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□ムカシのハナシ
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何処か遠くからギャーギャーとチンピラの騒ぐ音が聞こえる
めんどくさいが仕事だ
少しだけ関わってみることにでもしようか

アイマスクを外して起き上がる
騒ぎの方を見ると何かを探してるようだ



「赤いチャイナ服に後ろにはうさぎが餅つきしてる絵柄だ!しゃべったら片言でアルアル言ってる似非中国人みたいだからすぐにわかるはずだ!探せ!」



でかい声で騒ぎやがるもんだ
嫌でも頭に入ってくるような声に頭が勝手に探してる対象を想像する

赤のチャイナ服…目立つだろ…すぐにバレる…

そいつが何をしたかなんか知らないけど、一応死体で上がる前にどうにかするか
めんどくさい

狭い路地裏を通りつつこの近所に隠れられるような所あったかなーと頭を傾げる
周りを見た所でポリバケツしかない
まさかこんな所には入るわけないよな
チャイナ服ってことは女だろうし…いや、チャイナ服を着た男もあり得るのか…?

なんとも考えなしにポリバケツを開けてみるとサっと出てきた傘が俺に向かっていきなり殴りかかってくる
その先には赤いチャイナ服のお団子頭の女

襲ってきた瞬間によく観察しつつ手慣れた手つきで刀を取り出し傘をとめる

こいつ、女のくせにつえぇ
こんなに刀で力を込めているのにこれを受け止める早さも強さも女子供でできる奴なんてむきむきの女じゃないみたいな女奴だけだろう
簡単に説明するとマウンテンゴリラだ



