SS

□君に送信
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大好きだよってメールをしたためてからやっぱりやめる
下書き保存にたまっていく素直な私
なんで毎回好きとか、楽しかった、嬉しかった、それだけの言葉たちが言えないんだろう
怒ってばかりいる私って絶対可愛く見られたりしないんだろうな
隣りのクラスの彼を思ってもう一回下書き保存したメールを編集
お昼食堂?
きっとこれくらいしか私は言えない
お昼一緒に食べようが言えなくてまるで食堂だったら一緒に食べる?の意味みたい
机の下で見る携帯は少しハラハラする
どうせ先生は黒板に向かってお話をしているのだけど、学校で禁止されてる携帯はカバンの中にあるだけでハラハラドキドキ
その感じが好きだ、と、思う。

携帯にお返事が届いた事を振動が知らせた
せっかく天気良いから外で食べようってナチュラルなお誘い
さすがにこいつは慣れてるもんだな
私には難しい
もっと可愛い彼女になりたいのに
わかった。と絵文字もない素っ気ない返事を返して平常心平常心と平常心ではいられない呪文が頭の中でまわっていた
可愛くない彼女だと言ってるのを廊下で聞いた
そんなに気にしてないフリばかりがうまくなっている現実

沖田にはもっとレベル高い女子簡単にゲットできるってー

そりゃどうも

たんたんと終わっていく会話はたんたんと私に突き刺さった
何度も夢の中に出てきた。
夢の中では私がフられて総悟には可愛い彼女ができるなんてこともあった
他のやつには可愛いと思われなくても良いから、総悟にだけは少しくらい思われたい

授業が終わってすぐにトイレへ駆け込む
売店でパンを買わなきゃいけないけど、今日はちょっと見た目を気にしよう。ミラクルロング焼きそばパンごめん!スーパーデラックスコロッケパンもごめん!今日は女の子になります!
前髪を分けてみたりおろしてみたり、スカートもちょっとだけあげてジャージを脱ぎ捨てる

顔は可愛いけど格好とか態度とか、どうやっても俺たちには無理だー!沖田って守備範囲広いよな

あの時の会話はそこから聞く気になれずその場を離れた
隣りのクラスなんだから、聞こえちゃうこともあるってもっと気にしてくれたら良いのに

最近買ったリップクリームをぬったら便底メガネを外した

よし、あとは売店で女の子っぽいパンを買おう!メロンパンとか!サンドイッチとか!
急いで食料を手に入れると外で食べる時用のいつもの中庭のテラスの椅子に座った
総悟はまだきていない
この季節はまだまだはやすぎた。寒い。
人の気配を感じてふと校舎を見ると女の子に腕に絡みつかれてる総悟をみつけた
満更でもなさそうじゃないか
振り払おうともせずそのまま歩いてる総悟
ちょっと振り払いなさいよ!今から私の隣りにくるんでしょうが!
心の中では怒り狂ってるけど、こんなヤキモチな姿はしられたくない
弱味を見せるようで恥ずかしいし、バカにされそう
冷たい風を感じながらも買ってきたメロンパンを食べる
黄色くない緑のメロンパン
売れ残っていたのはこれしかなかった
足りない上にあんまり美味しくない
ジャージがないからいつもよりスースーして仕方ない
総悟がこないなら今すぐにでも帰りたい
優しく差し込む日差しを見ながら私の気分はどんより曇り空だった



「わりー、ちょっと遅くなった」



食べる途中で顔をあげると総悟が向かいのテーブル越しの椅子に座った
ふと顔をあげた時に気がつくのが私以外にも待っている女子たち
携帯を扱っている。食べずに彼氏や友達を待ってる…。
今日も私は可愛い彼女にはなれなかったらしい。



「お、おう。気にしてないアル。」



俄然気にしていた気にしすぎて次の一口はとても小さくて味がなくて…



「なんでお前今日…ま、良いか。なんもねェ。」



「気になるだロ。言えヨ。」



違うんだけどなー。もっとキャピキャピ可愛くしたいんだけどな。
いつもの課題を思う。見た目ならまだ可愛いと思ってもらえるんだろ?
仕草とか言ってる事とか全部変えたら良いんでしょ?



