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□クリスマスプレゼント
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今日はいつも静かな小さなアパートが賑わっている
クリスマス会と称したクラスの恋人居ないからみんなで遊ぶだけのパーティーを自分の家で開くことになったからだ
サンタさんは私に素敵なクリスマスを贈ってくれたのかもしれない
こんな時だけ親も兄もあまり帰ってこないことがありがたかった
「みんな揃ったアルカー?」
出席簿のように来るメンバーを書いた紙を広げて一人一人確認して回る
そして確認するうちに名簿に名前のない奴を発見した
「え。なんでサド野郎が居るアルカ?」
酷くぶっさいくな顔をして詰め寄ると周りの男子たちは笑い出す
私たちが喧嘩する様子がなんだかおかしいらしい
「まあいいじゃん。沖田と神楽が揃った方が絶対楽しいって!俺ら的には!」
クラスはそんな一言だけでまた更に賑わいを増した
私はやっぱりぶっさいくな顔をしながら沖田と睨み合う
「お前彼女居たよナ?」
沖田は悪びれる様子もなく平然とソファーでくつろいでいる
まるで自分の家ような顔をして
「ついさっき別れた」
「しね!」
軽く殴ってやろうとしたらひょいっと軽々しく避けられて私の脳内はまた怒りがあふれかえる
「クリスマスなんだしもっと可愛い顔とかできねぇの?これだから彼氏居ない歴=年齢ってやつァ…」
呆れたように手をあげてそっぽを向く沖田が憎らしくて憎らしくてしょうがない
たぶんこれはどんだけ殴ろうと暴言を吐こうと収まらない
「私だって彼氏作ろうと思えばすぐできるアル!お前みたいにかるくないだけネ!」
ムッとしてそれだけを言うとまたメンバーの確認作業に戻る
友達も一緒になって確認し終わるとみんなで紙コップにジュースを注いで乾杯をした
飲み食べが始まるとやはりグループができてかたまった
チラリとあのサド野郎を盗み見るとちょうど視線があってまた睨み合う
「こっち見んな。せっかくの良い気分が台無しでさァ。」
まるで自分が見惚れてしまったかのような言い方に恥ずかしさと苛立ちが湧いてくる
「見てねーヨ!いちゃもんつけてくんならさっさと帰れ!」
ふんっとまた顔を背けると周りはまるで冷やかすようにニヤニヤと笑うのだった
もう日付けが変わる頃
みんなはだいたい帰っていた
盛り上がっていた女子軍団も二次会はカラオケだと言いながら帰って行く
片付けはみんな手伝ってくれたし、紙皿に紙コップばかりだったからゴミ袋に詰め込むだけでどうにかなる
明日はバイトだから早く寝ないといけない自分は二次会には行けずにソファーにダイブした
今さっきまで賑わっていたからか妙に静けさが増して寂しい気持ちが身体を包み込む
楽しかったのに、悲しいかも。
夜になるとネガティブになってしまう自分の頭を振るとまた気分を切り替えようとソファーに座り直す
その時だった
アパートのオンボロドアがギヒーと変な音をたてた
それは誰かが入ってきたと知らせる音で、驚きもあり心細さもありかたまったままその人物がここにくるのを息を潜めて待つ
ドキドキと緊張して暖房のせいではない冷や汗をかいた
ガチャっと部屋のドアがひらくと見覚えのある顔が覗いた
「鍵ぐらいしめとけィ。最近物騒だろーが。」
キョトンとした私の顔にぷっと吹き出して笑いつつもそのまま慣れたように部屋に入ってくる
「は!?なんでお前っ!?二次会は!?あっ忘れ物アルカ!?」
焦ったように早口でしゃべってしまう私がまたまた面白いらしく沖田は楽しそうに笑った
その顔が無邪気そのもので心が締め付けられるように苦しくなる
「抜け出したっつーか…。応援されてきたんでィ。」
返事の不思議さに首を傾げながらも隣りに座ってコンビニで買ってきたであろう飲み物を袋から取り出して缶を開けて私にも差し出した
「これ好きアル」
まだまだホットな抹茶ラテをコクリと一口飲んでホッとする
これでだいぶん落ち着いた
それを横目で確認しつつ沖田はカフェラテを飲んでいた
「知ってるから、それにしたんでィ」
ん?言ったことあったっけ?なんてまた首を傾げるが沖田はその返事は返さずにまたカフェラテを口に含む
「つーか、お前美香ちゃんと別れたってまじアルカ?」
なんだか落ち着いた雰囲気が苦手で茶化すように沖田の顔を覗き込む
その瞳が真剣でスッと私の中で何かが消えるのがわかった
「お前のせいで別れたんでィ」
「は?」
間も開けずに思った通りの言葉を発する
本当に意味がわからない
だが沖田は冗談ではなさそうにカフェラテをミニテーブルの上に置いて私と向かい合う
私は身体ごと向かい合う勇気がなくて目線だけ合わせるのが精一杯だった
「俺はお前が好きだって最近ちゃんとわかったからねィ」
目線はそらしたくてもそらされずに私はぽかんと口を開けたまま動けなかった
「罰ゲームかなにかアルカ?」
恐る恐るの言葉は黙って否定される
そして顔を近づけてまたニコリと笑った
「ここでチューでもしたら信じるかィ?」
すぐに顔を引いてブンブンと首を横に振り否定するとやっぱりクスクスと笑われた
なんで告白した方がこんなに余裕に笑ってられるんだよ
「お前やっぱり軽すぎアル。そーゆーの、嫌いネ。」
距離を取りつつ視線だけでは威嚇して言葉でも突き放す
それでも沖田はとどまることを知らないのかジリジリと私を壁際までおいつめて座ったままの私を少し上から通せんぼして動けないようにした
「信じてくんねェなら一生かけて教え込んでやりまさァ。」
ニタリと微笑む沖田に拒否という選択は許されないのだと知る
でもそれを嫌だと思っていない自分もわかっていて胸が痛い
「私はお前のことなんか好きになんないからナ!」
強気で言ったってもうダメなことはわかってる
サンタさんはとんでもないものを私にくれたようだ
クリスマスプレゼント