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□赤から青に
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イチャイチャしたいとか、デートしたいとか、あまり思わないと言うと決まって
"本当に好きな人と出会ってないからだよ"と言われた
本当に好きだと自分では思ってたのだけど…そうやって否定されてしまうと心の中でそうなのかなぁと疑いつつも信じてしまう
もう肌寒い季節だが、人肌が恋しいとは思わない。帰ってこない兄は今どこでこの寒さを感じているのだろうと夕暮れで赤く染まる空を教室から眺める
すぐに暗い青が赤を追い出して行く
日はますます短くなってきている
好きだと、思うんだけどなぁ…
想うとワクワクして、心臓が苦しくなって、自然と頬がほころぶ
明日はどんなこと話すんだろう?どんなことで喧嘩して、どんなことで笑うんだろう?
たくさんの気持ちが夕日のように赤く強く光る
「まだ残ってたのか?」
胡散臭い白衣を着た銀ちゃんが教室の黒板側のドアから気だるそうに入ってくる
夕日によって少し赤く染まった白衣は風にふかれてヒラリと揺れた
私を目で捉えつつ自分の教卓まで行くと忘れ物でもしていたようで"あったあった"と呟きながら日誌のようなものを取り出していた
その後景を横目に見ながら肘をつき手のひらにのせている顔は動かさずに口を開く
「うん。彼氏待ちアル」
素っ気なく答えると"なんだよ"と呟きながら銀ちゃんは私の前の席に座って私の方に身体を向けた
私はそれを興味なさげに目線だけで盗み見る
「彼氏待ちのくせにウキウキとかしねぇの?」
ガキが調子乗りやがってと言う割にはなんだか嬉しそうにも聞こえる
私はそれとは反対にモヤモヤしたまま口を開く
「…本当の恋愛じゃないらしいアル」
いきなりの重たい返答に銀ちゃんはぐふっと笑いを噴き出す
それにムカついてギロリと睨み返すがクスクスと笑われる
「なにアルカ?」
できるだけ声に感情を込めて威嚇してみるがやっぱり銀ちゃんにはかなわない
さすが長年主人公やってるだけあるよな
「本当の恋愛ってまずなんだよ。ガキ」
そんな質問を投げかけられたってわかるわけがない
言われて気にしているだけ、であって自分でこれは本当の恋愛ではないとは思ってない
カキーンと野球部からボールがバットに当たる気持ち良い音が響く教室でふてくされる
「イチャイチャとか、すること…?」
わからないなりに口を尖らせて言ってみるが自分でもその答えに納得がいかずにまた一層不機嫌丸出しになる
今度はサッカー部の外周の掛け声が聞こえ始める
そろそろ部活も終わりだ
「イチャイチャ…ねえ。」
ニヤリと笑う銀ちゃんは答えをわかってて渋っているようには見えないがなんだか私を焦らしているようでもどかしさにイライラする
電気のついていない教室は真っ赤に染まっていたが夕暮れによって既に暗さが現れてきている
「本当にそれだけしか思ってないんだったらまだまだなんじゃねーの?俺もよくわかんないけど。」
教師らしくない銀ちゃんが教師らしく笑って席を立つと夕暮れで赤黒く染められてだらしないくせにかっこよかった
そしてそろそろ迎えくるだろうから退散するわっとそそくさと出て行った
私だって、イチャイチャすることだけが、恋愛ではないと思っているけど…それで良いの?
それは誰にも聞けないで心の奥に閉じ込める
フラッと教室に入ってくる沖田を見てドクンと心臓が動く
「ダッシュで来てやったんだから感謝しろよなァ!」
いつもガキみたいなこと言って、バカで、私のこと大好きで、そんな沖田が私も好きで
カバンを持って立ち上がると顔が赤いのは夕焼けのせいにしてニコリと笑いかける
「遅いアルー!」
この気持ちが本当じゃなかったらなんなんだよ
もう暗くなった廊下で全力で鬼ごっこ
足音が棟全体に響く
追いかけているのに音が反響して追いかけられてるみたい
本当だとか、本当じゃないとか、私たちはいつも本気で喧嘩して、本気で笑って
恋愛に本当なんてわからないけど
やっと追いついた沖田の手をとると振り返った照れた顔がまた好きで、好きで、仕方が無い
私の好きは、これ以上を知らないよ
誰からも認められなくて良い
きっと2人は2人だけの恋愛中
赤から青に