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□不器用万歳
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周りを見回してみる
なんでだろう、ピンクばっかりだよ
見上げてみればバレンタイン特設会場へ案内の看板が垂れ下がっていた
ちょうどアナウンスでもバレンタイン特設会場についての放送が流れてる
オシャレな女の子たちがそれに合わせて流れて行っているような気がした
まだまだ日付はあるっていうのに…。



「お前、バレンタインとか興味あんのかィ?」



訝しむような目で冷たい視線をおくるのはサドで、サドは自分の彼氏であったりして、普通気づかないフリとかするもんじゃないの!?



「ないアル」



「だろうねィ」



ホッとしたような顔しちゃって…。
お前は毎回毎回いろんな女子にもらってるだろうが!
私からは受け取りたくないってか!?彼女なのに!?



「チョコ嫌いアルカ?」



そんなのは聞いたことない
毎年もらっているのを適当に処理しているのは見たことあるけど、私があげたことはないし…
今となっては職場も違うからどの程度もてているのか知らないけど、学生の時にあれだけ集まったのだから職場でもそれなりだろうと思う。
そういえば、そんな奴なのに今まで浮気とか心配したことなかったな
付き合って三年目となる私たちは倦怠期なんて思うこともなくいつも通りになんとなく一緒にいていつの間にか喧嘩してを繰り返しているばかりだった



「嫌いってわけでもねェけど?」



ふーん。と返していたが、この反応から見てチョコは好物なのだろうと察しがついた
こいつは照れ隠しなのか毎回こんな言い回しを使うのだ
人ごみを流れてやっとデパートを抜ける
手にはデパ地下のお惣菜
今日はサドの家でご飯を食べて帰る予定
いつもどちらかの家で一緒にご飯を食べているから半同棲とも言えるかもしれない
それでも、そんなにイチャイチャしたことないけど



「どうせ今年も大量にもらいそうアルな。」



「まあ、そうかもねィ」



否定をしないサド野郎に腹を立てそうになるが、ここで怒ったら嫉妬してるみたいで嫌だ
自分のそんな複雑な乙女心は嫌い
自分でもよくわかんなくなっちゃうから



「やっぱ、今日真っ直ぐ帰るアル」



「は?」



バス停に向かおうと方向を変えたところで手首を掴まれた
振り返ったところでこいつが何目当てなのかすぐにわかった



「家帰るんなら俺が持って帰る」



私の手にぶら下げていたビニールぶくろをとろうと指を無理やり剥がそうとするが私も負けじと指に力を込めた



「お前の方がスーパー近いだロ!」



「これ払ったの俺だろうが!」



周りからみれば変な小競り合いだが私の中では死活問題でもある
料理作れないし。



「電話かけたら家まで料理作りにくるやつ居るだロ!それ呼べヨ!」



そう言ってグイッとビニールを引っ張ったところでサドの手が離れた
ちょっと傾いた自分を立て直してサドを見上げる
いつも通り、めんどくさそう
今さっきの言葉、嫉妬の裏返しみたいに聞こえたかも…ちょっと、恥ずかしい…。



「俺がお前ん家行けばよくね?」



予想もしていなかった提案に戸惑いが隠せない
サドは私の返答なんか聞かずともいつものバス停に歩き出した



「ちょっと待つアル!待てヨ!おい!」



後ろを追いかけて背広の先を引っ張るように掴んだ
サドは手を払いつつも振り返って私を見下ろす



「お前のそんな不器用なとこも、俺は好きだけど?」



何も言えなくなった私
頭が暑い、頬っぺたが熱い、心臓がうるさい
そんなの無視して歩いてっちゃうあいつは何枚も上手で、何も勝てなくて



「不器用だけど…チョコ作ってみようかナ…」



「たぶんそれは好きになれやせん」



お惣菜を左に持ち替えて
右手でそっと彼の左手を包んだ



不器用万歳

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