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□浮気相手は兄でした!?
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「ずっと前から好きでした!」



呼び出されて指定の場所についた時
その少年は居て、いきなりそんなことを宣う
私はこの人と話したことなどそんなに覚えていないのに、何が好きだと言うんだろう?

この季節になるとなんでみんなヤケクソのように告白ラッシュが始まるんだろう

私は薄く微笑む



「ありがとう。嬉しかったアル。それじゃあ。」



それだけを言い残すといつも通りの帰路につく
受験生、就活生…
私のクラスでは就活生はみんな内定が決まっているし、受験だってだいたいどこを受けるかなんて決まっている
私も来年の春になれば社会人だ
今は確かに余裕にも思えるけど、学校を卒業したらもう学割は使えなくなるし、春も夏も冬も休みはないし、きっと余裕なんてなくなる。それは彼氏を見て思ったことだった。
遊びたいと思ったって、彼はもう社会人であまりにも遊べない



"聞いて聞いて!
告白された!"



自慢と言うか、焦ってほしいと言うか、とりあえず…かまってほしくてメールを送信
今日は仕事帰りに来るって言ってたし、会ったらちょっとヤキモチくらい妬かせたい

携帯が震えて受信を知らせる



"遅くなる。"



おいっ!なんでそんな返事になるんだよ!
お前はメール読んでないのか!!
でもそんな気持ちを悟られたくない
私ばっかり好きで、私ばっかり焦ってるみたいじゃん



"なんで?"



素っ気ない感じで送るつもりが、やっぱり感情がたくさんこもってて
…私ばっかり焦ってる。



"呼び出された"



条件反射で返事を打ち込んだ



"お前も告白されるのか"



そのメールには返事が返ってこなくて
家についたって何度も何度も携帯をひらく

子供っぽいって思われちゃったかな

くるのは迷惑メールばかり
返事の気配すらない
バカ兄貴は出てったっきり連絡もない、パピーは今日も帰ってこないらしいし
いつも通りに1人でご飯



「なんで私ってバカばっかり好きアルカ」



認めたくなくたって心には好きが攻め入ってきて
バカ兄貴も、バカ親父も、バカ沖田も、大好きになってしまう
男運が悪いって奴かな

もう、やだな

言葉を飲み込んで泣いてしまいそうになる
やだって言ったってゲームの設定のように簡単には変えられない

時計を何度も見るが楽しい時は時間が短くて、暇な時は時間が長い
うまく調節できたら良いのに

ピンポーンと心とは正反対の明るい音が聞こえてすぐに心は晴れ渡る



「遅いアルー!メールも返事返してくれないし!」



外の人間など確認せずに開いてまた落ち込む
なぜこんな時に沖田じゃない人間がやってくるんだ



「総悟こっちきてねぇの?」



めんどくさそうにくわえ煙草を指で持ち変えた
なんでトッシー?全然フラグも立ってなかったのに!



「今日は遅くなるって言ってたアル」



「へー?」



考え事をするように白い煙を吐いた
私はドアを開けた瞬間に入ってきた冷気に縮こまる



「あいつ、最近帰り遅いから…、…近藤さんが心配しててな」



少しの間に他の名前が入ることを頭の中で推理しながらももう一つの謎が浮かぶ

帰りが、遅い?
いつも通りの時間に仕事が終わったと報告メールはくるし、家についたからメールが返せないともきている



「…もしかして、こっちにも
きてねぇのか?」



私の顔色ですぐに察しがついたのだろう
だがそれを言葉にした後悔がうっすらと見えた



「いや…あいつのことだから…浮気とかじゃねぇとは思うけど、な?」



安心させようとしたのか言葉を曖昧に濁す
私はそれを見てコクリと頷いていつも通りに笑う



「今日は、来るって言ってたアル。会ってとっちめてやるネ!」



そんな明るいことを言っといて心の中では疑いを打ち消すことを繰り返していた

いつも通りのメール文だったし、あいついつも謎だし、浮気とかできるタマでもないだろうし
そこまで考えてから学生時代にいつも女子から囲まれて居た姿を思い出した
近くに女子が居なくても、女子の目線の先にはいつも沖田だった

押しに弱いもんなー。あいつ。

私がもし、沖田の高校の卒業式の日に告白していなかったら…付き合ってなかったのかな…?



