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□過去なう
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ぼんやりと歩くいつもの見回りルート
今日もサボるか。と足を進めていくと目障りなお団子頭をみつける
あのぼんぼり、あいつしか居ない。間違いなくあいつだ。

"最近神楽がおかしいんだよねー"

いつだったか忘れたが最近旦那がポロリと漏らしたことを思い出す
そうですかィ。とどうでもよく返事をしたが、"おかしい"チャイナを見物するのも悪くないかもしれない
珍しいものは見ておくもんだ。面白いことに繋がる時があるから。
でも、めんどくさくなることもあるか…
そこで最近のCMを思い出す、でもやしかし、あなたの買い時を…買い時はどうでも良いか
とりあえず俺のやる気が"でも"によって邪魔されてしまった。
いつやるか?今でしょ!
自分の負けず嫌いさと単純さに嫌気がさしたが足はそのままチャイナのもとへと運ばれた



「よー。雌豚じゃねーか。こんなところで何やってんですかィ?」



変だと悟られないようにけなしを混ぜて話しかける
が、無視
無視ってすごいダメージ食らうことがよくわかった
だが俺だって負けていない。今やるのだ!



「おい、次返事しなかったら強制帰還させてやらァ。聞いてんのかィ?」



公園の端っこでしゃがみこんでいたチャイナの肩を軽くだが乱暴に叩いた
ゆっくりと振り返ったかと思うと拒絶を含んだ眼差しで睨まれる



「一緒に居たくないアル。近寄るな、腐れポリ公が。」



いじけたように木の枝で地面に何か書いている
それは寂しそうで、見ているだけで気が落ち込んでしまいそうだ



「なんでィ…。この頼りになるお兄さんが相談にのってやらァ。おら、なんでも言ってみろィ」



その後ろに俺もしゃがみこんで背中を突っつく
うざったそうに振り払っていたチャイナだが俺の粘り勝ちのようだ
やっと俺の方に向き直るがやっぱりしゃがみこんで木の枝を持ったままだ

"誰にも寄り付かねーって言うのか、避けてるって言うのかねー?飯もあんま食ってねぇし。まあ神楽もね、お年頃だからしょうがないところはあるけどさー、沖田くん歳近いし、ちょっと見てきてくんない?なんかお礼するからさー。"

"旦那からもらうものってしょうもないもんばっかなんで、パスしやす。"

"そーいわないでさー、前とか真選組助けたじゃん?いろいろあったじゃーん、長い付き合いじゃんー、じゃーん。じゃんね?"

と、しばらくじゃんじゃん言い続ける旦那を俺もじゃんじゃんしてから別れた
確かに、この様子のチャイナは面白いかもしれない。飯をあまり食わないチャイナも中々に見られないものだろうし。
口の端しがニマニマしてしまいそう
こいつでも落ち込むことあるんだってよー
アル中のくせに…あるんだってー…へへへっと嫌な笑いが出てしまいそう



「お前に相談する奴絶対居ないだロ。その笑顔確実に人の不幸を喜ぶ顔ネ。」



ぐるぐるとわけのわからないミミズを書いているこいつにも相談する奴いないだろうな。絶対。
俺も相談されることなんてないけど。



「しんみり真剣に聞かれる方がうざってェだろーが。俺はそこんとこも配慮してやってんでィ。」



「既にそのしてやってる宣言がムカつくネ。お前のとこだけ雹(ひょう)降ってきて死ねば良いアル。」



結局会話してんじゃねーか。と呟くとまたケツを向けられた
今度は俺は隣りに並んで木の枝を手に取るとチャイナが書くもの書くものを全て消してやった



「もうお前ほんと帰れヨ。地味な嫌がらせが1番きついアル。」



木の枝をぽいっと投げて俺から距離をとるとまた木陰に隠れてしゃがみこんだ
俺もそれを追いかけて、ポカポカと日の当たる場所に立つ



「最近相手居なくて鈍ってるんでィ。ちょっくらひと勝負といきやせんかィ?」



やっと顔をあげて俺をまっすぐ見たかと思うと、やはりそれは拒絶を表していた
自分の中で知ってる眼差し、こんな仕事をしてるからか人の考えてることに敏感になっている気がする



「もうお前とは勝負しないアル」



持っていた枝を指でいとも簡単に折ってしまうとそれを捨てた
これくらいのことでは驚かないが眉がピクリと反応したのが自分でもわかった
この俺が動揺しているみたいだ



「なんで?負けるのがこわいのかィ?」



「ちげェヨ。うるさいアル。」



なんで?ともう一度いいかけてから彼女悲しい目に気づく
何を怯えてる?何を思っている?
悲しみの理由を教えてくれよ
俺は中途半端にしか知らなくて、踏み込むことすらできなくて
お互いに睨み合うだけ



「どうした?」



気がついたらチャイナの頭に右手を、左手では腕を引っ張り抱き寄せていた
優しく問いかけていた
ポスンッと最初はおさまりがよかった
だがしかし、
俺だって混乱しているというのにチャイナはそんな俺を突き飛ばした



