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□新しく始めましょうか
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こたつに入ってテレビを眺める
それよりも気になる生き物が視界の端でチラチラしているけれど…
テレビしか見てませんよ。なんて澄まし顔で盗み見る
ミカンの皮をむくと小分けすることもなく口の中に放り込んだ



「お前さー、そろそろ年越しだろ?帰れよ。」



みかんをくちゃくちゃと数回噛むとごくりと飲み込む
その姿は今時の女子高生には到底見えない
どちらかというと動物園のオラウータンよりの女子高生だ



「誰がオラウータンじゃ!」



「いや、ツッコミとか良いから帰れよ。」



自分もこたつの上に置かれたミカンの山に手を伸ばす
彼女の周りにはすでにミカンの皮の山ができている



「どうせ家帰ったところで誰も帰ってきてないアル。お前もどうせ一人寂しく年越しダロ?せっかくなら一緒に越してやるヨ。優しい神楽様に感謝するんだナ!」



皮を向き終わったミカンのスジを細かく取り分けると一欠片を口の中に放り込む



「感謝とかしてねぇから。迷惑しかかかってねぇから。安心して帰れや」



せっかく近藤さんからもらったミカンの半分以上はこいつに食い尽くされている
まあ、まだまだあるっちゃあるけれども…



「こたつにみかんがあって離れる理由がないアル!なんならお前が帰れヨ!」



「ここは俺ん家でィ!」



えーっとぶつくさ言いつつも手は止まらずに皮をむけばその塊を口の中に放り込んでいた



「つーかお前さァ、俺のことちゃんと男として見てる!?」



今さっきと同じようにくちゃくちゃとみかんを噛んでごくりと飲み込む彼女はめんどくさそうな目で俺を見る



「見てる見てる。普通に見てるアル。男の娘だもんナ。知ってるアルよ。」



変換ちげぇよ!っとつっこむこともせずに落ち込む
なんでこう俺は相手にされないんだか



「お前まじなんなんですかィ?動物園帰れ。なんなら旦那のところでも転がり込んでくれば良いんでさァ」



もう心の中では諦めモード
初めて告白してからこれで一年以上がたっているなと年末恒例の歌番組を見ながら思う

告白したら、少しは何かが変わってくると信じていたけれど変わるどころか前よりガサツに変わってきたように思う



「どうせ銀ちゃんとこ行ったらあとあとお前の態度がめんどくさくなるのは目に見えてるアル。」



おうおうわかってんじゃねぇか
やきもち妬きなんだよこのやろう
それがむしろショックだけど…
こいつは意識しているのに俺には見向きもしないってことかよ



「わかったらおとなしく家で年越しを迎えてくだせェよ。俺はそうできた人間じゃないんでィ。いつ襲われても文句言わねェっていうならいても良いけどねィ。」



冗談交じりに笑うとチャイナは飽きれたようにみかんを貪りテレビを見つめていた
じっと見ていた俺に目線をやったところでそれは蔑むような瞳で
表情には出さないように見つめ返したが
心のどこかにはヒビがはいった気がする



「くだらない冗談が多すぎアル。本当に好きなのかと勘違いしちゃうアルよ?」



頬杖をついてため息
実際その言葉に俺は谷底に突き落とされたような心境だが
こいつは受け流すように視線を流す
俺なんて本当に眼中にないってか?



「冗談で告白するやつァいねぇだろィ?何の得があるんでィ!」



「どうせ真剣に答えたら、何間に受けてんでィ。とか言うんデショ?お前の考えはバレバレアルよー。」



そういえばそうやって逃げたことがあった気がする
過去の自分なにやってんだ…!
もう相手にしないと決め込んだようにみかんをもくもくと食べる姿さえも愛しく思えるくらい好きなのに!
オラウータンそっくりだけど!



「オラウータンいつまでひきずってるアルカ!?」



「バレた…だと…?」



「顔が全てを語ってたアル!ふう…やっぱりお前の告白はそんなふざけたのばっかりアル。誰が信じるネ?」



そうやって突っ込まれてからやっと今までいつも冗談交じりにはぐらかしてきたことを思い出す
ふられるのがこわくてだろうか?恥ずかしくて?それとも…?
振り返る自分の死闘の数々は肉体的なものばかりで、心では…ぶつかってなかったかも…とか、ね。

ついつい心が燃える

ならここで、ぶつかってみれば良いんだろ?



「チャイナ、何したら信じてくれるんでィ」



君にかっこわるい姿は見せたくなかったけど、これだけはしょうがない
惚れた弱みってやつなんだろう?
好きなんだからやってやるよ弱みよりも強みに変えて
苦手な愛の言葉だって虫唾が走るくらいの甘い言葉だってくれてやる



「目、ちゃんと見て告白しろヨ。話はそれからアル!」



強気な彼女真剣に見つめるとだんだん彼女の頬が赤く染まっていくのが見える
きっと今俺も真っ赤っか
どんなに恥ずかしくたって、好きな人を手に入れたくて



「好き。チャイっ…神楽が好き。」



「ん。」



照れているのか小さく頷き俯く彼女を覗き込むがまたそらされる視線
俺はそれを追いかけて彼女を捕まえる



「ちゃんと目ェ、見ろよ」



もう捕まえたからには離してなんかやる気はない
まるでそれはいつもやってる勝負みたいだけど、全然甘くて辛くて熱くて全然違う
合わせた瞳に少しだけ自分の瞳も近づける



「好き。好きでィ。ずっと前から、好き。好き。好き、だ。」



何度も繰り返す言葉に毎回違う反応を返すチャイナが可愛くてもっとみていたくて、全部ほしくて
抱きしめたくてチューがしたくて、あわよくばエッチ…は早すぎるか。
手をのばして頬に触れ、俺以外が見えないようにおおる
これでもう、絶対そらせない視線



「ほら、返事言ってみろよ」



そう言った瞬間にポーンと年越しを知らせる音がテレビから鳴り響いた
ムードなんてありゃしない
ただ二人見つめあって気まずくなっただけ



「あ、明けましておめでとうネ。」



「あ、うん。おめでとうございまさァ。」



なんだか改まってしまって頬に手をおいてしまったのが気取っていたみたいで恥ずかしくなって手をそっと離す



「今年は、彼女としてよろしくしないでもないアルよ?」



病気だろうか、心臓が痛いほどに波打ってる
言葉が近くて遠くてわからない
チャイナが彼女で俺がチャイナの彼氏でチャイナが俺で俺がチャイナで、もうわかんないな
俺は一生彼女には敵わないだろう



「来年は嫁としてお願いしやす。」



「話が飛びすぎアル!」



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