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□流星群
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あの高い丘を登ったら、彼が居ると思った

思ったんじゃない。これは確信で、絶対。空に太陽があるように、君はそこに居て、太陽の光を受け止める月のように、私は丘に登る。

もう日は暮れちゃってるから傘は定春に預けて
私はあの丘を目指して駆け上がる
息は荒くなって足は重くなって
そんなのは全部無視してあのてっぺんに登る!

真っ黒な空が見える。まるでそこにはたくさんの不安が詰まってるみたいだ。
その不安の中に希望があるように星たちは輝いている
もう少し右をみれば希望が流れている
たくさん、たくさん、なくなっては現われる

もっと上に上がって行くと闇の中に吸い込まれた彼が立ってる
表情は見えないけど、右の空を見つめて立ち尽くしてる



「お前に独り占めになんかさせないアルヨ!」



背中から声をかけても返事はない

覚えてるのだろうか、ここを教えてくれたのは君だってこと
覚えてるだろうか、それは今日と同じふたご座流星群が見える日ですごく寒い日だったこと

君は今何を想う
彼女が亡くなってから、これでいくつの時を過ごしてきた

彼は言っていた
このふたご座流星群を知ってるのは、姉に教えてもらったからだと
寒空に2人並んで世が老けても、手がしもやけになってしまっても、星屑のくせに、綺麗で見惚れたんだと、どんな顔で言ってたかわかってる?

今の隣は私じゃダメだろうか



「だんだん、見えにくくなってんな。」



そっと隣に並んで空を見上げる
私がくるって、君もわかってたのかな
少しだけ嬉しくて少しだけさみしい
彼はもう彼女がこないことをわかっていて割り切っていて…大人ぶってて



「どんどん都会になってきたからナ」



動いては消えて行くお星様
はやすぎて本当にそれが流れ星だったのかすら危うい

隣に声をかけようとしてやめる

ここにきたことすらダメだったかもしれない
彼は1人で居たかったのかもなんて…



「願い事したかィ?」



ふと問いかけられたことにびっくりして答えに詰まる



「…あ!あ、うん!夢はでっかく宇宙征服アル!」



「お前ならガチでやりかねないな」



含み笑いが隣から聞こえてやっとちゃんと隣の彼を眺めた
その視線に答えるように目があってからそらす



「お前の願い事はなにアルカ?」



沖田…とか、総悟…とか、簡単に呼べたら良かったのに
願い事は本当はそれだった
名前で呼び合うような仲になること
それ以上まではねだらないから、それくらいなら叶えて欲しい



「…土方死なねーかなーってねィ。」



彼は冗談混じりの笑いを浮かべるとまた空に目を奪われる
もう少しこっち見てても良いのに
まだまだ星は降り続いてるから、もう一つ願い事
こっち向けこっち向けこっち向け!
これ言えたんじゃない!?なんて思う前にバチっと目があった



「こ、こっち見てんじゃねーヨ」



「お前が見てたんだろうが」



いつもより穏やかな声で言うから調子が狂う
どうせ、姉ちゃんのことばっかりで、それ以外はどうでもいいでしょ?
卑屈な自分は嫌いだ
それでもこんな卑屈なことを考えるのは根性がねじ曲がってるから?



「…ねえ、本当の願い事は?」



ふと思った。こいつは嘘ばかりつくから
平気なふりで傷ついていくバカだから
どうせそんな願い事じゃないことなんてお見通しなんだから!

逃げられないように服の袖をつかんで見上げると彼は笑う



「どうでも良いようなことでィ。」



意味がわからなくて首を傾げるが、それへの返答は返ってきそうにない



「なにアルカ?」



こんなにせがんだら面倒くさがられるんだろうが、それでも良いや
袖をくいくいと引っ張る

気になって気になって仕方ない



「誰も叶えられないことだから、ねィ。」



話さなくったって叶わないなら良いか。と小さな独り言をつぶやいてからまたポツリと言葉を落とした



「生まれてこなけりゃ良かったかも…なんてねィ。柄じゃねぇーよな。口に出したら気持ちわりぃ…うえ」



おちゃらけたように彼は笑うけど私にはそれが本当に聞こえて
流れて行く希望を捕まえることもせずに不安に包まれた彼の袖を小さくつかむ
何も言えないで口をひらいたり閉じたり



