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□ひなまつり
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今日がなんの日か知っていますかー?
元気よくテレビの向こうのレポーターさんが笑ってる

テロップに出るひな祭りの文字に首を傾げた
桃の節句、ひな祭りですよー!と笑うがここ数年住んでいたハズがこの日がなんの日かよく知らない



「銀ちゃーん、ひな祭りって何アルカ?」



銀ちゃんはジャンプから目をあげようとせずにいつも通り鼻に指を突っ込んでる
そんなに指突っ込んでたら鼻の穴がでかくならないのだろうか。いつか真麻みたいになるんじゃないだろうか。"真麻 鼻"で検索するように"銀時 鼻"でいつの間にか検索されるようになるのではなかろうか

もう、こいつは手遅れだろう
構うのもやめて寝そべる

テレビの情報だけじゃ桃の節句がどんなものかわからない。



「神楽ちゃん、今日は桃の節句、ひなまつりだね!」



もう飛んでる花粉を警戒してかマスクとメガネが新八をかけていた
なんか小さく突っ込んで居たけど聞こえなかったことにしよう



「ひなまつりって何アルカー?」



「うーんとね、女の子の成長を祝う日、かなー。だからね、今日はひなあられ持ってきたよ。」



差し出された包みを開けるとカラフルな丸い何かがあった



「ひなあられ?」



女の子の成長を祝う日、それもよくわからないけど
ひなあられはもっと気になった
小さくてカラフルで可愛い



「うん。ちょっとしかないけど、美味しいよ」




そう聞いたら早速一個口に入れた
甘い、けど金平糖とはまた違くて、噛むとカリッと音をたてて砕ける
おせんべいの丸い版みたいな感触
甘いし、可愛いし、美味しいなんて!素敵なお菓子だ!



「これ、持ってても良いアルカ!?」



良いよっと頷く新八の返事が聞こえた時にはもう駆け出していた

これをそよちゃんに持って行こう!
きっとそよちゃんも喜ぶだろうし、私も一緒にひなまつりを、女の子の成長を、そよちゃんと祝いたい!

バタバタと城の近くまで行くといつもより多い見張りに気がついた
それ以外にも一般の人も城に入っている
なんだか、入りづらいな



「チャイナ娘じゃねぇか」



声の方を振り向くと土方だった
なんだ、トッシーかとどこかで冷める自分に気がつく



「今日はいつもと違うアルな…。」



どうしようかと悩んでいながらもトッシーに言えば絶対中には入らせてもらえず追い払われるだろうと予測がついていたため
何も知らない顔して尋ねた



「ああ、今日は桃の節句だから、でかい雛人形が一般公開されてるんだとよ。それでこんなに駆り出されてんだから迷惑なもんだ。」



「雛人形?」



また新しい言葉に首を傾げる
ひなまつりに、ひなにんぎょう
関連づけようとするけど同じなのは"ひな"の部分だけ



「なんだ、お前知らねぇのか?」



うん、と素直に頷くと
あー、お前のとこで飾るイメージもないしな。と適当に答えながらタバコに火をつけていた

こいつら暇なんじゃないのか?
と、思ったけど口には出すまい。そよちゃんと会えなくなったら困るし



「なんかな、五人囃子とかお雛様とか…、とりあえず人形がでけー階段みたいのにズラーっと並んでんだよ。そんだけ。」



なんだ、美味しそうではないな
でも、少しだけ気になる



「あー、そういえば菱餅が来場者全員に配られるとか言ってたな」



ポロリと口走ったあとに私の表情をチラリと見て後悔しているようだった



「餅…!」



これは絶対食べ物だ!目を輝かせよだれを垂らすと、大変な急用を思い出したと逃げようとするトッシーの肩を掴んだ
もちろん、狙いは菱餅だけど。



「ふー、わかった。雛人形見たらさっさと帰れよ。」



そう言うと並んでる列に案内されてそれに並ぶとだんだんと進んで行きやっと城の中に入ることができた
その時にほしかった菱餅もゲット
三色のカラフルさが、また可愛いじゃないか

と、それだけをしにここに入ったわけではないのだ!
ポケットの中にあるひなあられをポンポンと軽く叩いて確認すると人目をついて城の中の中に侵入した
時々城の中で鬼ごっこをしていたからきっとわかるはず!
と思って走り始めたは良いが…



「迷子ネ…」



同じような廊下や襖や障子に囲まれてどうやって出るかすらわからない
適当に襖をそっと開けて覗き込もうとした時だった
後ろの気配を感じて振り返ると



「ゔあ!」



叫んだ瞬間その襖の部屋に押し込まれ口を手で封じられた
格好的には後ろから抱きかかえられているよう
その相手は誰か知ってる
私の叫び声に反応したのか誰かがそこを通ったが、その後ろの人物によって間一髪でばれなかった



