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□真っ白な世界
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心臓を高鳴らせて待ち合わせ場所に立つ
今日は友人と遊ぶを言い訳に好きな人と遊ぶ
友人も彼氏を連れてくるから、俗に言うダブルデート
誰かが一緒だからってやっぱり大好きな人に合うのは緊張するもので、ついつい履いてしまったショートパンツからはみ出る脚を気にしてしまう
太いとかあいつならズケズケ言うだろうなー…
せっかくおしゃれしてみたけど、から回ってる気がする
時計を気にしつつ携帯を握りしめた
その途端にブブブと振動が手に伝わって着信が入ったことに気づき急いで電話に出た



「どこ?」



不機嫌そうな声はあの大好きな人の声だ
低すぎず高すぎず、だけど今はいつもより低い不機嫌な声



「え?大画面前アル」



普通通りに声を出そうとしたがやっぱり少し裏返ったように高い声になった
なんか、恥ずかしい



「俺も居るけどお前どこでィ。チビだからみつかんねェ。」



「はぁ!?チビじゃないアル!」



裏返った声はまた裏返って最後の方にはいつも通りの声に着地
始めが肝心で終わりよければすべて良しで、どちらもあまり良くない上に矛盾してて、人間ってなんで意味わかんない言葉作ってんだろう
反論した自分の叫びが頭の中に響いた



「わかったわかった。んで、画面向かって右?左?」



そう言われてから周りを見渡してみる
あれ?おかしい。私の周りには誰も立ってる気配はなくてただ通り過ぎる間ばらな人たちだけだ



「右アル。お前は?どっちアルカ?見えないアル!」



電話の向こうに文句を言うけどその返事が近くから聞こえてくることはなくて、やっぱり近くに居ないことを確認する



「俺ェ?俺も右でィ。は?俺の周り女子居ねェし。お前大画面にいるんだよなァ?」



「大学の大画面前だロ!?ちゃんと居るアル!」



私のちょっとした大声は周りに響いて通り過ぎて行く人たちがチラチラとこちらを見ていた
くそう、どうせお前ら休みの日なのに単位取れないからと補習にきたやつばっかりなんだろうが!私は違うんだからな!
心の叫びを飲み込み背中でジワリと冷や汗をかいたのを感じた



「まじでか。お前まじでそれ言ってんのかィ?あ?まじで?まじでか?」



「もちろんまじアル!大真面目アル!」



ギャハハと噴き出す声が聞こえて置いていかれたように言葉を失う
なんだよ、いきなり



「大学の大画面じゃない方の大画面、しらねぇのかィ?」



「は?」



一瞬固まった脳みそはまたフル回転をはじめる
大画面、大画面…大学のじゃない方…



「あー!」



「やっとわかったのかよ」



電話の向こうで含み笑いの沖田の声が聞こえて、恥ずかしさとおかしさに口角が勝手に上がってしまう

1人でニヤニヤしてるなんて思われちゃうけど堪えきれずに小さく笑った



「もうみんな揃ってるアルカ?」



恥ずかしさを噛み殺しつつ話題を切り替える
みんなを待たせているのならちょっと面目ないかな、なんて



「あーそうだった。片方欠席のメールきたぜィ。そっちの女の方もそっち居んのかィ?」



聞かれたことにハテナが頭の周りを舞う
片方欠席…そっちの女…?ってことは自分の女友達も待ち合わせ場所についていないことになる
周りにはもちろん居ないし内心焦りつつ携帯をスピーカーモードに変えてメールを確認する



「あ!あいつらドタキャンしやがったアルな!?」



メールの最後までスクロールしたら
やっぱり2人きりが良いので行ってきます。頑張ってねー!
とかなんとか書きやがって
これはまんまとはめられたってやつなのだろうか



「あっそ、んじゃ今日なしで帰るかィ?」



「え!?」



突然の提案に焦りと落ち込み
そりゃそうだよね。メンバー揃わないから2人きりな上に待ち合わせ場所間違えちゃうし。
これから待ち合わせて会うとしても、会話が続けられる自信はあんまりない
喧嘩なら簡単なのに



「行きてェなら行ってもいいけど?」



「別にそんなんじゃないアル!」



咄嗟に出る返事は真逆のお返事
本当は行きたくて行きたくて仕方ないのに
初めての2人きりでの遊びとか、学校以外で顔合わせて、もしかしたら学校の人に会って付き合ってると噂されちゃったりとか…そんなことがあったら流れでほんとに付き合っちゃったりとか
想像すればするほどに行きたくて行きたくてしょうがない
でも私は、本当のことは心の中で裏返しちゃう



「あっそ、じゃ、帰りまさァ。切るぞ?」



「あ、」



言いかけて言葉にならない
お前がそんなに言うなら行ってやる
今日は買い物したい気分だから荷物持ちについてこい
そんな可愛くないセリフで良いから、引き止めたくて



「なんでィ?」



それをまるで待ってたかのようにクスリと笑ったのがわかった
なんだよ。わかってんじゃん、バカ。
心の中で小突きながらもゆっくり深呼吸



「今日暇だから、付き合えヨ。どうせお前だって暇なんだロ?」



可愛くない、けど、私の言い方の中では正解な答え
強引だけど、私は私らしく勝負しないといけない
だって私自身を好きになってもらわないと意味なんかないんだから



「はいはい。今日は付き合ってやらァ」



最初から作られていたみたいな定型文をこんなにドキドキして聞いてるの、きっと私だけだよ
何度もバカバカバカバカって繰り返して言ってやりたいけど
今日はそれを言う前に待ち合わせ場所を念入りに確認してすぐに飛んで行っちゃう

