SS

□これで良いよね?
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ガンっと大きな音をたててカバンで頭をぶん殴られた
ああ、いつもの朝だ
学校の下駄箱で靴を履き替える途中だったがカバンをくらわせてきたやつに蹴りをいれる



「いっつも痛いんでィ!殴るんじゃなくて撫でろィ!」



意味のわからない文句に彼女は真っ赤な太陽を連想させるような笑顔を見せた



「私の愛はそれだけじゃ足りないネ!カバンで殴るだけで我慢してるんだから優しく受け入れろヨ!」



俺の頭にぶつけたカバンを肩に掛け直し、彼女も下駄箱で靴を履き替える
朝はざわざわしているが2人の間に邪魔など入るわけもなく
まるで約束していたかのように2人並び歩く



「お前の愛をすべて受け入れられる気しねェ」



「まあ神楽様の愛は深いからナ!受け入れられないサドを愛の鞭で叩きのめすアル!」



「なにそれ、愛されてんのかィ?」



高校の広い廊下をだるそうに歩きながら窓からの微かな日に当たる
冬にはこのわずかな日でさえとてもありがたい
チャイナは俺がそのちょっとした日の温かみが好きなことをわかっているかのようにいつも俺の右側を通った
今日も、そうだ
チャイナは"私の愛は偉大すぎて理解され難いのヨ"なんてない胸をはって言っていた
教室につけばクラス公認のカップルだからか少し距離を開けられつつクラスのみんなに挨拶を返す
チャイナもその波に乗ってそよちゃんとかいう友達のところへかけていった
俺のこと好きなら俺からちょっとも離れなきゃ良いのに
すっごい女々しいのはわかっているけれど気になるもの気になるんだ



「そーご!今日委員会だってー!」



今度は後ろからクラスの同じ委員から呼び出し
その同じ委員のやつがチャイナだったらなー。と絶対に毎回思ってしまうのは俺のチャイナへの愛ってことでいいのか?
適当に返事をして適当に席につく
授業が始まる前のざわざわしたホームルームの時は、適当に窓を見てるふりしてチャイナを見てる
こいつは、俺のこと好きだって、いっぱい表してくれるけど、俺には全然自信がない
これって本当に好かれてるのか?とか答えの出ない問題を毎日のように繰り返し解いていた



「おい」



ちょうど目をそらした時で良かった。チャイナが俺の方をむいて話しかけてきた。
最初からそっちを意識していたと思われるのが癪で考え事をしていたかのように一回目は聞こえないフリ



「おい。そ、サド!」



そ、と言いかけたチャイナについつい簡単に振り向く
なんだ、呼び捨てにされるのかと思ったけどやっぱり違った
いつものことなんだけど、これには負ける。毎回反応してる気がする…。
今気がついたような顔して目を合わせるとチャイナはだいたい笑ってて俺も頬が緩みそうになるが変なプライドがそれを許さない



「なに?」



無愛想にはなった言葉がチャイナを傷つけてしまうんじゃないか、なんて考えていた時期もあったが、チャイナは何も気にすることなさそうにいつも笑っている



「今日委員会なんだロ?」



うん、と頷いてからチャイナが何か言いかける前に口を開く



「先帰ってろ。暗くなるだろうしねィ。」



そう言ったらまた視線をそらし考え事をしているフリをする
別に考えてることってチャイナのことしかない。
あとは、
好き好き言われたって自信がないってなんなんだよ、自分。めんどくせえよ。
これを繰り返してるだけ。

それを何回繰り返したか、帰りのホームルームが終わって委員会側から指定された教室に移動した
曇り空から雨がぽつりぽつりと落ちてくるのが見えた
チャイナは雨に濡れることなく帰り着けるだろうか?
いつも日傘を持ってくるくらいだから大丈夫か
でもやっぱり心配
頭の中にチャイナしか居ない
委員会の会議だって毎回同じことを言っているだけだし。挨拶運動ってのがどう学校に良い影響を与えているのか知らないし。それならチャイナが俺にどれだけの影響を与えているのかの方が俺にとってはでかいし。
俺がチャイナを思うたびに雨は勢いを増していった
委員会が終わる頃にはそれはそれは嵐のような大雨だ
置き傘パクって帰るかとカバンをだるそうにかついで下駄箱に向かう



「委員会長かったアルな」



「ん、ん!?」



最初はいつも通りに適当な返事をしたがその声の持ち主、その癖のあるしゃべり方の持ち主は俺の知っている中ではあいつしか居なかった



「先帰ってなかったのかィ?チャイナ」



意識はチャイナの方ばかりに向いていたが気にしてなどいないように靴を履き替える
彼女は後ろで白い息を吐いているのだろう
いつだって俺の思考回路はチャイナだけ



「雨降ってきたから、お前絶対傘持ってないだろーなーって思って待ってたアル」



「へー。」



嬉しいと素直に思う前に緊張する
こいつも俺のことをふと思う時があるんだ
それって嬉しいけど、言葉にならないくらいの感動だけど、意識したら心臓が爆発して俺が死んでしまいそうだ
またまた無愛想に言葉を返してる
愛想つかされたらどうすんだよ



「私の傘意外と大っきいから2人入ると思ってたけど、サドも意外とでかいんだナ。入るかな?」



「んー、うん」



一回返事を考えてみるけどうまい返しがわからない
今や彼氏彼女が居るのが当たり前のように教室ではイチャイチャしてる奴等を見るけど、あいつら一対一の時どんなテンションで会話してるんだろう…
履き替えるなんてのはそんなに時間がかからない
自然に、自然に、と意識しながらチャイナの方に振り返った



「相合い傘って、やっぱり緊張するアルな」



振り返った瞬間にチャイナは照れ臭そうにはにかむもんだから俺はキュンキュンしすぎて死にそうだ
むしろここで死なせてくれた方が本望だ…



「じゃ、俺だけ傘入るから、お前が傘なしで帰れば良いんじゃね?」



今さっきまでけっこう良い雰囲気の展開だったはずなのにここで崩れた
全ては俺のせいだけど俺をパニックにさせたチャイナも悪い!と今勝手に決めた!
無理矢理でも決定!
俺はやっぱり表情には出さずにチャイナの傘を拾い上げた



「どS」



「どSですが何か?」



校舎をでて傘をさしたところで無理矢理にチャイナが入ってきた
少し目線の下にいるチャイナを見下ろすと目があう



「ジャージ、濡れたら寒くね?」



結局カッコつけられるところなんて皆無
落ち込む前に呆れる
きっと今日布団の中では反省することばかりがツラツラと並ぶんだ



「そうアルな。裾まくっとくアル。」



こいつ、絶対男運ないんだろうな
かっこいいとかかっこ悪いとかをちゃんと理解できてないんだろうな
頭悪いんだろうな
そうであって良かった、一生運も知能もなければ良い。
チャイナが裾をまくる間にさっさと雨の降る中を歩く
なんかチャイナが叫ぶ声が聞こえたけど、聞こえない
雨のせいで聞こえないフリして、俺もよくわかんなくなってて



「もうー!こうすれば良いアルカ!?」



後ろから抱きつかれる
えっと俺が声を上げる間に身体がフワリと浮き上がった
傘を落としそうになったがむしろ腕が固まって落ちることはなかった



「これで2人とも濡れないアルな!」



浮いた身体はチャイナにしっかりと抱えられていた
背中と足に腕が回されていて所謂姫抱っこ



「いや…これ俺の足が濡れるだろィ」



「聞こえなーい!」



これで良いよね?

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