SS

□優しい雨を
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トコトコと歩く少女の後ろをぴったりとくっついて歩く
もちろん嫌がらせのために

前を歩く少女は後ろの俺が嫌なんだろう
早歩きで距離をあけようとしている
まあ、無理でしょうね。俺の方が足が長いもんでね。



「あーもう鬱陶しいアル!どっか行けヨ!」



後ろを振り返って俺を見上げにらみつけるも俺からしてみたらそれは作戦通りすぎて笑いがこぼれてしまう



「俺もこっちに用があるだけでィ」



こっち。そう、ただチャイナに用があるだけでその他の理由はない
チャイナは睨みをきかせるとまた長い廊下を走って行った
俺もその後を追おうと思ったけど、気分が向かないからやっぱりやめた



「沖田くんってどんだけ神楽ちゃん嫌いなの?」



じーっと隣りの席のチャイナを観察している時だった、クラスメイトがニヤニヤと嫌な笑顔で話しかけてくるから俺は頬杖をついてその相手を見上げる
そんなに仲良くする価値もなさそうな奴なので、愛想など振りまく必要はないようだ



「さあ、どうなんだろうねィ」



自分の心ん中を漁って自嘲的な意味を込めて笑った
隣りで聞こえないふりしてるチャイナを見つめてみるけど見つめ返してくることなんてなかった
そんな関係でもないからしょうがないんだろうけど
クラスメイトがなんだかキャーキャー言ってたけど、興味がなかったからうるさいだけだった

好きって言ったのに、返事はイエスでもなくノーでもなく
俺は遊ばれてるのか遊んでるのか
自分でもよくわからなくて
誰かに、何かに、振り回されてばかりだ



「チャイナ、問4、間違えてんぜ」



「お前が間違えてるだけじゃないアルカ?」



「残念、俺ここは解けたんでィ」



放課後にこうやって触れ合えるのも自分が馬鹿なおかげか?
テストのやり直しを命じられた赤点の2人組はいつも通り並んで頭を抱えていた
俺は本当にいろんな意味で頭を悩ませた



「馬鹿なくせになんでここはわかるアルカー!」



悔しそうに呟いてもう一回解き直す彼女を見つめる
こっち向いたら、答え教えてやるって
素直にわかんないって可愛くいえば教えてやるって

ガラガラと教室のドアが雑音をあげた
音に反応してドアの方を見ると隣りのクラスらしき女子生徒2人組
手にはテスト用紙
俺らと同じ赤点組だろう
なんだか当たり前のように俺の前に2人して立つ



「沖田くん、ここわかんないんだけど、わかる?」



見せて来たテスト用紙。やっぱり赤点の24点
俺27だから勝ったなとか勝手に思ったけど、赤点には変わりなかった
指している問題を覗き込む
こいつらも問4かよ



「見て良いぜィ」



そう伝えたらまたやり直し途中のノートに目を落とす



「はぁ!?私には見せないくせに!ムカつくアル!」



「はあ!?お前は見せてくれって言ってねぇだろィ?」



なんでこう可愛くないんだろう
もっと他の女子を見習え
そう思いつつその心の裏でそこが良いんだろなんて思ってる



「お前、私に……く…したくせに」



小さい声でボソリと言ったけど、照れ臭いのか顔を赤くしてるのにドキッとした
こんな表情いつもしてたらちょっと無理矢理でもチューしちゃうかも、どこぞのクソ甘い少女漫画みたいに
フンっと効果音をつけるように俺から目をそらしてまたやり直しノートと睨み合うチャイナは耳まで真っ赤っか

脈ありってやつですか?

そうだったらいいのに。

女子2人組は高い声でありがとー、今度御礼するねー。なんて言いながら教室を出て行く



「告白したけど、返事もらってないし?」



「言いマシター」



「聞いてマセンー」



ずっと目線はノートだったけど、チャイナがこちらに顔を向けたようだからそれに合わせて目線をあげた
目があった途端にまた耳まで赤くして湯気が出てきそうなチャイナ
ぷっと吹き出せばバシバシと叩かれる



「お前絶対私のこと好きじゃないアル。嘘だロ。」



鉛筆を握り直してノートと向き合っているけど、その鉛筆は全然動いていなかった
俺もシャープペンシルを握り直しつつやっぱり目線の先には赤くなってるチャイナだけ



「それ、二回目だろィ。返事になってねェ。」



一瞬で雰囲気はガラリと変わる
今さっきまでギャーギャー言っていたというのに今では口が重たくて話すことが難しい
空気がうまく吸えていない気がする
心臓がどことなく痛い
チャイナも同じなのか、口をモゴモゴさせてしゃべりづらそうだ



「だって」



「だって?」



しゃべりづらくなる前におうむ返し
この追い詰められた状況にチャイナは居心地が悪そう
俺もなんとなく緊張感が漂っているし…



「お前全然優しくないアル」



ふうっと小さくため息がこぼれる



「それも二回目でィ」



あまりにも叶わない恋にそっぽを向いてしまう。いつも通りに頬杖をついて諦めムード
なんて言えば、どうすれば、好きになってくれますか?



