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□プレゼントプリーズ!
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いつもは素通りする駅のトイレにある大きな鏡を睨むように見つめる
急いで帰って着替えてみた新品の服のタグはちゃんと外したし、雑誌を見てコーディネートは研究した
軽く。あくまで軽くお化粧をしようと何度も描いては消してを繰り返してまあまあこんなもんで良いだろうと思えるほどにまでは頑張れた
言葉にすれば恥ずかしくなるが、今から片思いの相手に会いに行く
作戦はうまくいくことを確信している
私の推理に寸分の狂いもないだろう。
心以外なら準備は万端!

今日は誕生日だから、プレゼントをもらいにきただけアル

これをナチュラルに言えればもう完璧に限りなく近い



「げっ!なんでお前が居るアルカ」



「暇つぶしでィ」



呼び出した人物はトッシー、その隣りに沖田
トッシーは沖田の相手に疲れたのかとてもげっそりして見える
こいつら仲良いのか悪いのか…良いか



「よう、チャイナ娘」



疲れた笑顔を見せながらも軽く手をあげてくれた
ニコッと沖田へとは違う笑顔をつくり軽く手をあげる



「お邪魔虫もついてきたけど、まあ良いアル。どっちにも誕生日プレゼント、しっかり買ってもらうからナ!」



そう言ってトッシーの腕に自分の腕をサッと忍び込ませてグイグイと引っ張るように街を歩き出す
沖田はそれを不服に見送りつつ少し後ろを歩いてついてきた



「何がほしいんだよ」



早く帰りたいのが丸分かりなほどトゲトゲした言葉を投げかけつつポケットからタバコを取り出して、チラリと私を見てそのタバコをポケットにしまう
大学二年生になってからタバコを吸い始めたのだが私の前ではなるべくタバコを吸わないように心がけているようだ
もうタバコ歴一年、と思うとすごく時間がたったことに気づく



「無事に女子高校生になったからにはブランド物も持ちたいなと思ってるアル」



まじでか。と冷や汗まじりに呟くトッシーと私の間にひょっこりと沖田が顔を覗かせた



「ガキのくせに生意気でィ」



憎まれ口を叩いたかと思えばそのままトッシーと私を引き剥がす。私がもう一度トッシーの腕を掴もうとすると私の手と自分の手を強引に繋いだ



「土方このやろーの隣りは俺の指定席なんでィ」



お前らはカップルか!
私の事を仲間はずれにしようとするのは昔からだ
繋いだ手を痛いくらいに握られて潰れてしまいそう



「4つしか変わらないのにお前の方が生意気アル!」



潰れそうになった手を乱暴に離してから目指すは女子高校生に人気なあのお店まで
まあ良い、ここまで想定内の範囲だ
こいつは時々わけわからないことするけど



「うわー可愛いのいっぱいアル!」



またグイグイとトッシーの腕を引っ張って店内に入って行く
沖田は諦めたのか飽きれたのか疲れたのかその後ろをつまらなそうについてきている



「これめっちゃ可愛くないアルカ!?」



少し沖田から離れたかなと思うくらいの距離でトッシーの顔を覗き込むととても困っているのがすぐに伝わった
確かにこんなとこ苦手そう
そして沖田はそんなの表情に出さずに他の小物を見ているのを横目で確認すると私の耳元に顔をよせた



「お前なんで俺を呼ぶんだよ。直接あいつ誘えば良いだろ。」



へ?と首を傾げた瞬間に腕を引かれてバランスを崩す
傾いたその先の誰かにぶつかってこけることをまぬがれ顔をあげる



「土方先輩独り占めすんのやめてもらえますかィ?」



見上げればピキピキと今にも切れそうな引き攣り笑いを浮かべる沖田
バランスをとりなおしてからプイッと顔をそむける
素直じゃない私も素直すぎるこいつも、嫌い



「お前どんだけトッシー好きアルカ」



不満たっぷりに出したその声に返事は返ってこず、沖田も不満たっぷりに睨み返すだけだった
またまた困った顔したトッシーがまあまあと間に入るのを許しつつ好きな小物を探しにその場を離れた

これ可愛いなあとまた手にとったところで後ろから覗き込んできたのは黒髪の方
ニッと笑ってみせるといつもかたい表情の彼が笑いはしないものの柔らかい表情に変わる



「それで良いのか?」



ぶっきらぼうに、それでいて優しく投げかけられる言葉にくすぐったさを感じる
持っていた小物を私から取り上げてまじまじと見つめる顔がなんだかホッとした



「まだまだ考え中アうわっ!」



途中から首に腕が当たり驚きに声をあげる
今度はラリアットをくらってまたトッシーから離された
身体を持ち直そうとする時にはもうそのまま手を引かれて店から出て早足でその場を通り過ぎて行く