決められていた小さなカフェに飛び込んですぐに沖田と目が合う
ニヤッと目を細めて笑う彼は意地悪だけど子供っぽくて私をドキドキさせた



「おせェ」



そんなことを言いつつも格好はシンプルなくせにかっこよくて、自分で釣り合うだろうかなんて心配してしまう



「器の小さい男アルなー」



なんて冗談を交わしながら席に着くと店員さんに注文を頼みまた雑談を始める
楽しくて仕方が無いひとときで外のことなど忘れてしまっていた



「店の食糧が底をついちまう前に出るぞ」



ペロリと平らげた後の綺麗な食器を積み上げた中で私は元気に頷いた
今ならどんなこと言われても元気に頷けそうなほど幸せだ

レジに並んで学生だと驚愕するような額をどうにか払い店を出た



「なにアルカこれ」



それはレシートの長さより驚愕の光景だった



「…雪じゃねェかな。」



目の先はすべて白
白の間で時々チラチラと建物や人が見える程度
もう雪ばかりで歩くのも困難そうである



「やべェな」



ポツリとつぶやいた言葉が染み渡って
しょうがないか、と判断する
こんな夢みたいなデート。うまく行く方がおかしい
沖田の企みのようにスムーズに行ったらそれはそれでこわすぎるし。



「もう、帰ろっカ」



諦めたようにか細くつぶやいて歩き出す
歩いてみればそんなに大変でもない
確かに前は見えないけど、こっちの方が緊張が他の方向に向けられるから沖田で緊張しているのがきっと和らぐだろう



「交通手段ないだろうしねィ。ぼちぼち歩いて帰るか。」



隣りを並んで歩く沖田を少し見上げて
ちょっとだけ目があってマフラーで頬まで隠して逃げる
沖田はそれをクスクスと笑った



「好きな人居るアルカ?」



雪がすべてを白に変えてくれるなら
今日話したことはすべて塗りつぶして白く染めちゃってよ
そんな無茶なお願い。無理だって自覚は一応あるけど。
2人で恋バナなんてやる時がくるはずないと期待もしていなかったけど
勇気を出したら意外といけるもの…だよね…



「いるけど」



少しの間を置いての返事はそんなに優しい声じゃなくて
どちらかというとぶっきらぼうな返事
聞かなきゃ良かったかなー。その人が大好きで、私のことなんか相手してくれないってか
ぶっきらぼうな返事が私に興味なんてないよと教えてるみたい
そんなの知りたくなかったかなー…



「付き合いたいとかおもわないアルカ?」



ふざけたように笑ってみるけど沖田はめんどくさそうな顔して私をちらりと覗き見た
なんだよ。やりにくいじゃん。
やりたくないけど。やりたくないけど!
もう私は失恋決定で落ち込んでいるのに、まだこいつは私を傷つけていくのだろう。傷口に塩を刷り込んだ上で取れないように絆創膏をしていくんだろう
それ、やさしさじゃないんだからね!


「今が楽しいから思わない」



「へー、そっか…」



なんだよそれ。
好きな人、そんなに好きじゃないって?
付き合うのがめんどくさいって?
女たぶらかし回ってる方が楽しいって?
言ってないのに頭の中じゃ嫌なことばかりが連想される

顔はまあまあ良いから絶対みんな貢いでくれるだろうし!
半泣きでやけくそな自分のほっぺたに涙の代わりに雪が舞い降り一瞬で水に変わる



「やっぱり…」



「なにアルカ?」



そう言って立ち止まる沖田につられて立ち止まった
沖田の小さくつぶやいた言葉は弱々しく雪の中に消える
今さっきまでの適当だった沖田はなんだか真剣な顔つきでちょっぴり動揺
ドキドキしながらもゆっくりと目を合わせる



「今も楽しいけど、付き合えたら絶対、もっともっと楽しいから。だから、あの、お前が好きで、だから、その、付き合おう?」



え?と繰り返す間もなく頭の中を行ったり来たりする沖田の声
意味わかんない
意味わかんない意味わかんない!

ぶっきらぼうに適当なこと言って、私がどれだけ失望感を抱いたか知らないくせに!
それなら最初から言えよ!

全部心の中から飛び出ることはなく固まってしまう私に
沖田はゆっくりと手を差し出した
うつむいてしまってる私にもちゃんと見えるように手前まできて止まる
その手は私を待っていて、その手に私はたどり着きたくて
凍ってしまいそうな身体がどんどん熱を上げるのを感じた

そっとその手に手を伸ばした



「そっちじゃ歩けねェだろィ。逆でィ。」



怒ってるのかってくらいの投げ捨てるような声や言葉と裏腹に沖田の手は私の逆の手を優しく包み引っ張られる

何も言えずに引っ張られるまま
真っ白な世界に2人だけで消えていく気がしちゃう
マフラーを片手で頬まで引き延ばすのも難しくて真っ赤になってるであろう顔はそのまんま



「くそさみィー!」



照れをかき消すように叫ぶ沖田の後ろで
私は繋がれた手に小さく笑うだけ



真っ白な世界

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