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□日向ぼっこ
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小さな古びた神社に入り込む
そこは既に管理人など居ないのではないかと思うほどにボロボロで、ただ建っているだけの何かでしかない
その建物の横に寝そべる
ここは日当たりがよくて風の向きが変わらなければ風除けにもなる
冬にサボるにはとても適していた
寝そべってアイマスクを装着すると真っ暗な世界に音だけが溢れかえる
その音の中で聞こえるのは小さな鼻歌
時々力み過ぎてうまく音が出せていないけど…。
振り返らずともその鼻歌は誰が歌っているのかすぐにわかってしまう

なんで俺、こんな奴好きになったんだろう

アイマスクを取り外して鼻歌の聞こえる神社の裏にまわる
少し日陰になったポカポカする神社の端に彼女は座っていた
地面につかない足をバタつかせて



「わっ!びっくりしたアル!いきなり出てくんなヨ!」



彼女は俺の存在に気がついて鼻歌をやめた
俺は日向になっているところにもう一度ねそべりなおす



「俺からしたらお前がここにいることの方がびっくりすらァ」



アイマスクはせずに日向で目を閉じる
目を閉じたって太陽の光が入ってきて赤い
やっぱりアイマスクするか。と取り出そうと目を開けるとチャイナが丁度俺を覗き込んで居た



「日向で昼寝、良いアルな。ポカポカアルな。」



じとーっとした視線などもろともせずにアイマスクを装着して目を閉じた



「そっちだってまあまあ、あったけーだろィ?」



「所詮日陰アル。あんまりあったかくないアル。しいて言うなら家の中よりかはあったかいネ。」



ここで"あっためてやろうか?"なんて誘い抱きしめられたら俺は確実に出来る男なんだろう
結局は頭の中で想像するだけ
白い肌に細い腕、真っ赤なチャイナ服にお団子頭
いつか簡単に触れる時がくるのだろうか
触れることを自分は許せるだろうか



「…お前ってさー、将来なんになりてェとかあんの?」



自分の将来を想像する
いつか彼女に気持ちを伝えて、付き合えて、結婚!なんて単純な妄想
無理なことくらいわかってる
想像できることこそ、そううまくはいかない



「宇宙を飛び回るエイリアンハンターアル!」



「ぷっ何でィそれ」



わざとらしく笑ってやるけど少しの間で彼女が本気であることを悟った
やっぱり、そう簡単にはいきませんってか。



「江戸には帰ってこねェの?」



そこまで聞いてから後悔した
聞いたところで彼女が会いに行くのはきっと旦那や土方さんで、俺にわざわざ会いにこようなんて思ってくれないだろう
自分はそれくらいの位置なんだってわかってるハズなのに勝手に希望を抱いてる
勝手に信じて勝手に裏切られてる



「そうアルなー。銀ちゃん寂しがりやだからちょくちょく帰るつもりアルよ?」



「…じゃあさ、」



俺には会いにきてくれる?聞きたくて聞きたくなくて止まる
なんでこんなことしてるんだか



「何アルカ?ためんなヨ!気になるダロ!」



チャイナの声で我に変える
頭の中でたくさんの言葉を巡らせながら



「なんでもねぇよ。」



目を閉じるように、耳も閉じれてしまえば良いのに
そうしたら、この冬の静けさだって、彼女のたてる音だって、その音を邪魔する雑音だって、暮らしの中にある騒音だって、何も聞こえなくなるのに



「お前は、将来何になりたいアルカ?」



「先のことは考えねェ主義なんでィ。」



これはほんとと嘘が混じり合ってる
先のことは考えるし、小さな目標を達成したいとも思う。
でも死と隣り合わせの職業だから、考えたくなかったりもする
それだけ



「なんかあるダロ!副長とか副長とか副長とか!」



クスリと笑う
将来を語った彼女は少し恥ずかしかったのだろうか
それが弱味なら、それがツケ込める何かなら、それが俺の一歩になるなら、利用させてもらうまでだ



「しいて言うなら、」



彼女がさっき使った言葉をおうむ返しのように繰り返し使ってみる
アイマスクで見えないけれど、きっと彼女は俺を食い入るように見てるだろう
だから、少しだけアイマスクをあげてやっぱり俺を見つめていた青い瞳と目を合わせる



「何アルカ?」



首を傾げる少女は俺より幾分幼い
そりゃあ、思ってるより年離れてるからか



「そのエイリアンハンターの旦那」



「ばぁか!!!」



遮るように叫ぶと傘を持って神社を出て行く

今度会ったらどんな顔して良いやら、わからないけど
俺はアイマスクをいつも通りに装着してお日様の微睡みに身を任せるだけ



日向ぼっこ

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