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□ご予定はありますか?
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広場の端で座り込んでしまった私を置いて周りには時が流れてる

泣き叫んだら誰かきてくれますか?

流れて行く人や時を見ることもせず、どうすることもできない。冷たい空気のただようここは既にクリスマスの装飾をされた広場
たくさんの人で賑わっている端っこで恋人とちょうど別れたばかりの私は心まで冷たく凍えていた

叫びたい、泣きたい、時間を戻したい
そう願う
必死に願う

叶わない事は、知ってる。



「はぁー」



今日別れちゃったら絶対クリスマス1人じゃん。
付き合っていた彼は見た目はかっこよかったが女癖が悪かった
そこは良い。悪いけど、クリスマスまで恋人役をしてくれていれば良かった

頭の端にチラつくのは冷たい廊下
その先の部屋にはクリスマスツリーが飾り付けられている

思い出してまたため息をつきゆっくり顔をあげた
目の中に飛び込んできたのはこちらを見ていた若い男性
なんだかまじまじと私を見ていて我慢比べのように見つめあった
そしてそれが見たことのある顔であると気づいた



「「あっ!!!」」



相手の男性も私が誰であるかわかったのだろう
タイミングよく声をあげるものだからなんだか気まずい
男は恥ずかしかったのか頭をぽりぽりとかいてから私の前に歩いてきた



「よう」



「お、おう。」



ぎこちなく交わされた挨拶
挨拶をしたからには何かちょっとでも話そうと話題を考えるが思いつかない
相手も思いつかないのか困惑したような顔で黙っているだけだ
きっと私も同じような顔をしているだろう



「久しぶりアルな。高校卒業して国に帰ってからだから…何年ぶり?」



頭の中で逆算をしようと考えるがまず自分の歳からどうやって計算するのかもテンパって思い浮かばない
元から頭はそんなに良い方ではないもんで動揺している時なんて運が良くない限りはうまく働くことはない



「5年ぶり。お前相変わらずバカだねィ。俺が27だからお前は23か。」



思い出すように指を折り曲げて計算する彼は幼い頃の近所のお兄ちゃんというやつで、幼馴染ともいう。
もうそんなに歳をとったんだなぁ…なんてしみじみ思いながらも再会に素直に喜べない
ずっといじめられていた覚えしかないから…それと、



「仕事はこっちで就いたのかィ?」



初恋の人だから

彼は寒そうに手をスーツのポケットに手を突っ込んでいる姿は素行の悪いサラリーマンだった

こくりと頷く私に"なんで?"と白い息を吐きながらたずねてくる



「何かとこっちの方が便利なことに気がついただけアルよ」



私が最後に見た彼はリクルートスーツの新社会人の姿だ
あの頃の爽やかさはどこかに吸収されたのかどこにも見えない
ただ童顔なところといたずらっぽい雰囲気は全く変わっていない

私は彼から見たらまだまだガキ扱いなのだろうか…



「ふーん。一人暮らししてんの?」



「まあ。」



渋りながらも答えると沖田がポケットの中から手を出して真っ白な息で暖をとっている



「よし、今日泊めろ」



「あー…はあ!?」



最初は真面目に検討しそうになったがすぐにことのおかしさに気づいて驚く
沖田は平然と暖をとった手をポケットになおし立っているだけだ



「お前が一人暮らし、ちゃんとやってんのか監督してやらァ」



いやいやいや!と手と首をブンブンと振ってみたってこいつは昔と同じいたずらっぽい顔で笑うだけだ



「最近ちょーっと金欠気味でねィ。昔世話してやった恩返し、しっかりしろよ。」



座っている私の肩をがっちり掴む沖田の腕を乱暴に振り払う
バランスを崩しはしたが隣りに座り直すくらいのものだ



「いーやーアール!乙女の一人暮らしになんで恋人でもない男連れ込まなきゃいけないアルカ!?」



「乙女?ほー、乙女たァ面白いギャグだねィ。何?芸人でも目指してんのかィ?」



ぐぐぐっと顔を近づけ睨みつけるが彼は意識することもなく私に余裕そうな笑みを浮かべる
そんなところがいちいち鼻について嫌い
私の初恋はこんな奴だったのだと思うとなんだか自分が可哀想に思える



「じゃあ、今度食べ放題奢ってくれるなら、良いアルよ。」



さりげなく誘ったつもりではあったがなんだか恥ずかしくなる
初恋ってずっと引きずり続けることになるんだな…
私なんで好きになんてなっちゃったんだろう
沖田はうーん。と唸ってから渋々頷いた



「お前、もう給料底尽きたアルカ?早すぎるダロ。」



広場から歩き出す私の隣りを沖田が歩き出す
ああ、こうやって肩を並べるのは五年以上久しぶりだった気がする
なんで終わった恋なのにこんなにドキドキするんだろう



「んー、まあ。お前には無関係な行事だろうが日本ではクリスマスって言う恋人の日があるだろィ。」



なんだかフられてしまったように心に何が刺さる感覚がする

もう、好きじゃないんだって
てゆーか、元からそんな好きじゃなかったんだって!



