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□スキトキス
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視界から通りぬけて行く彼女を振り向いてまで視線で追った
気づかない彼女はこんなポカポカ陽気に似合わない傘をさしている
今日は人通りが多いもんだ、追いかけようにも人にぶつかりうまく身動きがとれない

俺は、チャイナのことが好きなようだけど、どう思う?

誰かに問いかける
どう思うってなんだよ
自分で答えて人混みに埋もれた
チャイナに聞いてみましょうか。俺には答えが出せないようだ。
人を避けてうまくチャイナと同じ方向に流されてみる
人にぶつかったって誰も謝りゃしないから、角が削れるようにむしろぶつかっていこう
流される人混みで小さな少女を探すのは難しかった
自分がもっと身長高かったら探せただろうか…。まだまだ成長期。頑張れ俺の身長。脚は長いから胴だけでも伸びろ!
流されて行く中で視界のはしでぼんぼり頭が見切れた
見切れたって…おい…。
振り返って人にぶつかりつつも流れに逆らった
路地裏に入れば建物のせいで日が当たらない
白く細い手で大きなごつい傘を持ち彼女は振り返り俺と目を合わせる



「つけてきたりして、なんか用アルカ?」



「俺がつけてるって気づいてたのかィ?」



わざと質問には答えない
そうした方が、イライラするだろ?自然にそうやって本題を遠回しにしてしまう
だからずっと告白も何もできないんだろう…
彼女は日陰になった建物にもたれた
なんだか今日は、落ち着いてる?



「最初っからバレバレアル。警察としてダメなんじゃネ?」



「ふうん」



どうでもいいみたいな鼻で笑って俺もチャイナの隣りにもたれてみる
隣りを見るとちょうど良いくらいの上目遣いになってるチャイナにどぎまぎ
けっこう好きみたいだけど、どう?
だから、どう?ってなんなんだよ
意外な壁の温もりを感じながら変な汗をかいてる



「それで、なんか用アルカ?」



うんともすんとも答えずに建物の隙間からかいま見える空を見上げた
うんならともかくすんって答えられたら困るんじゃね?…ね?
現実逃避は失敗に終わった
んー…えーっと…
言いかけて言葉を考える
えー、俺は、…俺は?うん、俺は…あれ?俺って誰だ?
現実逃避どころじゃすまなくなってきている
空は雲が流れて真っ青になった。空は綺麗だけど今の俺の顔色も真っ青なんじゃないかな、俺の顔色の真っ青は全然綺麗じゃないだろうけど。



「俺は、たぶん、お前のこと好きなんだと思う、けど、どう思う?」



あ、最初に戻った。最初の言葉にまた曖昧な言葉まで付けたしてダメダメになった。
人間練習とはとても大事なようだ。本番で出てくるのは一番最初の失敗なようです。
もう隣りなんか見れずに空を眺めた
でも空よりも遠くを眺めている感じだからきっと俺は銀河を眺めていた



「…お前、飢えてるアルカ?」



「は?」



「女に飢えてるダロ!絶対そうアル!真選組女居ないもんナー!」



女に、飢えてる。そうか。女に飢えてるから俺は今チャイナが好きなのか?う?好きではなく好きと錯覚しているのか!?
混乱しすぎて行動停止
今や銀河も空も眺めてない見えてるのは見えない空気だけ
チャイナは傘でカツンと俺の足を叩いた



「絶対、お前が私のこと好きとかないアル。ナンパでもしてこいサディスト」



足の地味な痛みに我に返り、チャイナが傘をさしてまた人混みにうもれる後ろ姿を見送った
チャイナは確かにバカだけど、これは一理あるかもな。一理くらいはあるかもしれない。



「ナンパ…?」



その発想はなかったけども、まあそこらへんに立ってチンピラに襲われそうな女子を助け職権乱用しつつ連絡先を交換するか団子屋にでも連れて行けばナンパ成功か
簡単そうだ
フラリと路地裏から出て見回りと称した可愛い子探し
可愛い子ってのがよくわからないけど…チャイナが可愛いかと聞かれれば…ううん…声は可愛いんじゃない?
全体的にもまあ可愛いんじゃない?わからないけど。

姉を思い出して思うのは可愛いより美しかった。誰よりも。チャイナは、なんだろう?わかんない。
考え込みすぎて結局は表通りの端っこで立ち尽くしてる



「あ、あのー、道がわかんないんですけど、ちょっといいですか?」



声の方を向くと若い女が立っていた
今はやりなのか短い丈の着物がとてもよく似合っている
うん、可愛いんじゃない?