「まあ、総悟に会ったらはやく帰ってこいって伝えといてくれ」



ポンっと頭に手をおくように撫でるとさっさと踵を返して帰っていった
その姿を見送ってドアをしめる

もう9時すぎてるじゃん

リビングに置きっ放しの携帯をひらいてアドレス帳の沖田のリストを見る
メモに"大好き"なんて書いてたりする自分がバカらしく思える

どうせ、一方的な好きなんだろうな
バカ兄貴への好きも一方的だ
パピーなら、きっと両思いなんだろうけど

ひらいていた携帯画面がいきなり着信の画面に切り替わる
名前は今度こそ"沖田総悟"だった

心臓がうるさくなりだす
体全身が熱くなって、手は震える
それでも、手は沖田を求めているのか通話のボタンをあっさりと押した



「あ、チャイナ?」



「うん」



ざわざわとうるさい中で、彼の声も掻き消されかけている
それでも、私にははっきり聞こえてる気がした

私の方が掻き消されそうだ



「今日帰れそうにねぇから。また今度行くな」



うん。と答えそうになって喉がつまる
私ってこんなにグズグズした人間だったっけ?
もっとハキハキしてて、もっともっと物分り悪くて、自分の気持ちは絶対曲げない人間だと思ってた
てゆーか、なんで今日帰れないんだよ!意味わかんねぇ!

自分の中の新しい感情が渦巻いている



「やだ。今日来てくれないならもう絶対これから一生会わないアル!」



わがままばっかりだ
今日会おうって言ったのも私だし、元々付き合ってって言ったのも私だし、私の想いや願いばっかり重く連なっている



「なら、行く」



その返答に電話の向こう側で見えないのに首を横にふった
わがままばっかり、もう…私だって18になっちゃったのに



「やっぱり、今度で良いアル。ゆっくり、話せる時にするネ。会えるなら、いっぱい話したいし!」



これが、大人なのかな
自分のわがまま飲み込んで、電話の先は見えないのに無理やり笑顔つくってる

ずっと前から好きでした

今日の夕方の人と沖田に告白した時の自分を重ねる
私もあんな風に見えたのだろうか
あんな風に、その時の勢いだけで告白した人間のように

今更"ずっと前から"について深く考える
ずっと前からって…きっと、私も沖田が知らないずっと前があったんだから
だからあの人にもきっと、私に対するずっと前があって…
なんで私は気づかなかったんだろう

何をどう答えたって自分がわからなくなる



「どうした?」



冷たいトーン。いつも通りなのか、怒ってるのか、こんなに見てきたはずなのにわからない。

なんで私は成長してるはずなのにわからないことばかり増えるの?



「何もないアル。今日体育あったから疲れたのかも!あと、トッシーもお前の帰りが遅いって心配してたアルヨ!もう寝るアル!おやすみ!」



逃げ出すように返事も聞かずに通話を切る
そのまま電源も落として後悔する

頭の中の整理ができない
どれがいらない感情?どれが間違った情報?これは本当?あれは間違い?これって何?あれってどれ?
わかんなくなる思考回路を無理矢理中断させて部屋に閉じこもる

どうせ家に誰も居ないけど

携帯を一応充電器にはめてベッドに倒れこんだ

好きっていらない感情なのかも
好きも嫌いもなくなっちゃえ

頭の中で考えを中断させたいのにいっぱいいっぱいで止まらない

瞼をとじる
目の端に雫がたまる
目がうるんでいいかもね、なんて。
枕元で電話の子機が鳴ってる。
きっと彼だ。きっと、きっと、私の事を心配してくれたんだ。
それを確認する勇気もないままかたく瞼をとじたまま。

明日、昨日はごめんねって言って、それから、それから、大好きって言って…言っても…良いかな?
本当は抱きとめて喚き散らしたいくらいだけど…明日は、少しだけ、余裕のある笑いなんて見せちゃおう。
私だって、焦ってなんかないもん。
私だって、誰かに好かれてるんだから。
沖田じゃなくたって、隣りが沖田じゃなくたって、笑って居られるんだから。

ガタンとドアのあく音がする
争うような声も響いてきた

この声って、この声って…



「かーぐらっ」



真っ暗な部屋のドアを開けられたことによって光が差し込んでくる



「だから、なんでバカ兄貴アルカ!?」



期待していたらトッシーだったり神威だったり、毎回毎回沖田が来てくれるってどこかで期待してる自分が嫌になる



「悲しみに暮れてる神楽を見たくなっちゃって!つい!」



何が"つい"なんだよ!いきなり家出しといてなんなんだよ!
ニッコリ笑っている神威を睨みつけると、神威の後ろに誰かが居ることに気がつく



「兄貴…もしかして…なんかにとり憑かれてないアルか?」



「は?何言ってんの?」



もう期待なんかしない!
兄貴の友達、もしくは怨霊だ。絶対そこらへんの拾ってきたんだ。
絶対道路の端の花束とか蹴散らしてそうだもん!