「ああ、今さっき関係なくなったけど…今まではけっこう関係が深かったアルよ。その行事。」



強がってそんな事をいってしまうけど、実際私にとってはその日は苦痛でしかなかった
ある時は夜景だったり、お家でプレゼント交換だったり、ちょっと豪華なレストランだったり…
そうやって2人で過ごした後のひとりぼっちの家に帰るともっと寂しくなって、嫌になってしまう
クリスマスは誰も遊んでくれないし、家族は帰ってこないし
寂しかったことしかない



「なんでィ。フられたのかよ?だっせー。」



ギロリと睨み返したが沖田は何も返事はせずにほくそ笑むだけだった
とてもムカついた

それから電車に乗りまた10分ほど歩いておんぼろアパートにつく
どうせボロいとか古いとかなんとか言われるだろうと思ったが言われなかった
階段を使って二階にあがっていく階段はコンクリートでできているせいで足音がうるさい



「ちょっと、ここで待ってるアル」



ドアに去っと身を隠してそういったところでやはりドアを掴まれる

無理矢理閉めようとする私とドアの間に自分の足を刷り込ませればそのまま開けられてしまう



「お前の部屋がきたねぇことくらいお見通しでさァ」



「そんなんじゃなくて!」



無理矢理入って靴を乱暴に脱ぐとそのまま部屋に入って行った

こいつは…常識というものが欠落している



「これくらいの汚さの方がお前らしいって」



久しぶりに会ったやつになんでそんな地味に酷いこと言われてるんだろう私
少し落ち込んでからしょうがないと諦める



「あ、ブラジャー発見」



もうこいつのペースに入ってる
私はこれに振り回されるだけなんだろう
手にとったソレを奪い返して適当なところにしまう



「うるせーさっさと寝るアル」



なんだか目を合わせるのも緊張してわざと視線をそらす
するとガサガサとビニール袋を漁る音がして顔をあげる
たぶん駅でコンビニに寄った時に買ったのだろう



「今日は寝かさねェよ?」



「マジでか」



その袋の中からはまさかの箱買い
唖然としつつ箱をじーっと見つめる



「泊まるってつまりそーゆー事に決まってんだろィ?」



黙ってしばらく考える
今まで泊めたことあるのは女子しか居ない
もしかして最初からそれ目的で泊まると言っていたのか!?



「えっと、薄いのあるアルカ?」



「…ねぇな。」



そうか、そういえばこいつそうだった。
トッシーはニコチンで、こいつはアル中(疑惑)だった
アルコールの濃い奴飲まないと飲んだ気がしないとか言ってた気がする!



「はい、鬼ごろしな」



「箱で鬼ごろしって買えるんだナ。知らなかったアル。」



何故か2人で鬼ごろしを飲み始める
緊張のせいか全然酔った気がしない
でも明日も平日だし…
もう一本勧められたらつらいかもしれない

そんなに悩む私をよそに沖田はもう既に三個め
こいつ、マジでか。マジで飲む気か。



「てかお前、金欠って言ってたよナ?」



平気そうに箱から幾つかの鬼ごろしを出していたのが一瞬私の方を見てそらす
まるで何も見てなかったように



「あれ、嘘でィ」



「はー?くだらない嘘アルな。」



ミニテーブルの上を手で適当にどかしながらそこに鬼ごろしをならべるのをぼんやりと見つめる
手が、ゴツゴツしてて、昔より全然男らしくて…なんだか変



「…お前さー、もし、俺以外の男が泊めろって言ったら泊めてた?」



真剣な表情で覗き込むその瞳に目が離せなくなる
怒ったような顔してる



「そんな、誰でもじゃないアル。」



逃げるように目をそらして不貞腐れた時のように頬を膨らませた



「俺、クリスマス予定あったけど今日なくなったんでィ」



目をそらしたまま聞いているとの合図の意味で頷く
それ以上はなんだかこわくて見れない



「クリスマスだけじゃなくてクリスマスから正月くらいまで、給料全部使って、お前に会いに行ってやろうと思って…た。けど会えたから、今日予定入れてやろうと思ってる。」



そこまで言ったところでゆっくり振り返ると沖田はお酒のせいかそれとも緊張しているのか、少し顔が赤くなっている
そらしていた目線が絡まり合って離せない



「クリスマス、空いてんだろ?」



照れ臭そうな顔してるくせに目を離すことはしない
私はきっと今すっごく顔が赤くなっていると思う
だって、すごく期待してしまってるから



「今年は…たまったま!空いてる、アルよ」



期待なんてしてないって素振りで言ってみるけど沖田はやっぱりいたずらっぽく笑ってる
まるで全部わかってるみたい



「…zZ」



「え!?目開けて寝てたアルカ!?」



頭の中のひとりぼっちでいた小さな私の隣りに、小さな私より少しだけ大きな影が寄り添って、装飾した家庭用のクリスマスツリーを見上げている

泣き叫ぶ必要なんてなかったね。
ずっとずっと、探してくれてたんだね。

鼻にツンときて目頭が痛いほど熱くなる

なんだ、私、ひとりぼっちなんかじゃないじゃん

沖田を床の適当なところに転がし、私はゆっくりとまどろみに任せて心地よい眠りについた



ご予定はありますか?

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