「ん、いや、…無理なダイエットとか必要ないと思うぜィ」



ちょっとは身だしなみに気づいてくれたかと思ったのに。
そう言えばパンだったせいかリップクリームが全て落ちてしまっている
全部、意味がない…
足にひんやりとした風が吹いた
一瞬気を抜いた時だ。惨めな気持ちの叫びの如く凄まじいお腹の音が中庭に響いた
クスクスと笑うサドをひと睨みするとゴソゴソと持ち物をあさりポンと私の目の前に置いた



「スーパーデラックスコロッケパン!?」



それは味も大きさもスーパーデラックスで良い感じのコロッケパン
それを目の前にしちゃヨダレはもちろん垂れる
これがまたダメなんだけど



「夜用に買ったけど賞味期限3時までだったから、食え」



「…いらないアル」



素直に受け取ることのできない私
だってかっこがつかない。可愛くもクールにもなれない。



「お前の腹の虫がうるせェんでィ。食っとけ。」



何も言い返せなくなって、感じ悪いのはわかっていたけどスーパーデラックスコロッケパンを乱暴に手に取り袋を開けてかじりつく
嫌な雰囲気
会話をしたくてもかっこ悪くて何も言えない
無意味に携帯を取り出して会話してないんじゃなくて忙しくてできないフリをする
そんなの、よくないってわかってるけど

下書きメール、全部送ったらどんな顔するだろう?

好きだよとだけ書いていた文の下の方にコロッケパンがと付け加えて送信
総悟の方から携帯がブブブッとメールを受信したことを知らせる振動音が聞こえた



「目の前に居るんだから言えば良いだろィ?」



なんてぶつくさ言うくせにメールをひらいてびっくりした顔をする
そしてスクロールして真っ赤になった



「俺も好きでィ…。コロッケパンがな!」



真っ赤になって携帯を閉じてテーブルに置いた
私もそんな反応が嬉しくて照れ臭くて下書きメールを全部送信してやろうか、なんて考えた
その間の無言は何も辛くなかった



「あー!やっと沖田はっけーん!」



声の主を見るとあのいやーな会話をしていた相手だった
あの憎たらしさは間違えるはずもない。
手に持ったスーパーデラックスコロッケパンが女子らしくないとまた言われてしまうんじゃないかと隠したかったが隠す場所などなかった



「なんか用かィ?」



総悟が振り向くとそいつは馴れ馴れしく総悟の隣りに座った



「おー、神楽ちゃん今日もよく食べるねー!」



「どーも。」



気にしてないフリ、いつものカラ元気を発揮したかったけどなんだかできなかった
イライラした



「だから、何か用事かって聞いてんだろィ。答えろよ。」



総悟はいつものたんたんとした調子に戻って話している
今さっきのは本当の総悟だったのかな?とも思ってしまうほどクールな装いだ



「ちょーど今さっきメール送ったー」



「は?」



そう言ってから携帯を手にとってカチカチとまたいじり出す総悟



「昼休みサッカーやるとか今言った方がはやい内容だろーが、無駄な時間取らせんな」



普通に成り立っている会話に違和感
会話、とはまた違うが携帯に違和感



「メール、受信音ならなかったアルな」



総悟がカチンと固まった
今更気づいたのだろうか?
隣りの友達はニヤリと嫌な笑顔



「沖田ねー、神楽ちゃんのしか受信音設定してな「あー!うるせー!」



いきなり叫んだかと思うとまたすくっと立ち上がった
変な様子の総悟だ



「サッカーやるぞ。サッカー!今猛烈にサッカーがやりてェ気分になってきたァ!」



私を置き去りに中庭から立ち去ろうとパンを持ったまま歩き出す
それを友達はクスリと笑ってみていた



「あいつ、なんてからかっても神楽ちゃんにベタ惚れなんだよね。クールに見えて熱い奴だよなー。わかりにくいよね!」



その言葉にそうか。と納得
あれはからかっていたのか、総悟の方を…え、そうだよね?
不安そうな顔で悟ったのか友達は優しく笑った。



「神楽ちゃんはメガネとジャージ装着しとかないとダメだよ?あー見えてあいつヤキモチ焼きだから、後が大変大変っ」



悪い奴じゃないってお前のこともかよ
影ながらの悪口かと思えばそういうことじゃないのかよ



「おい、お前なにやってんでィ!さっさと行くぞ!」



「うーい!」



大きい声で答えてまた私の耳もとで囁いた



「可愛い子は何しても可愛いよ。大丈夫。ごめんね。」



ぽんぽんと頭を撫でられその友達は総悟の方へとかけていく
追いついてから中庭を出ようとした時に私は立ち上がった



「総悟ー!やるからには勝てヨー!!」



「お前はちゃんとメガネとジャージ履いとけ!ばかぐら!」



お互いに笑っているのはわかっていた
右手に持っていた携帯で下書きメールを全部送信
びっくりして負けちゃったりして?

少しだけ縮まった距離で
少しだけ感じたぬくもりが
今度もまた近づきますように。
まだ見えない昼のお星様に、この願い事を送信っ!



君に送信

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