「…なんでそんな緊迫した表情なんでィ。こえぇよ。お前の想像力がこえぇよ。」



後ろからひょいっと顔を覗かせる沖田に自分の顔が熱くなっていくのを感じた

やっぱり、期待してたんだ




「なんで沖田とバカ兄貴が居るアルカー!?もー!意味わかんないアル!帰れ!そして戻ってくるな!」



恥ずかしくなって顔を手で覆う
興奮のしすぎか泣きそうになってしまってる自分を落ち着かせようとするが耳まで熱くなってるのがまた恥ずかしくて仕方なくなる

ミシッとベッドのスプリングが音をたてて両隣に人が座る
雰囲気なのか匂いなのかで右に居るのが神威で左に居るのが沖田なんてすぐにわかってしまう
どんだけ2人のこと好きなんだ私



「おい、そんなに顔抑えてるとへちゃむくれがまたへちゃむくれんぞ」



沖田の全然慰めではない罵倒を無視して顔をあげることなんてしない



「神楽…もしかして血涙出てない?」



「いや、こいつことあるごとに鼻血出してるから。今回も絶対鼻血。」



自分でも鼻からの鉄の匂いと手についた液体に気がつき今度は鼻を抑える



「ティッシュ…」



泣く女の子の方が確実に可愛いんだろうが自分ってそんなに泣くような人間じゃなかった
クスクスと笑う神威から渡されたティッシュで鼻血の時の応急処置をする



「我が妹ながらすごいよね。こんな時に鼻血。」



「お前の妹だからだろィ。もうちょっと女らしく育てられなかったのかよ。」



何故か本人ナシで仲良く話すこいつらにムカつきながら鼻血を拭う



「なんでそんなに仲良さげアルカ。できてんのカ?できてんだロ?」



両隣を睨みつけると沖田は引きつった笑いを浮かべているし神威に至っては爆笑だ

最悪だろこいつら



「そういえば今週ずっと一緒だったよね」



驚きつつ確認の目的で沖田を見るとすごく嫌そうな顔をしていた
これは事実だったようだな
浮気相手が兄だったってこれ携帯小説書いたらドラマ化できるのでは?これできるんじゃないの?
ショックと言うよりもう驚愕する



「え、まじでか。まじでお前らできてたアルカ?最近帰りが遅いとかそういうことだったアルカ!?」



今度は私がひきつった笑いしかでない
沖田は今さっきの私のように顔を覆っていて完全に今さっきの私と交代する



「沖田くん言い訳しなくて良いの?」



わざとらしい神威の含み笑いが聞こえてくる
たぶん私がひきつった笑いで沖田を見ている後ろでは神威がニヤニヤして見ているのだろう
もう気配でわかる。さすが兄妹だと思う。本当に。



「…ぷっ…こいつまじで信じてんのかよ」



顔から手を離したかと思うと今度はおかしそうにお腹を抱えて笑う
本人の隣りでひーひーいいながらバカじゃねぇのとまでご丁寧に罵りもしながら…

こいつ…いつかコロス…



「普通わかるだろィ!ねぇよ!浮気するとしても男とはしねぇよ!絶対ねぇよ!」



本気でバカにしているのだろう
今年一番の大笑いだと思う
神威もいつも以上にいやーな顔で笑っているのだろう
これも気配でわかる



「ちょっと待つアル!女となら浮気するアルカ!?」



「くっ…する、かもなァ。」



笑いを堪えつつそう答えると笑いすぎて目の端に溜まった雫を指先で拭った



「私今ちゃんとわかってるアルヨ!?今回はこのバカ兄貴と一緒だったんダロ?でもお前次回は女と浮気する宣言したよナ!?だよナ!?」



楽しそうに笑う神威の声が後ろで聞こえる
沖田は私の目の前で涙まで流しながら爆笑している
私…敵に囲まれてるんじゃない?やばいんじゃないの?



「お前以上にすっげえバカが居たらするかもな。絶対居ないけど。」



バカ兄貴まで絶対居ないと呪文のように呟きながら笑い出す
それは安心できる言葉なのかなんなのかわからないよ
全然慰められてもいないよ
兄貴を睨むとすっと目を開いて目は笑っていないのに口元だけ器用に笑った



「別れろと思って邪魔してたけど末長く爆発してほしい事がよくわかったよ。爆発しろ。」



その一言で沖田の笑いも止まった
後ろから抱き寄せられてそのまま身体を預ける
いつもとは違う角度で見る沖田に心臓が本当にドキンと音をたてた



「じゃあ、お兄さんありがたく妹さんもらいやす」



さっきまで確かにムカつくほど笑っていたくせに、穏やかにそして綺麗に微笑む沖田と目があったら、また鼻から何かがつたっていくのを感じた



「最後まで鼻血垂らしてんじゃねぇよ」



浮気相手は兄でした!?



「お前のせいアル」



「とりあえず爆発しろ」

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