「そんな真剣な顔すんなィ。軽い冗談でィ。」



こんな時に私はどうやったら彼を抱きしめることができるんだろう
物理的にではなくて、ただ心で
不安をまとっているから、ただ安心であたためてあげたいだけ
こいつのことが嫌いで仕方ないのに、どことなく漂わせる空気が似ていて泣きたくなる



「笑えない…冗談アル…」



ここでポロリなんて音をたてて涙を零したら、可愛いのにね?
そんなことはできないから、星が空からポロリとこぼれていく
空を見上げてこぼれた星の行方を探すけど暗闇が隠してしまっている



「ごめ「あ!オリオン座!」



最初からあの三つの星で気づいていたけど、こんな沖田を見ていられなくて言葉を遮った
私はね、謝って欲しいわけじゃないんだよ
上を見上げて涙をこぼさないようにゆっくり瞬きをする



「あの星の存在感は変わんないアルな!」



「…そうだな」



わざと遮った私をわかってる彼はなんだか悲しそう
覚えてないの?これを教えてくれたのもあなただよ
きっとあなたはこれもあの人に教えてもらったんだろうけど



「チャイナ、俺さ…」



また遮ろうかと思ったけど彼の真剣な顔に黙って見つめることしかできなかった
空はまだたくさんの希望を瞬かせている



「わかってる。姉上はあそこで死ぬ運命だったてこと。辛くても存在してなきゃいけねェこと。旦那がヒーロー(主人公)でお前がヒロインだってことも。わかってる。」



わかってる。と何度も呟く彼は何かと戦うように打ち消すように繰り返す
私はそっと彼の手を握った



「でも、俺は…っ」



言いかけてやめる
それ以上を聞き出すことは私も心の準備ができてなくて黙る
もっと、私が大人だったら変われるのだろうか



「こんな物語始まらなきゃ良かったのに」



弱々しく握り返された手を離す理由も手段も考えもなくて
ただ寄り添う

こんな物語…始まらなきゃ…出会いもせず、存在もせず、生まれもせず…
そんなことやだよ。出会えて良かった。
なんて言えるわけもなくまっすぐに彼を見つめる



「総悟は、バカアルなぁ…」



困ったように笑って本当の答えを出せないでいる
私だって物語には逆らえないよ
名前だって…きっと今しか呼べないよ

もっと私が強ければ変われたの?

変われないよ
だって、もう私たちは決められた線路を歩いてる



「…姉さん…姉上は、この流星群をどこで見てんのかねィ」



今さっきまでつないでいた手をゆっくりと離す
この境界線は越えてはいけないから



「もっともっと、高くて綺麗に見えるところアルよ。きっと。」



また隣りに並んだ時の距離に戻る
これ以上はもう入っちゃいけない
もう戻れないだろうから



「そうだと良いねィ」



薄く笑った彼にまた手を伸ばしたくなって
空を見上げる

ああ、涙のせいで星がもっともっとたくさんに見えるよ

見上げていた視界の中にゴツゴツした細い指が入ってきて涙を拭った



「俺が諦めわりィこと忘れてんなよ」



何も言えないでいるともう片方からも涙が落ちてしまった
それも苦笑しながらもゴツゴツした指で拭ってくれる



「過去は…変えられないけど。未来は、変えられるアル!」



テンパって握りこぶしをつくって上下させた
それを君は大きな手でゆっくりと降ろさせて、唇から白い息を吐き、また困ったように笑う



「だから、変えてやるっつってんでィ。」



視界の端でまだ流星群は降り注いでいる
まるで私たちの未来はこんなにたくさんあるんだと言われているみたい



「やってみろヨ、ヘタレ」



まだまだ縮まらない距離だけど、

決められた線路を変えることは本当はできないのだろうけど、

来年もきっとここで2人、月明かりに照らされてることを
確信した


流星群

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