「俺、お前には優しいと思うけど?」



「はぁぁぁぁぁあ!?どこがアルカ!?」



学校中に響き渡ってしまいそうな声に頭がクラっとしたがどうにか持ち直す
ただちょっとだけまだ耳がキーンってなってる



「日直手伝ったり?毎日構ってやったり?いろいろやってんだろィ」



チャイナも自分の声に頭がクラクラしているのか今さっきとは違った意味で頭を抱えて居た
やれやれとでも言いたげな顔で俺を見るとため息をついた



「私が日直の時はお前も日直アル!だいたい隣の席の奴とペアだろーが!」



ギリっと睨んできたチャイナをふんっと鼻で笑ってやる



「残念ながら俺は今まで日直やったことねぇんでさァ」



「自慢になってねぇヨ!それに!お前が私に絡んでくるのは毎回嫌がらせ関連アル!むしろ構ってもらわなくて結構ネ!」



ツンツンしてばかり、全然周りに見せる表情と違う
俺と笑顔で会話することなんかないし…。ある意味特別なのに、全然嬉しくない。
異性に見られることも、友達と思われることもないなんて、マイナスからのスタート?まず始まってもいない?
スタート地点にくらい立たせろよ

チャイナのほっぺたを無理矢理持ち上げて笑わせてみる



「チャイナは俺に優しくねェ」



驚いた顔で俺を見つめる青い瞳の奥に俺が居た
ずっとこの瞳の中に入って居られたら良いのに
ずっとずっとこいつの視線の先に俺だけが居られたら…って独占欲強すぎるか



「いたひ」



舌足らずなセリフは可愛くて、久々にドキドキした気がする
いや、やっぱり毎日ドキドキしてるか
コツンとおでことおでこを合わせると透き通る肌、透き通る瞳に見惚れてしまう



「学級文庫って言ってみ?」



不思議そうな顔をして疑うように俺を見つめたが俺も負けずに見つめる



「…がっきゅううんこ。あっ!」



クスクス笑ってる俺を睨みつけてチャイナも俺のほっぺたをつまみ上げた



「いひぇ」



お互いに顔の原型がわからなくなるのではないかと思うほど引っ張りあってかなり痛い
それでも彼女の指は俺のほっぺたに食い込んでいた
俺の指はたぶんめり込んでいたと言った方が正しいだろう
そのめり込ませた指をそっとほっぺたに乗せるだけにしてやるとチャイナも段々と力を弱めた



「優しくしてやろうかィ?」



ニヤリと上げる口角にチャイナは疑いの目しか向けない
まあ、確かに今からやることが優しいのかどうかわからないけど



「お前の優しい基準は他の人より数段に低いアル。常識が欠落してるネ。」



「だから、本当に優しくしてやるって言ってんでィ」



くっつけていたおでこを離してからそっと唇をチャイナの目の下に近いほっぺたに落とす
びっくりしているチャイナの顔をまたバカにしたように笑ってやると今度は唇の横にもう一度落とす



「それは、優しくするって言わないアル…」



澄んだ瞳がまた一段と光った気がする
少し離れたからだろうか?
もう一回近くで覗き込みたくてゆっくりと顔を寄せた
ほっぺたに手をのせていたせいか、チャイナが逃げる様子はなかった



「優しいとは違うなら、これはなんですかィ?」



わざとゆっくりと丁寧に話すとその瞳は当たり前のように俺を掴み離さなかった



「焦らすって、言うんでショ?」



そう言われた時にはもう遅くて言い終わる時には強引に唇を重ねていた
やっぱり、優しくないっていう彼女こそ、俺の心臓には優しくなくて、ドクンッと大きな振動が体中に響いた



「お前が、待たせるからでィ」



今度こそ優しく、甘いキスの雨を、チャイナの唇に何度も降らせた



優しい雨を

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