SS

□お困りカップル
1ページ/1ページ

「お前の良いとこってツンしかないとこだよな」



千切れた雲が浮かぶ真っ青な空を眺めて彼は呟いた



「意味わかんないアル」



ぶっきらぼうに私が返すと、彼はクスリと笑ってなれた手つきでアイマスクを装着した
日向で昼寝の体勢だ



「うん。そういうとこが好き」



もうこいつは見えてないから、私は小さくガッツポーズなんか決めちゃったりして笑う
好きな人からの"好き"は最高に嬉しくて、それ以上の言葉はなかった

今日の天気は快晴であったかくて、眠たくなっちゃう
もし他のカップルだったら一緒に肩を並べて寝るのかな?
寝息をたてはじめる沖田の髪にちょっとだけ触ってみる
柔らかくて、お日様のおかげかちょっぴり温かい
寝てしまっているようだし安心して今度はほっぺたをぷにぷに
起きてたら絶対できないけど、言ってみる



「私も…私は、…全部好きだヨ。」



この言葉は起きてる彼には絶対言わない
きっと、嫌われてしまうから
ベタベタと甘えることもしないし、記念日だって忘れたフリをするし、お揃いのものだってなくしたなんてウソをついてみるし…。
彼に好かれるために私にできることの精一杯だった。
ずっと前から片思いをしていた私は、クラス会で盗み聞きしていた彼のタイプ、気の強い女の子になろうとした。
元からそんな節はあったし、無理ではなかったけど。
彼に本音を言うのはいつも堪えた。
好きとか、チューしたいとか、ギュッてしてとか…甘えることは自分の中で禁じた
彼にずっと好きでいてもらいたいから

これからもこのまま距離を自分で詰めることはできないけど、ずっと隣りにいられるのなら簡単だと思った
思っていた。
今は、欲しか出てこないけれど…

寝てる沖田のほっぺたにキス
それでももっと欲しくて唇にも
こんなことバレたら…嫌われてしまうだろう…
だって、沖田の好きな私はこんな私じゃないんだもん。

沖田はまだ私とキスをしたことはないのだろうけど、私はこれで何度目かのキス
毎回寝ている時にだけ勝手に甘えてみる
肩にもたれてみたり手をつないだり伸ばした足の上に馬乗りになってみたり…
誰にも見られないようにしていたのに
ギイと屋上のドアが軋む音をたてた
そこには、どっかで見たことある地味さ



「お、お邪魔しました」



うわあー!と叫んでドアを閉めてたち去ろうとする山崎を追いかける
やっぱりスカートは走りにくいけど、運動神経は並の男子にも負けない。ジミーの肩を掴むとそのまま引っ張り込み投げた



「おま!今の!忘れろ!」



ううっと頭を押さえて痛がるジミーなんか無視して混乱のままの言葉を叫ぶ
顔をあげたジミーの目の前に座って追い詰める
動けないくらいに顔を寄せた



「忘れられないなら存在ごと忘れさせてやるアル」



「え?殺す気ですか?チャイナさん」



こわごわと震える山崎に追い込みの拳を頭のスレスレに食らわせてやる
めりっと壁が凹んでしまうのを横目で見る山崎の顔色は空とはまた違う真っ青だった



「場合によっては、それも視野に入れるアル…」



ガタガタと震えているがこいつなんやかんやでしくじるようなおっちょこちょいだ
完璧に忘れさせないとぽろっと言ってしまうんだ
知っているぞ山崎…お前は最後の最後にダメさを発揮する奴だ



「わ、忘れました!大丈夫です!沖田さんに馬乗りになってるチャイナさんなんて知りません!」



「言ってんじゃねぇカ!やっぱり殺すしか…」



「いや、ほんと言わないんで!命だけは!命だけは見逃してください三百円あげるから!」



山崎にばれてしまったということは、だんだん周りにもばれていくってことなんだろうなと思った
そう思ったら今までの苦労が全部意味をなくしてしまう
沖田に嫌われたら…
私の中で沖田の存在は大きすぎて自分にとってなくてはならないものになっているのに



