SS

□グラグラ三角
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グスンと鼻を啜ると花粉症もあって鼻の奥が痛かった
落ちてくる涙のような鼻水をかむのだってヒリヒリと痛んだ

はやく王子様、私を迎えにきてよ。
心の中で夢を描いてる

それをクスクスと笑いながら見てるムカつく奴が居る
ちょうど通りかかったサラリーマンなんだと思っていたら学生時代の同級生だった。そして今も同僚として毎日のように顔を合わせて居る。
こんな時にまでなんでこいつとは出会うんだろう。腐れ縁どころではない。



「見てんじゃねーヨ。サド野郎」



私が泣いてる真向かいのベンチでネクタイを緩めながら余裕そうな顔しやがって
ムカつく



「やーっと課長との不倫が終わったんだろィ?めでてぇ話じゃねーか。」



「不倫じゃないアル」



「奥さん居たんだから不倫だろ?」



実際彼女が居た、居たんだが私は知らなかった
そして近々結婚すると回り回って他の人から聞き、知った
今日確かめに問い詰めたら本当だったらしく全力で殴り倒したかったが、そんな元気もなくそのまま仕事に打ち込んで残業までして帰路についた
そして今に至る



「まだ、結婚はしてないアル…」



「じゃあ浮気?三角関係?」



どん、どんっと言葉が重くのしかかってくる
どうせ私は浮気相手の方で確かにあまりにも手を出してこなかったしクリスマスだってバレンタインだって一緒に過ごせなかったけども、だ
私はそれでも気づかないほど好きだった



「だから俺はやめとけって言った気がするけどねィ?」



そこまで言われてもこいつの言葉はいつもからかわれているようでむしろ別れる気にはならなかった
今や後悔と腹立たしさに涙しか出てこない
もちろんこいつが居るからまたムカついて涙が止まらないとも思える



「俺にしとけば?」



「こんな時までからかってんじゃねーヨ、見物料でも置いて帰れ!」



ムカつきのあまり履いていたヒールを全力で投げたが残念なことにあいつに当たる前に地面に落ちて転がっていった

それをベンチから立ち上がったあいつが拾って私の目の前に跪いて私に履かせた



「ちょうど落ち込んでんだから漬け込もうとするのは当たり前だろィ」



いつもは見上げて見てるのに、下から見上げられると変な感じ
くすぐったいような、こそばゆいような



「漬け込んで、どうする気アルカ…?」



「え、とりあえず夜の大運動会」



ヒールの尖ったところで殴りたい衝動に駆られたが涙がやっと止まって笑えてきちゃう



「一種の励まし?」



目の端にたまった涙を拭うと泣いて乱れていた髪を沖田の細く長い指で耳にかけて整えてくれた



「だから、漬け込んでるんでィ。励ましじゃねェ。」



言い方はぶっきらぼうなくせに
漬け込むって普通本人目の前にいう言葉じゃないし
どこか優しさを感じてしまう



「普通の女子だったら落ちてるかもしれないアルな」



ふーっ笑っちゃった
なんて息を整える私の目の前で彼は本当に子犬のような瞳で私を見つめてる
中身は真っ黒なくせに、見た目のおかげで職場でも腹黒王子と呼ばれている



「そうか、お前普通の女子じゃねェな。」



「今のその一言で今までの良さげな雰囲気が全て壊れたネ」



まだ跪いたままだった沖田がスクッと立ち上がったかと思えば隣りにドカッと腰掛けた
そしてそのまま私の手を握った



「お前それ私の足触った手だロ?汚いアル。」



「お前だって今さっき靴投げたから一緒でィ」



今さっきは甘い瞳で見つめていたはずなのに今目があったらただの睨み合いになってる
課長だったら私が泣いてる時は抱きしめてくれるし、私を女の子として扱ってくれるのに
そう思うと握られた手からそっと離れてしまった



「なんで手、離すんだよ」



もう一回握られる前にベンチから立ち上がると公園の出口まで早歩きで歩き出す
が、ちょうど何かにつまづいてしまったのか転んでしまった



「あー、もう、嫌なことばっかりアル」



泣き出してしまいたくなった
今さっきまで励まされてたはずなのに自分の女っぽくなさが嫌で、簡単に他の人に逃げ出そうとする自分も嫌で
こんなんだから、浮気相手にされちゃうんだ
きっとこれからも本命になんかなれない
そんな気がしてきちゃった



「俺からの告白も嫌なことのうちに入るんですかィ?」



今度も王子様みたいに手を差し出す彼
見た目は様になるのに、内面を思うとからかわれてるんじゃないかって心配になる
そして、グラグラしてる自分が恥ずかしい



「あれ、本気の告白、アルカ?」



差し出された手に素直に甘えられない
甘えるのが恥ずかしい
だからモテないんですよ。ほんと。



「別に返事とかせかさねェから。本気ってことだけはわかっとけ、バカ」



あまりにも手を出さない私に呆れたのか無理矢理引っ張られて立ち上がった

もうね、グラグラしてるんだよ
そんな私でも良いの?



「考えとくアル…」



手を繋いだまま、心をグラグラさせて
私たちはちゃんと帰路についたのでした
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