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□カミツレ
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隣りで歩く彼女を前に、俺は戦慄しそうである

山崎にちょっと調べさせて11月3日が誕生日らしいと聞いてからカレンダーにはなまるをつけ、毎日毎日何をしようかと考えてもみたが
俺はそんなタマでもガラでもなく
いつも通りにケーキにタバスコでもいれて渡しておこうかと思ったが芸がないとやめた
少しくらい、カッコつけてもみたい
街中で偶然か必然か出会えたもののいつも通りに取っ組み合いして、この寒い中川に落ちて凍死しそう
そして何もできずにさっさと帰りたくなっている
商店街は既にクリスマスの飾り付けがしてあるところもちらほら見えて冬を実感させられる

クリスマスも、会える理由ができたら良いのに

凍える手で頑張って絞ったかいもなく水で重たいわ冷たいわの上着を気合い入れるように羽織り直す



「欲しいもんとかあったりしやす?」



俺をこの上着のように冷たーい目で見てから一応考えてやろうと思ったのかまた目線をそらした



「…そろそろドックフードがなくなるアル」



「いや、人間用で」



即座に突っ込むとまた顔を歪めて考え出す
今度自信満々な顔をして振り返った



「米!!!」



輝かしいほどのドヤ顔だったが俺の中ではあきれるしかない
誕生日プレゼントが米って…いや、良いけど、美味しいけど、どちらかといえば俺の誕生日プレゼントはスイカだったかな
まだ酸っぱみが多いスイカも意外と好きだったけどな!



「食べ物じゃなくて」



「ない」



その後はたぶん酢こんぶ!と言うつもりだったのか"す"と言いかけたチャイナにクスリと笑う


「即答すんな」



軽く頭を小突いてから周りを見渡す
何か誕生日祝いっぽいものないだろうか
商店街の端っこにちんまりとたたずむ駄菓子屋くらいしかこいつが喜ぶものはなさそうだな
諦め気味にもう一度見渡すと見慣れた商店街の中に花屋があったことを思い出す
確か、もう少し歩いた先に小さいがあったはず



「ちょっと待ってろィ」



え?と聞き返すチャイナを商店街のど真ん中に放置し小走りに駆け出す
こんなんじゃ、カッコつかないか

びしょ濡れの俺にびっくりしていた店員さんに必要最低限のことを話してまたかけ戻る

ぽかんとしているチャイナの前に立つとゴクリとツバを飲む



「はい」



恥ずかしさを消したくて買ってきたばかりの花束を押し付けるように渡す



「なにアルカ?」



気持ち悪いとでも言いたげな目で俺を見つつ花束を受け取るチャイナ



「プレゼント…的なアレでィ」



花束に紛れたうさぎのぬいぐるみは"ハッピーバースディ"とかっこよく書かれていてそれを目にしたチャイナがまた怪しむように俺を見た



「死亡フラグアルカ?」



どこまで俺を嫌なキャラと思ってるんだ
そんな簡単に死ぬと思うなよ



「フラグくらいへし折ってやるんで大丈夫でさァ」



じとーっとしばらく怪しむだけ怪しんでやっと花束にもう一度目を落とす



「…綺麗アルな」



照れたように笑うチャイナに見惚れてしまう
そんなことが絶対バレないようにすぐさま目をそらした



「…カモミールってかカミツレ?今日の誕生花らしいぜ。花言葉は、…あなたを癒す」



それはさっき店員さんから聞き出した情報なのだけど、ここでくらいかっこつけたい。見逃してもらおう。



「へー、うん。ありがとう。」



あまりにもすんなり放たれた言葉にびっくりする
チャイナからそんな言葉が聞ける日がくるとは…俺もかなり良い男に成長したのかも…
今日も姉上に報告しよう



「…お前から礼を聞ける時がくるたァな」



しみじみ噛みしめるように笑うとチャイナもいたずらっぽく笑い返してくる



「嫌味アルカ?」



「嫌味でィ」



「即答すんナ!」



今度はチャイナを振り回す側にまわれたようだ
今さっきの俺と同じセリフ
でもきっと、今さっきの俺の方が翻弄させられていたけど

びしょ濡れの2人で帰路につきながら、気持ちだけは晴れ渡っている



カミツレ

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