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□酒は飲んでも呑まれるな
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ガタンと玄関から物音が聞こえる
ガチャガチャと鍵を差し込む音だ
眠さに目をこすりながら考える
家の鍵を持ってるのは家を行き来している恋人のあいつしか居ない

あいつ、夜中に来たのかよ
玄関が空く音でやっぱりあいつだと確信してむくりと起き上がった

玄関の電気をつけるとピンク頭が見える



「お前、今何時だかわかってんのかィ?」



眠気によって機嫌はすこぶる悪い。そのついでにこいつがこの夜中に歩き回ったという事実も腹立たせていた
ゆっくりと振り返った彼女の顔は真っ赤で、これは酔っ払ってると一目でわかった



「愛しの神楽様が来てやったのに嬉しくにゃいアリュカ?」



吐かれた息の酒臭さが近寄っただけですぐにわかる
俺も酒は好きだがここまで酔っ払うのは正月でもそうそうない
彼女の場合はけっこうすぐに酔っ払ってしまうが…
何かいろいろとしゃべっているが日本語になっていない



「夜中まで飲んでる女は好きじゃねぇ」



しゃがみこんで座っている彼女に視線を合わせたら今度はポロポロと泣き出してしまった



「好きじゃないとか酷いアリュ…!」



いつも以上にこれはめんどくさい酔い方をしている
はぁーっとため息をついてからなだめてみるがポロポロと泣き続ける
したったらずな口調で嘆いているが本当に何を言ってるのか理解できない



「やっぱり遊びだったありゅなー!?」



最初何を言っているのかわからなかったが頭の中でやっと日本語に変換されて理解する
もう一度ふーっとため息をついてから頭を撫でた



「こんなめんどくせぇ女とは遊びでは付き合いたくねぇな」



こいつこの言葉の意味ちゃんと理解してるのか?と思うほどケロリと泣き止んだ
けっこうバカにした意味も含めてるのだけど
そして今度はえへへーと笑い出す始末



「お前やっぱり私のこと大好きすぎアリュよー」



そう言ってニコリと笑うと両手を広げて俺の首に絡みつく
近づくと服に染み付いたタバコ臭いが香った
こいつには酒の匂いもタバコの臭いも似合わない

よいしょっとそのまま持ち上げるととりあえずリビングのソファーに降ろす



「もう抱っこ終わり?」



いつもより甘えた声、潤んだ瞳で見つめられると少しムラっとする
その目線を片手で塞いでもう三度目になるであろうため息をつく
こいつは絶対明日になったら今日のことなんか全て忘れてしまうだろう
ここで理性に負けたら後で俺だけ覚えているという最悪なオチだ

"待ってろ"と目を見ないで言ってから水を取りに行く
とりあえずはやく酔いを覚まして今日の説教と風呂に入れてやらねば俺はゆっくり寝付けない
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してリビングのソファーに戻るとおとなしくペタンと座って待っていた



「ほら、飲め」



水を受け取るとそのまま口には運ばずに俺をジッと見上げる
その瞳に耐えかねて軽く頭を抱える



「なんでィ?」



いつもは俺が周りを振り回しているのに何故か今は俺がこいつに振り回されている
そんな世話焼きな方ではないと思うし、けっこう…難しい



「怒ったアルカ?」



今さっきまではっきりしゃべって居なかったのにヤケにはっきりとしゃべるので少し困惑する
もしかして、今の演技か…?今までに見ないほどの酔い方をしていたし



「いや?」



彼女はペットボトルをテーブルに置くと俺の腕を引いた
俺はそれに誘導されるままに彼女の前に座り彼女の目線に合わせる



「本当は、そんなに酔ってないアル」



きっと獣の耳でもついていたらペタンと垂れ下がっていただろう
いつになく弱気な声で懺悔してくる
そういうのを俺が好きってわかってやっているのだろうか
ムラムラがけっこう身体に充満してきている



「総悟に会いたかっただけネ」



これはそうとうに酷い罠だ。好きな人にこんな事を言われて喜ばない人間は居ないだろう。
どう反応して良いかわかんなくて赤くなって俯く
やっとの思いで顔をあげるとチャイナは今度は酒のせいではない赤さに変わっていた



「夜中に出歩いたことは許さねェけどな」



そのまま流れに任せて少し下からキスをするといつもとは違う触れ合い方にまたドキドキした
いつも見下ろす側なのに下から眺めるのは新鮮で良い



「それって、心配してるアルカ?」



口に出さない真意を問われると照れ臭い
だけど、今回は彼女も酒の力を借りてか積極的だ
俺も素直になってやらなくもない



「心配ってか、嫉妬の方があってるかもねィ」



ん?と首を傾げる彼女に何度もキスをしてからどちらからともなくソファーで眠りについた



「ぎゃぁあ!」



キンキンと耳にも頭にも響く声で目が覚める
頭には痛みと言うか鋭い何かが降ってきた衝撃が走る



「なんで沖田が居るアルカー!?」



どうやら彼女は本気で酔っ払っていたようだ
なんでこんなオチなんだ!
でもこいつの本心って甘えたがりだとわかったことで…水に…



「流せるわけねぇぇぇえ!!!」



酒は飲んでも呑まれるな

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