めさせられる
それに応えきれないくらいにトロトロにとろけさせられてしまうと唇は名残惜しそうに離れていく

トロトロになってしまった私を抱きしめて
息は耳にかかりくすぐったい



「俺のことばっかり考えてれば良いんでさァ」



そのまま腰がぬけてしまいそうになるから
沖田を全て受け入れるように私も沖田の全てになれるように手をまわした

心臓の音が聞こえてる
こんなに仕事押し付けなくたって、2人っきりになんてなれるのに
こんなに不器用でバカになってしまうのは、私のことばかり考えてるからってことでも良い?

自分の自惚れでも良い

あまりにも沖田がキラキラしてて視界がぼやけてよく見えないよ
目を閉じて、心臓の音に耳を済ませる

この音が私の事を好きって証拠でしょ?

お互い言葉になんかしないけれど、あの言葉はちゃんと聞こえてるんでしょ?

私には聞こえてるよ
君の言葉


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