「自分でも、どうにかしなきゃとは思ってるアル。」



え?と困ったように首を傾げる山崎の頭を掴んで揺らす



「自分でもストーカーみたいで、ゴリラみたいで気持ち悪いくらいはわかってるアル!」



「なんでゴリラって言い直したんですかー!?」



グラグラのめちゃくちゃになっているであろう山崎の頭を手放すと決心を決めた
これは絶対に誰かにバレちゃいけない私だけの秘密だったのだ。
それがばれたからには…



「よし、今日から24時間体制でお前を見張るネ!」



「いや自分をどうにかしてくださいよ!俺ほんと誰にも言わないんで!」



わかっているがどうにもできない自分の欲
でもこいつを見張ることによって沖田と関わることも減るだろう
きっとそうなると少しは自分も改善される!と思う。



「トイレはついていかないから安心するアル」



安心できねー!と頭を抱えているがしょうがない
私もこいつに安心はできない
昼休みも終わり、授業も終わると放課後
沖田が部活に行く前に捕まえる



「今日、先帰るからナ」



「んー。わかった。」



沖田もやっばり私と同じで素っ気なく、竹刀を抱えて教室を出て行った
その報告さえ終われば山崎に張り付く



「いや、俺これから委員の仕事があるんで」



そんなことを言われても黙ってその後ろをついていき仕事の様子を眺める
実際雑用しかやっていないように見える。さすがジミーだ。ジミーの名は伊達じゃない。



「うるせー!俺だってやりたくてやってるわけじゃねぇんだよおおお!!!」



私のせいで前より頭がおかしくなったかもしれない。叫びながらもちゃんと仕事はしていた。



「でも、なんで沖田さんに秘密なんですかー?付き合ってるんでしょ?」



やっと落ち着いたのか声のトーンはいつも通り。
ドアの端に隠れるようにして覗いていたがそれをやめて教室に入り端っこの机の上に座る。



「あんなの、私のキャラじゃないし。」



どう説明しようかわからずに出てきた言葉をそのまましゃべった
ジミーは手を休めることなくこちらも見ずにしゃべる



「ふーん、俺だったらたまさんが実は変な趣味があったとかでも好きですけどねー。」



「それは、お前がたまに一目惚れしたからダロ!こっちの場合違うアル。」



私の片思いから始まったんだ
なんて恥ずかしくて言い出せない
それにもうこれだけで顔は真っ赤だ
こんな姿誰にも見られたくないけど、ジミーは地味だから良いや。



「俺が地味なのは知ってますけどなんかその言い方嫌です!」



ジミーは地味なりに地味なツッコミをするとふーっとため息をついた
私もため息をつく
勝手に好きになって勝手に苦しんで、何やってるんだろう



「でも、あれでしょ?告白したの沖田さんからじゃないですか?」



何も言えずに黙り込む
なんて答えて良いか考えるけど、それは自分の片思いをカミングアウトになってしまう
これは墓場まで持って行かねばならない問題だ
絶対言ってはいけない



「お前には教えないアル」



ふんっとそっぽを向くとちょうど沖田
どこから聞いていたのかわからないけど、嫌そうな顔をしていた



「お前、先帰るんじゃなかったのかィ?」



嘘つきとでも言いたげな目はいつもより存在感を増して私を責めるようだった
そんな目で見られたことなんてない
ごめん!っと飛びつきたくなるのは山々なのにふんっとそっぽを向いた



「別に私の勝手アルよ!」



こうしたら、沖田は好きなんでしょ?
そう思ったのに沖田は私を無視してプリントの束を山崎に渡した



「俺より山崎の方が良かったってことかィ?」



「違うケド…」



一気に修羅場ムードに発展して山崎は複雑そうに私たちを見つめていた

こんな、怒らせるつもりはなかったのに
自分の行動も、沖田の気持ちも、全部うまく動かせたら良いのに
そんなことはできないから、うつむいてしまう



「昼休みだってザキ追いかけてったまま帰ってこねェし。」



「え?」



寝ていて知らなかったはずの沖田が口走った言葉に驚きを隠せない
私が沖田と手をつないだり、もたれかかったり、ちゅ、チューまでした時にはちゃんと寝ていたはずだったけど…途中で起きたのだろうか…?



「お前…どこから起きてたアルカ…?」



恐る恐る沖田を見上げて尋ねると、沖田は薄く笑った



「最初から起きてたに決まってらァ。お前が毎回なんかしてくるからちょっと面白くなってねィ。」



机から飛び降りて沖田の服を掴むと真っ白な頭の中から出てきた言葉を呟く



「やだ、嫌わないで」



結局ジミーに口止めをしたって本人は知っていたのだ
私の苦労はなんの意味もなく、全ては自業自得だった
抱きついて泣きつきたいけど、それは嫌がられるだろうから我慢する
でも、本当は、ギュッてして捕まえてたい
大好きな人の大好きな匂いに包まれていたい

山崎が居るなんて、その時にはどうでも良かった



「…それ、こっちのセリフでィ」



ポンっと頭の上に沖田の大きくてゴツゴツした手をのせられた
女の子たちがキュンキュンするって気持ちがわかった
キュンキュンっていうか、私の場合はズキンとキュンが一緒にきて、ズキュン!って感じだった



「山崎に甘えるくらいなら俺に言えば良いだろィ?」



はずかしそうに目は合わせてくれないけど、言葉は私に言っていた
それは確かだった



「ほ、ほんとアルカ?本当に、私が何やってたか知ってるアルカ?」



泣きそうになって唇が震えてる
泣いちゃだめだって思うたびに涙はこみ上げてくる
嫌われたくなくて必死に耐えてきたことは、沖田にとって、どうだったの?
人も気持ちはわからなくて、大好きな人こそ見えなくなって、声もかけられなくて、ツンツンしてばかり…それで好かれるならなんでも良かったの



「初めてチューしてきたのちょうど一ヶ月前だろィ?なくしたって言ってたお揃いのキーホルダーは家の鍵についてる。記念日の日は何も言わないくせに内心ワクワクしてる。それに、俺にかまってほしい時はいつも前髪触ってる。他にもいろいろ知ってらァ。どうでィ、キモいだろ。」



「キモいアル」



即答で答えてやるとのせていた手で頭をぐちゃぐちゃにされた
私も負けじとグーで軽く殴ってやった



「あの、すいません、帰ってもらえませんか?」



その後、山崎を知る者は居ない。



お困りカップル

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