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□遠距離近愛
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時計を見たらもう21時をすぎていた
いつもは20時にはかけてるんだけど、今日は相手からかかってこないかなー、って変な希望を抱きつつ待つ
それから1時間たってるわけだが、電話もなければメールさえもない
仕事が最近忙しいとは聞いてるけど、メールくらい入れてくれたっていいじゃん

散らかしまくった部屋の真ん中で洗濯したのか脱ぎっぱなしなのかわからない衣服に寝転ぶ

いやいや、彼氏さんが来るんだったら私だって片付けるし。ちょっと最近は手を抜いちゃってただけ。うん。

衣服はひんやりしていて、寝心地は最悪
背骨にちょうどボタンが当たってて痛い
可愛くしたくて頑張ったけどどうにもならなくて結局ただの紐で延長させた電気の紐をなんとなく何回も引っ張り電気をつけたり消したり
離れてると頭おかしくなっちゃった?
たぶんそれって私だけなんでしょ
電気自体がブラブラし始めたから電気をちゃんとつけてからやめた

充電器にさしっぱなしだった携帯を強引に引っ張って充電器から外す
いつか壊しちゃうだろうな
でも、あいつのせいだからあいつに新しいの買ってもらおう
ロックを解除してホーム画面に
ロックを彼の誕生日に設定してる自分が恨めしい

やっぱり、声聞きたいな

一年前まで仕事帰りにフラーっと遊びに行けばすぐに会えたのに
今じゃあ新幹線で3時間の距離
明日も仕事だし、そんなことやってたら身体がもたないよ

アドレス帳を開いて彼の名前が表示されたところで固まる
沖田総悟って、名前見ただけで心臓が苦しくなってる
病気だよ。遠距離恋愛初心者だからだ。病魔に犯されちゃってるよ。
うー。っとしばらく唸って、でもやっぱり…発信ボタンを押した

ププ、プププ、なんて軽快な音を鳴らしてからプルルルルとかちょっとだけ落ち着いたような音を出しやがって、この音のせいで緊張は増してるよ!絶対そうだよ!

片手にはカーペットをコロコロする奴を手に取る
コロコロできそうなところってすごい狭い範囲だけど!
そうであっても何かをしてないと、緊張しすぎて電話に耐えられない!



「もしもし」



いきなり通話に変わって固まってしまう
いや、みんなそうだけどね!そうなんだけどね。
聞きたい声、電話の向こうじゃいつもと違う感じがする



「もっ…かぐゅりぁ…!です…。」



もしもし、神楽です。そんな単純言葉だったのに言えない
これ絶対病気だわ
右手で持った携帯、反対側のコロコロは私の心拍数をあらわすように激しくコロコロコロコロされていた。ゴロゴロだったかもしれない。



「わざわざ名乗るくせはなおらねーのかィ?ちゃんと名前表示されてらァ。」



「うっさいアル!可愛い可愛い彼女からの電話なんだからもっと喜べヨ!」



返事はちぐはぐ。だってだって、意味わかんないくらい今は乙女心が全開なんだよ?今までこんな自分が居たかすら知らなかったのに
現実って…嫌だ…。



「はいはい、寂しかったのか、そーかィそーかィ。残念だが俺は会社の飲みだからあんまり相手できねーよ。」



「は!?聞いてないアル!」



「言いやした」



即座に突っ込まれてしまったら、確かに昨日言ってたような…でも私昨日の電話は途中で寝ちゃったからあまり記憶が定かではない
それなら昨日寝ないでずっと話してれば良かったのに
自分のバカ



「…飲み会って何時終わるアルカ?」



「知らねー」



「サドが酔っ払ったところ見たいアル」



「はいはい、今度な」



簡単にあしらわれてしまう
後ろでは沖田くーんなんて呼んでる女の子の声と、電話の向こうのサドがもうちょいしたら行きまさァとかいつもより低めのトーンで言ったのが聞こえる
良いな、私もそこに飛んで行きたい



「会いたい」



言葉にした途端に恥ずかしくなって、語尾のアルはとってもとっても小さく付けたした



「ゴールデンウィークには会えんだろィ」



それって五月だよ!?これから何ヶ月あると思ってんの!って心の中だけで叫ぶ
なんか、甘えるの自分向いてない
自分が気色悪い
自分でさえ思うんだから、サドだってさぞかし虫酸が走っただろう。それならざまーみろ。自分にもダメージくるからもう言わないけど。



「別にめんどくさかったらこなくて良いアルよ。今ちょっと会いたいなって思ったけどそれは今の気分であってずっとなわけじゃないからナ!」



無理矢理な言い訳
電話かけた意味がないよー…。
全然恋人同士っぽくないよー…。
自分にもダメージ食らうけど甘えた方が良かったかも。
好き好き喚いてる方がまだすっきりしたかも。
胸の真ん中がモヤモヤしてる



「それって今日中に会いてェってこと?それとも明日でもいいわけ?」



「いや…え、う…。今…かなぁ?別に、あと少ししたら気分変わるし!いや、もう会いたくないかも!やっぱり!」



電話の向こうで困ってるのか黙り込んだままのサド
後ろの方で微かに騒いでる声が聞こえる
一瞬だったかもしれないけど、私にはすごく長く感じてまた口をひらく



「明日でも、明後日でも、会いたいヨ」



今さっきと全然違う言葉だけど、これが本心すぎて
声は震えちゃったし、コロコロなんてもう手に持ってるだけでコロコロとして役にたってない
電話の向こう側だけに全神経を注いでいた



「ん。まあ行かねーけどな。明日仕事あるし。」



「わかってるアル!お前がそんなこと言って来てくれるような奴じゃないことくらい最初っから知ってるアル!」



プツンと緊張が切れてコロコロをまたゴロゴロと床になすりつけた
下の階の人すっごい迷惑だろうな
たぶん、大家さんに怒られちゃうんだろうな、私。
もう良いけどね、もう電話もしたし、明日も頑張れるけどね。
会いたいがまた募っちゃった。



「じゃ、明後日な」



「え」



聞き返す前に電話がきられた



「え?え!?えええ!?」



興奮したままメールを打とうとしたが誤字ばかりでまともに打てない
明後日…明後日…
あ、土曜日だ
きっとどうせお家でゴロゴロデートなんだろうな

いっぱいいっぱいサドが来た時のシュミレーションと言うなの妄想をして、ウトウトと微睡んでいく

あ、部屋片付けなきゃ

その後の夢の中でさえ、サドと出会ったのは絶対に秘密



遠距離近愛

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