「どこ行きてェんですかィ?」



いつかやったホストの時を思い出す、とりあえず笑っときゃ良いんだろ
なれない笑い方だが、うまくできているだろう
相手の女も安心したのか少し笑った
小さなカバンからゴソゴソと何かを取り出そうとした時だった
ドンっと後ろから押されたのかぶつかったのか俺はゆらりと前にゆれた
びっくりする女と条件反射で刀に手を置き振り返る俺
そこにはいつものぼんぼりをつけたチャイナ
後ろから俺の上着をギュッと掴んでいるため身動きがうまくとれない
とりあえず刀から手を離した



「で、どこ行きてェんですかィ?」



「無視かヨ」



目の前の女は困っているし通行人の視線は痛いしチャイナが抱きついていると思うとまた変な汗をかいてる気がする。背中に心臓ついてるみたいにうるさくて、熱い。
どう反応したら良いやら…
女も困りつつ地図を取り出して行きたいところを指差す
それを適当に説明しながら後ろから意識をそらそうとするけど、だんだん上着を掴む手に力が入ってるようで後ろに引っ張られてる



「ありがとうございました。」



女が丁寧にお辞儀を去って行くとふうっと緊張を解くために息を吐いた
通行人もやっと気にしないように歩き始めたようだ



「お前はなんでィ?迷子?」



振り返るとやっとチャイナが上着から剥がれた
くっつき虫みたいな奴だ
全然取れる様子がなかったくせに気分が向いたら簡単に剥がれやがって
俺がどれだけ動揺したかわかっているのだろうか



「まだ、好き?」



機嫌が悪そうに眉間にシワを寄せて、目線だって合わせないで明後日の方向
その質問には素直に答えた方が良い?

まあ、答えてやらないけど
小さく笑う
いつの日から自分、こんなに笑うようになったんだろう



「最近の女子ってのは着物の丈が短いよなァ。そして良い足してらァ。」



「だから何アルカ?」



「お前は女子って感じしねェなァと思ってねィ。」



嫌そうな顔するから、不覚にも可愛いと思った。それはそれは誰よりも、何よりも。
確かに女には飢えてたようだけど、どうであろうと、好きみたい



「自分勝手アル。好きとかほざいて、本当は好きじゃなかったとか、そんなの、ムカつく」



ちゃんと持てていない傘を拾ってさしかけてやる
冬の弱い紫外線でさえ肌が少し赤みを帯びている気がする
俺の手から傘を奪いとろうとしたけどそれを上げて手を避けた



「お前は無傷だろうけど、私はけっこうダメージ受けたんだからナ!?」



そう叫ぶように文句を言うと日光に当たりすぎたのかグラリと頭を揺らしその場にしゃがみ込む
俺もそれに合わせてしゃがみ込み傘をさしかけつつ近寄った



「なんで?」



「……わかんないアル」



「わかってるくせに」



傘を低く持てば2人だけの空間、通行人がこちらを見たって2人の顔なんて見えない
見上げるチャイナにクスリと笑って静かにキスをした



「好きヨ」



「うん」



「お前は?」



チャイナの顔が真っ赤なのを間近で見ると、余裕なんてないのに余裕な素振りがしたくて
またキスをする



「もう!からかってるアルナ!?」



涙目で真っ赤な顔したチャイナ
やっぱりサディストなんだろうな、俺は。



「大好きの反対の反対でさァ」



「素直に大好きって言うアル!」



傘で隠した2人だけの空間で、何度も何度もキスをした



スキトキス



「足しびれたアル」

「…っ」

「そうカ、お前もカ。」

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