「お前…」



探されてるあいつだろう
保護しといてやろうと思っていたが、こんな少女が何をしたというのだろう
犯罪の匂いしかしない



「…誰アルカ?」



敵と間違えて襲ってきたのはこいつなのに
相手の力が緩むまで手の力を緩めるわけにはいかない
もし一瞬でも力を緩めてしまえば負けてしまいそうだ



「俺は…」



力をこめつつもしゃべろうとした瞬間に遠くから足音が聞こえてくる



「こっちでなんか変な音したぞ…!」



2人はその音に気づいて固まる
ここで逃げたら追われるだろう
この場で隠れるにはポリバケツの中に入るしかないだろう
2人分も空間はない

咄嗟にチャイナを抱きかかえ自分の隊服を羽織わせて壁に押し寄せた

真選組の芋ざむらいが女と遊んでると判断したようでそそくさと追っ手は通り過ぎて行った



「…臭いアル近寄んなヨ。」



ぐいっと顔を遠のけられ、ムカつきながら手を払う
隊服も投げるように突き返されてまたピキピキと頭の中でイライラが募った



「おまわりさんが助けてやったんでィ。感謝しろィ…!」



青筋をビキビキ浮かせながらも精一杯の笑顔を見せてやる
落ち着いてまたその女を観察すると思ったより幼い顔をしていた



「助けてなんて言ってないアル」



あまりまじまじと見られたのが嫌だったのかふんっと他所を向いてしまった

幼い顔と言っても、自分とあまり変わらないだろうと少しだけ親近感も芽生える
それは周りに同じくらいのとしの人間がいないせいだろう

仕事を果たすとしよう



「お前、なんで追われてたんでィ。」



少し言いヅラそうな顔をしてからまた顔をうつむける
周りを見ると人影はないがあまり安全とは思えない



「とりあえず屯所くるかィ?」



「…。」



その顔は逃げ出そうとするような顔であった
でも逃げ出すことはなく立ち尽くしてる
なにかいろいろ抱えてるようだ



「私、ちゃんと入国手続きしてないアル」



ぼそりと呟いた声に驚く
まず外国人にも見えなければ天人にも見えない
少し肌が白すぎることとか力が強すぎることだ



「じゃ、逮捕だな」



不法入国をしてるんじゃ助けるも何もないただの犯罪者だ
手錠を取り出して捕まえようとしてる時だった



「居たぞ!!」



追っ手が2人ほど走ってくる
血相を変えて逃げ出す彼女を追いかけようとするが
どんな事情かわからないもんだ
とりあえず追っ手の方からから捕まえるとしよう



「お前らなにやってんでィ。」



彼女が走って行くのをほうっておいて追っ手の方の足を止めた



「い、いやぁ…おまわりさんじゃないですかぁ…」



俺のことには今気がついたようだ。まさか真選組が居ると思って居なかったようで困ったように笑うがその目は泳いでいる
何かあるんだろう
きっとそれは犯罪の関わることだ



「迷子探しなら手伝いやすぜ?」



頭の中でつなぎ合わせる
こんなチンピラとあの女にどういう繋がりがあるのか
あの女は強かった
ただの喧嘩…?んなはずない



「い、いやぁ…違いやすよぉ…!ちょっと子供との鬼ごっこに本気になっちゃって。」



苦しい言い訳にニコリと笑い返す
そんな見苦しい言い訳をする汚い大人は、嫌いだ

もちろん…言い訳もしない大人も嫌いだ



「じゃあ鬼ごっこはもうやめだと俺が言ってきてあげまさァ。これでお兄さんたちも仕事に戻れますよねィ?」



困ったような笑顔がピクリと固まる
そんなに捕まえないとやばい少女なのだろうか



「あ、ありがてぇ…これで俺たち仕事に戻れらぁ」



その歩きは余裕ぶっていたが少しだけ早かった
これは本当に、なんかあるんだな
少女が走って行った方に俺も足を向けた

そのまま路地裏の奥の方に行くと傘が降ってきた



「おう、そこに居たのかィ?」



上を見上げるとあの少女がニヤリと笑って座っている
その姿は怪しく、それでいて自然だった



「よいっしょ」



ぴょんっと人間だったら骨が折れているであろう高さから悠々と降りてくるとまた俺に向き直ってから笑う



「さっきの、礼を言ってやらなくもないアル」



そんなことを照れ臭そうに言う姿は少しだけ可愛げがあり笑い返す
年の近い友達とか居たら良かったのに



「ちょっと面白そうだから首突っ込んでみただけでィ。」



2人で路地裏の一番奥の少しだけ広さのある場所まで歩いてからそこにある土管に座る



「お前どこからきたんでィ?」



隣りを見やるとなんだか意味深に空を見上げていた
それに釣られて俺も空を見る



「この宇宙のどこかアル。場所とか、そーゆーのは自分でもわかんないアル。」



こいつが天人であるとわかったがそれがどうのとは思わなかった
人間と全然変わらないじゃないか
女の子でしかない



「ふーん。親は?」



「どっかの惑星でエイリアン倒してると思うアル」



親の居ない自分だが心の中で少しだけびっくりする
普通ってのは遠出する時は大人がついていくもので、姉と離れて暮らしては居るが危ないところは土方さんや近藤さんと一緒の事が多かったし
働いている俺でさえそうなのだから女の子であったらもっと厳しいものだと思ってた
違うのかもしれないが



「お前はなにしにきたんでィ?」



答えたくなさそうに黙ってうつむいてしまう
なにか余程の訳があるのか
それとも本当になにもないのか
はたまた悪い事でもしにきたのか

いつのまにか犯罪者と一緒という意識は薄れていた
いつのまにか友達のような親近感が湧いていた



「家でいつも1人だったアル」



ポロリとこぼした言葉にくびを傾げる
質問と答えがつながっていない
もしかして日本語はイマイチわかっていないとかなのだろうか

もう一度質問を変えようと口を開くとちょうど話し始めた



「1人って意外と寂しいもんアル。家に居たらイライラしちゃうハゲ散らかったパピーも、バカ兄貴も、居なくなったら自分の存在意義がわかんなくなっちゃうヨ。」



ふと自分も考えてしまう
もし、俺1人で江戸に来て居たら
すぐに帰っちまうだろう
誰も居ないこの場所に用なんてないんだ
近藤さんが居るから居るに過ぎない
1人なんて考えられない

それを考えると少女の横顔は泣いてるようにも見えた



「そんな時に居てくれとか、来てくれとか言われたら自分はそこに居て良いって言われてるようで、ついついて行っちゃったヨ。でも、それは甘い考えだったアル。必要とされてたのは私じゃなくて、ただの汚れ役だったのヨ。」



それは小さな声だったのに、何故か言葉がハキハキと聞こえた
あの馬鹿力からどのような事があったのかを連想させた
そして酷いもんだと心が暗くなる



「逃げ出してきたんだろ?抜け出したいと思ったんだろ?ちゃんと生きてェんだろ?」



たくさんの思いが募る中で少女は小さく笑って大きく頷いた
俺は顔を背けて軽く頭を撫でてやることしかできなかった



「あー、こんなかたっくるしい話もうやめようぜィ。頭痛くなってくらァ。」



立ち上がって歩き出す
それに少し遅れて後ろからちょこちょことついてくる音が聞こえた

そして"ぐぅぎゅるぎゅる"と盛大なお腹の音も聞こえた



「飯食いいくかィ?」



「さんせーアル!」



今度は少女が前に飛び出していく
ぴょんぴょんと飛び跳ねる少女を見てクスリと笑う
うさ耳でもつけてやったら似合うだろう



「おいこら待てチャイナ!」



自分で普通に出てきた言葉に自分で感心する
チャイナって良い呼び方かも
チャイナ服だし、アルアル言ってるし
この呼び方で呼ぼう
納得しながらもチャイナの後を追いかけた
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