「お前は、なんでそんなことするアルカ!?」



いきなり怒り出すし、泣きそうな顔はしてるし、俺だってわかんないんだよ
そんな説明もできない
ただ、自分でも自分の頭を抱えていた



「いや、わかんねェけど…。したかったんじゃねーのかねィ?」



他人事のように言う俺なんかに目もくれずに泣き出してしまう少女
さすがに女の子だった。本当に小さな少女だ。
自分がダメだったところはわからないけど、泣かせちゃダメだと思った。
今まで泣かせるなんて大好きなことだったのに。そんな俺が泣き出すチャイナに慌ててる



「やだ。嫌だ。嫌なんだもん。」



グスングスンと子どものような泣き声をあげて
いつもは旦那とメガネに囲まれて大人たちとも同等に戦っているのに。
こんな時には本当に、小さくて幼くて弱くて…守ってあげたいと思っている自分がいた



「なんでィ…。急かさねェから。言えよ。誰にも言わねェし、けなしもしねェから。約束してやらァ、指出しなせェ」



無理矢理小指を出させると指切りげんまんをしてやった
嘘ついたらタバスコ大量のケーキを食わせる。だ。
食べないように嘘はつかないようにしよう。
グスングスンと泣いている横で背中を撫でてやる。そうか。これが妹を持つ兄の気分?
新しいチャイナの一面を見て、動揺している自分にまた動揺している。
やっと泣き止んだ時にはもう気づいていた。そういうことなのかもしれないって。



「過去がね、過去になるのが、こわいアル」



うん。と頷いてはみたものの意味がわからない。時間はね、すぎていくんだよ。しょうがねぇだろ。なんて言ったらまた泣き出してしまいそうで言葉を飲み込んだ。
俺だって空気読んだりする時があるんだ。
わけわからないついでにチャイナをベンチに座らせて隣りの自動販売機でオレンジジュースを買って手渡す。



「リンゴが良いアル…。」



「はいはい。」



こいつの自然なわがままは、なんだか好きだ。いつもバカみたいなことばっかりしてるくせにいきなり大人な顔して戦ってるより、こうやって本当に年相応の顔してる方が、良いじゃないか。
たぶん、好きってのは良いって意味なんだ。とその時俺は思った。

リンゴを渡して俺は久々にオレンジを飲んだ
最初はグスグスシュンシュンいってたあいつも落ち着いてる



「過去がなんだっけ、過去が黒歴史すぎて辛いんだっけねィ?」



「それは現在進行形でお前アル」



痛いところをつかれた気がする
が、俺もまだまだ十代なので、あと黒歴史が痛い痛いっつーんなら知ってる奴全部消せばいいんじゃないだろうか
そうか、この発言が黒歴史と化していくのか、よくわかった。



「今が過去になって、楽しかったことが悲しくなって、それが全部嫌ネ」



黒歴史について悩む前にその言葉の内容に悩む
俺にとってのその経験を思う
過ぎていく時を寂しいと思う時…
脳裏に柔らかく微笑むあの人が見えた
楽しかった、悲しい思い出



「うん。」



心の奥が大きくなったような、窮屈になったようなこの感覚はなんなのだろう
大きくなっても自分の器はまだ小さくて溢れてこぼれて全てを掬いきれない
悲しいね、って同調することも否定することもできない



「しょうがないこともわかってるアル」



「じゃあ、そう言うなら、今やれば良いだろィ」



自分でもむちゃくちゃなことを言ってることを理解している
意味わからない
わからないけど、言葉は必死に紡ぎ出されている
まだ抱えきれない溢れでた思いをこうやってこぼしていく



「過去にしなけりゃ良いんでィ。会いてェ奴が居れば会えばいいし、楽しかったことがあるならやれば良い。」



会いたい奴って、絶対俺のことじゃん
言ってから気づいたけど、これすげェかっこわるい。



「できたら苦労しないアル…。しないけど、できるかなぁ?パピーはまた私を迎えにきてくれるかな?バカ兄貴は元のバカに戻るかな?」



そっか、溢れたのは言葉だけじゃなかったんだ
小さな彼女は、小さな身体で、そんなに抱えられないだろ?
そっと手を伸ばす



「つめた!」



首に手を突っ込んで笑う
思ったより俺の手は冷えていた
チャイナの首からもう手が離せない



「寒かったからしただけでィ。今を楽しくいきたいんでねィ。」



ブンブンと暴れまわって俺の手をどうにか振り払うと俺の手からオレンジジュースを奪いとってがぶ飲みされた
まだ半分も飲んでねェのに、いや、寒くて飲めなかっただけだけど
てか、これ…



「ぷはー!リンゴの後のオレンジは格別アルな!」



「…間接チュー」



しばしの沈黙ののちチャイナはストンッとベンチに落ちるように座った



「してないアル。」



「俺はしてないけどお前は確実にしたと思うぜィ?」



してないと言い張るチャイナの顔を覗き込むと真っ赤だった
目が合うとそれは自然とキスの合図な気がして、今度は直接チュー



「チューしやがった」



「うん、やりやした」



真っ赤なまま固まってるチャイナ
これも後になれば過去のことになってしまう
写真を撮ったって、それは永遠じゃない。それは本物じゃないから。寂しく思ってしまうんだ、悲しくなってしまうんだ。



「ねえ、過去になるの、お前も嫌になったアルカ?」



今、お前も嫌って思った?なんて、聞くのは無用。それは表情ですぐにわかってしまう
寂しいんですか。そうですか。

黙って過去を今にするだけ



過去なう

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