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□今日は大事な日です
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少しだけ胸を踊らせて目を覚ますと外がなんだかバタバタしている
きっと今日が誕生日だから、みんなバタバタしてるんだ
そう思うと口の端がすぐに緩んだ
今日のご飯は何かなー
酢こんぶもらえたら良いなー
普通の日より、少しだけ特別に、そう思ってくれる周りがいる事が嬉しい



「おはよーアル」



いつもみたいに素っ気なく言ってみたけど心なしか声のトーンが高くなる
それに銀ちゃんと新八は隠すように挨拶を返してまたバタバタと何かしていた

今年はどんな日になるんだろう
楽しかったら良いなー。みんなと過ごせたら良いなー。
朝ごはんに卵かけご飯を食べてゴロンとソファーに寝転がる



「神楽ちゃーん、ちょっと買い物行ってきてくれない?」



新八が私を追い出すように何か押し付けてくるのはよくあることだ
サプライズにしたいんだろう
何もわからないような顔して頷くとちょっと遠めのスーパー目指して街に出た

歩いて行くと鼻歌まじりにフラフラ歩いてるあいつを発見する
手にはケーキの箱、クラッカーなんかも入ってて、これは確実にパーティするんだなと一目でわかる

まあ、大好きな人の誕生日だからな。こいつ私に惚れてるもんな。

言葉にせずともわかりあっていた2人の気持ちはそれ以上の関係を築こうとはしないもののそれいかに成り下がることはなかった

これも見逃してやろう。本当にサプライズの好きな野郎どもだ。

何食わぬ顔で横を通り抜けると後ろから逆に呼び止められた



「よっ。チャイナ」



いつもしないような笑顔で、いつも呼び止めたりしないくせに声のトーンは隠さずとも高めで、張り切っていることが丸見えだ
せっかくこっちが見ないふり気づかないフリをしてやったのに



「よう。ご機嫌アルな。」



もう一度知らないフリをしてみたが…この感じはもうプレゼントとか渡されちゃう系なのだろうか
どう反応してやるべきだろう



「お前、今日なんの日か知ってるかィ?」



急に確信に迫られ過ぎてこっちがドキッとする
こいつ、もしかして私が自分の誕生日を忘れているとでも思っているのだろうか?
残念でした。心の中ウハウハですよー!
そんな事は口には出さず、またしょうがないなーっと考えるフリをする



「なんの日アルカ?」



すると何故か沖田は驚愕したような顔してまたこっちがびっくりしてしまう
どう反応してほしいんだ
今日は私の誕生日ー!だからプレゼントちょうだい!って言っといた方が渡しやすかったのだろうか
それならば失敗してしまった
このままサプライズのような形でギブミープレゼント!



「まじで…まじでしらねぇの?」



そんな事言いつつ口の端はにやけている
たぶんサプライズでも良いかと思い直したのだろう
このまま軌道を変えずに最終目標に辿り着くのが無難であろう



「わかんないアルなー…」



ちょっと演技が過ぎたかなとも心配になったが沖田はまたニヤリと笑っていくから計画通りに進んでいるのだろう
今日のこいつはご機嫌なお陰でわかりやすくて良い
このノリにしばらく付き合ったらきっと最終目標(ケーキ&プレゼント)に辿り着くだろう
買いもののメモを持ち直して軽く深呼吸で落ち着く
沖田は興奮気味に鼻を膨らませている
ちょっとムカつくがまあ、今日のところはおとなしくもらおう。プレゼントを。



「教えてやらァ」



そう得意げに笑ってからケーキの箱をガサガサと取り出してパカリとあけた
きっとケーキの上のチョコレートには"神楽ちゃん誕生日おめでとう"なんて書いてあるんだと思いながら覗き込む

あれ?ミスだろうか…?
"いい沖田さんおめでとう"
そうとしか読めない
もしかして私は日本語を間違えているのだろうか
何か違う。何かが違う。
自分の名前は間違えてないとおもうんだけどなぁ



「え?何アルカ?」



首を傾げながら確認するように顔を見合わせると、ケーキを見直してまたキョトンと首を傾げる沖田
いや、わかんなくなってるのこっちだから!
柄でもなくついつっこんでしまいたくなる
もう一度沖田はチョコレートのプレートを見直してやっと真顔に戻ったかと思えばケーキを直して向き直る



「お前がまじで今日がなんの日か知らないと思ってなかった。」



真剣な顔でそんなことを言われても、私もお前が日本語が使えないとは思ってなかったよ
言葉にできずただただ唖然とする
沖田はふうっと悩ましげにため息をついて私の横を通り抜けて行く



「いやいや、ちょっと待てヨ!説明していくヨロシ!」



振り向きざまにクラッカーなどが入っている袋側の手を掴むと冷たい目で振り返られる
なんでそんなにこいつは怒っているのだろう
私が喜ばなかったから?それとも今日が本当になんかの記念日だから?
わからなくなって手にぎゅっと力が入る



「今日さー、大事な日だろィ?」



呆れたように発するけれど、私は自分の誕生日としか覚えてなかった
ましてや"いい沖田さんおめでとう"ってどういうことなのかさっぱりだ
首を傾げた私に沖田はもう一度ため息を吐く



「今日って何日でィ」



投げつけられた言葉に素直に答えが出る



「11月3日ダロ?」



そして私の誕生日だろ?
言いかけてやめる
沖田はその答えでさえ不満顔だ
悪いことはしてないし、思い出せる行事もその他ない



「11月3日、桁で言ったら1103だろ?」



諭すように私に聞き、それに間違いないと頷くと、やっと満足したのかニヤリとして重大な事実を発表するような雰囲気を醸し出す
かつてこいつがこんなに面倒臭く思えたことはあっただろうか
これは今までで1番面倒臭い沖田だ



「1・1・0・3で、良い、沖田、さん、の日でィ」



「はい?」



思わず敬語で聞き返してしまう
今目が滑ると言うか耳が滑った
耳を疑うとはまさにこのこと!と言えるほどに意味がわからない
沖田はまさにドヤ顔をしていて、自分の耳がおかしいのではないか…と疑う他理解する手段がない



「だから、良い沖田さんの日でィ」



今度は区切らずにするっと耳に通り抜けて行く言葉
良い沖田さんの日…だと?
わかっていなかった私にまたふうっとため息をつく



「お前、俺のこと好きなくせにそんなことも知らなかったのかィ。ふー、やれやれだぜ。土方さんも近藤さんも毎年祝ってくれるしねィ。お前まだまだなんじゃねー?」



祝う奴がいる事に驚くわ!と怒鳴りたいところもあったが、唾を飲み込み1番言いたいことを整理する



「今日は私の誕生日だろーがぁぁぁぁぁあ」



全力で右ストレートをお見舞いすると沖田は数メートル飛んで行った
沖田のケーキはそれでグチャグチャになってしまったので弁償する代わりに神楽と同じケーキで真選組まで呼んでみんなでお祝いすることになったのでした



今日は大事な日です

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