「何してるアルカ」



おさえられていた手をどけて見上げると冷たい視線が送られる



「不審者を捕まえたところでィ」



懐から手錠を取り出したので離れようとしたが思ったより強い力で抱きかかえられていたため離れられなかった
でも、いつもよりなんとなく反応が遅い沖田



「お前、どうしたアルカ?」



なんとなく熱っぽい顔をしている気がする
そう思うとなんだか触れている肌も熱く感じた



「風邪?」



ざまぁーっと叫びそうになったところでまた口をおさえられた

そうか、今お城の中だった
しーっと口元で指をたてる沖田が少し笑ってるような気がした



「昨日ずっとラジオ聞いてて、寝不足なんでィ」



言われてみればうっすらと目の下にクマがある気がする
いつの間にか閉じられる瞳の下に指を添えていた
沖田は抵抗することもなく目を閉じたまま
向き合って座ろうと身体を動かした時にゴリっと何かが潰れる感覚が太ももあたりで感じた



「あっ!」



また大声をあげてしまったが沖田がビクッと身体を揺らしたくらいで声は空気に溶けていった



「うるせェ。」



「そよちゃん、どこアルカ?」



そよちゃん?と一度は首を傾げたが、
最近起こった事件を思い出したのか苦笑いで、ああ、あのじゃじゃ馬姫。と思い出したようだった。



「この隣の隣の隣くらいに居るんじゃねェ?」



眠そうな目をこすって立ち上がると襖をそっとあけた
一瞬で包まれていた熱がなくなるとなんだか寂しい

そうか、今さっきまで、抱きしめられていた



「いかねェのかィ?」



振り返る沖田と目があって、急いで立ち上がる
そしてまたポケットの中の異物の感覚

そっと取り出して包みを開いた



「やっぱり、砕けちゃってるネ」



カラフルだったのに、砕けてしまえばあまり可愛げはない
見せたかったそよちゃんへのお土産はもう壊れてしまったのだ

しょうがないんだけど、でも…



「それ、ひなあられかィ?」



私の手元を覗き込む沖田に、うんと渋々答えると
ぷっー。砕けてますけど?なにやったんでィ。これお土産とかまじないわー。とかなんとかバカにしたように小声で笑われた

ムカついて怒ろうかと思ったけれど、ひなあられはどうしたって割れたままだ

そよちゃんに、見せたかった。一緒に食べて、美味しいね。って可愛いね。って、お話したかっただけなのに。
うまくいかない。せっかくのひなまつりなのに。自分の中では初めての桃の節句なのに。

落ち込んでいる私をからかうのも飽きたのかまた沖田は懐をゴソゴソと漁る
また手錠で脅してくるのだろうか



「いる?」



私の持ってる包みより大きくて、私が持ってるよりカラフルなひなあられたち



「いる!」



手を伸ばしてもらおうとしたがすぐに避けられる
いつものようにからかいか。と舌打ちをしようとしたところで一本指を立てて私に突き出す



「条件、これをじゃじゃ馬姫に渡して気が済んだら俺の枕になること。」



それぐらいなら…まあ、良いか
ちょっと嫌だけど、ひなあられは美味しいし可愛いし、そよちゃんと遊びたいし!



「それくらいなら、まあ、良いアルよ」



そういうと小さく笑って交換っと私の手の中のものと沖田のひなあられは交換された

それを喜びながら廊下をそろりそろりと気づかれぬように一列で歩く



「土方さんも時には役に立つもんですねィ…」



ボソリと聞こえた独り言



「ん?」



ひなあれから顔をあげてみたが、なんでもねーっと素っ気なく返されるだけだった

ふとした疑問が湧く



「なんでお前ひなあられ持ってたアルカ?」



小さく振り返ったかと思えば冷たい視線
そして向き直る
なんだよ、なんかあんのかよ
無理に聞こうかと口を開きかけたところでボソリと聞こえた



「ちょっと、死んだ人に。でもどうせ死んでるから食えねェだろ。だからちゃんと食うやつにやる。」



それがどんな相手かなんとなく触れてはいけないのだと子供ながらにわかったので
それ以上は追求しなかった

でも、それはきっと女性なのだろうから…
少しは気になったりする



「ふーん、その人の分まで喜んで食ってやるから安心するアル」



「おう。」



そんな会話で打ち切り
私はそよちゃんの居る襖を勢い良く開けた
ちゃんと一緒にカラフルなひなあられを食べて、そよちゃんの方がもっと立派なひなあられを持っていたのにはびっくりしたが、楽しかった
散々遊んでから日がくれかけてきたのでそっと城から抜け出した

既に春はきているようで、風は暖かい



「枕、遅い」



そのまま沖田に連行されてまた城の小さな畳の部屋に連れ込まれた



「大丈夫アルカ?」



「ん、ここら辺全部真選組の休憩部屋」



最初にいきなり押し込まれた時のように後ろから抱えられて沖田はいつものアイマスクもせずに瞼を閉じていた
眠たそうに時々目を開けるが頭は寝ているようだ



「暑くないアルカ?」



振り返るのもきつい体勢なので正面を向いた
ひなあられをもらってるものだから振り払うのもなんだか悪い気がする



「…鼓動が心地良いんでィ」



そうつぶやくとスーッと寝息が聞こえてきた

やっぱり、眠たかったのか
あまりにも静かなものだから、自分も鼓動に耳を済ませた
一定になるそれは本当に心地が良かった
微睡が訪れる私の耳元で小さく
"姉上"と聞こえた気がして、
でもそんなのは聞こえなかったことにして、わかったけど知らないふりして、
そのまどろみに任せて落ちていった



この後2人を発見した土方がどうしてこいつにチャイナの見張りを頼んでしまったのだろうと後悔していたのでした。



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