「いきなり何するアルカ!?」



引かれる手を今さっきのように振り払おうとしても離れない
もう一度握り直されるだけだ
今さっきも痛かったが今は逃げないように捕まえてるせいかもっと痛い



「痛い!手がとれるアル!」



私の声に気づいてか緩く握り直されたがやはり痛いことに変わりはなかった
どんどん遠くなるショップとたくさんの人ごみでここがどこだかなんてわからない
不安がいきなりこみ上げてきて泣きそうになってきてる



「おきた」



もっと平たんに呼ぶつもりだったのに言葉には今の感情がたくさんつまってる
わけがわからなくて不安な私が音によって表現されていた
やっと小さく振り返った沖田でさえ不安なのが見え見え



「「ぶふっ」」



お互いにお互いの顔が面白かったのか吹き出して一瞬で真顔に戻って顔をそむける
そんなことをしたって既に手汗でびちゃびちゃになった手は離されない



「…土方さんが好きなんだろィ?」



そろそろ人通りがあまりないところとなってからやっと沖田からちゃんとした言葉が発信される



「まあ、お前よりかは好きアル。」



「俺は嫌い」



すぐさまに返された返事は本当のことを言っているとは思えない
ナヨナヨとした響きだった
私はそれが気になって顔を見ようとするが後ろから見えるはずもなくただ顔が向こう側にある後ろ姿を見つめた



「なんであんなチンケな嘘見抜けねぇんでィ」



それはどのこと?と答える前にやっと沖田が振り返る
変わったのは身長だけだと言いたくなるほど子どもなのに、それは知らない人のような男性だ



「お前が俺より土方が好きでも、俺は土方よりお前が好き」



照れ臭そうに泣き出しそうに怒ってるように笑ってるように悲しんでるように
大きくないけど、声を張り上げたわけじゃないけど、叫んでいた



「お前こそ、陳腐な嘘に騙されてるアルカ?」



これだけで全てが伝わったら良いのに。伝わってよ。
あなたにはちょっと難しかったかも。でもね、私だって照れ臭いからさ

遠回しだけど本当のことわかれよって叫んだんだよ
聞こえたなら、わかってよ

困ったように笑った沖田に困ったように笑い返す
困ったように…じゃなくても良い
ただただ笑顔を返す
お互い罵り合ってるように理解しあってるように愛し合ってるように

なんだ、わかってんじゃん?わかってるんでしょ?



「お前の手ベチョベチョ過ぎ」



「逆アル!お前の手がベチョベチョ!」



そんなことを言いつつもお互い手を離すそぶりも見せずにまたゆっくりと歩き出す

わかっちゃったんで、わかっちゃってるんで。
お互いこの手を離したくないんだって



「トッシーさぁ…」



話し出すと手がギュッと握り直される
どれだけあの人を敵視してるんだか
私はそれに気づいて沖田を見てみたけど表情からは何も読み取れない



「聞いてるアルカ?」



「聞いてらァ」



乱暴に返されたがまあいい。こいついつもこんな感じだし。気にしなくたって大丈夫。
私も少しだけ繋いでる手に力を入れる



「私がトッシー呼んだのってお前がくるって確信があったからアル」



沖田が立ち止まって大ニュースでも聞いたかのように目を見開いて振り返り聞き返すように小首を傾げた
それに私も小さく首を傾げて笑う



「え、じゃあ…。…ん?」



何か言いかけながら顔は真っ赤にそまっていった
混乱してるのか、それともわかってるのか
沖田は片手で顔を隠す
その動作が可愛く思えてクスリと笑った



「トッシーにはバレバレだったけど、ほんっとお前バカアルな!」



今度は一方的に私が手を引っ張って歩き出す
誕生日プレゼントはこいつで我慢しといてやろう
こいつのこの余裕のない顔が見れたから気分が良い
すると後ろの沖田がピタリととまったせいで私もとまる
人通りの少ない公園のようなところまで連れて行かれる

向かい合ったかと思えば沖田はニヤリと悪戯っ子な笑顔を見せた



「とっておきのプレゼントくれてやらァ」



そう言われたのも束の間
目の前には沖田の顔でいっぱいになって何が起こっているのか理解出来ない
唇に何かふれてちゅっと音をたて離れていく



「どこがとっておきアルカ」



びっくりしたのと恥ずかしかったのと初めてだったのと…嬉しいのかなんなのかわかんない
わかんないけど幸せに感じる
手はもうベチョベチョだけど、キスは初めてで目も瞑れなかったけど
これがいつかはいつものように手をつないで
いつものように唇を重ねるようになるんだ
私の推理に一寸の狂いもない
証拠はないけど確信だけはしっかりもってる
だからこのベチョベチョな手が乾いてしまう前に、たくさんたくさん繋いでいよう



プレゼントプリーズ!



「…濃厚なチューがお好みならもうちょっと頑張りまさァ」



「頑張らなくていいアル」

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