SS5

□初恋
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星が綺麗だ……

そんなことを思う夏
今日の昼は雨が降り注いでいたが、夜になると雲があけ、星空が見えていた。
この星空を誰かに見せたくて、夜中だと言うのに少年は歩き回っていた。

どこに行けば、会えるだろう

自分に似た面影のある女性を心の中に思い浮かべる。
会えないことはわかっているけど、織姫と彦星が昨日会えたなら、自分だって会いたい人に会えたらいいのに、と願ってしまう。

誰かと話したい気分

そんなことを思うのに、人の影はどこにもない。
ふと思う、少女はこの星を見てるだろうか……
会いたいとは思わないけど……
少しの好奇心だ。
いつも喧嘩ばかりしているけれど、もし、こんな星の綺麗な日ならば、喧嘩もしないのではないかと考えた。
それはそれで、物足りないか、と考え直して、高台へと向かう。
きっと高いところでこの星空を見ると、手が届きそうな気がする。
いつの間にか駆け出していた。
その先には人の影……。

「お前も、見たかったアルカ?」

わかっていたかのように彼女は振り向かずに言った。

「ここは俺の特等席でィ。消え失せろチャイナ」

そう怒ったように言ってみると、少女は振り返って微笑んだ。
そして消えた。

「チャイナ……?」

そういえば、去年ここで会ったんだ。
そんなことを思い出す。
その時の記憶がフラッシュバックしたのだろう。そこに彼女は居ない。イタズラに笑う彼女は居ない……。

去年、なんでこんな所でこの時間にあったんだっけ?

頭の中で考え始める。なにか思い出せそうで、思い出せない記憶。
彼女と付き合っていたのはつい最近までの事で、今はただの喧嘩仲間だ。

どうしても、甘えたい自分が気持ち悪くてやめた。自分勝手に彼女をこの場所でフッた。彼女は何も言わずに頷いて、そのあと少し笑ったあと喧嘩をしかけてきた。

付き合ったのはいつだっけ?

確か2年前、
彼女がまだ14歳の頃だ。
付き合い始めたのは簡単だった。
ただ単に一緒に居て楽しかったから、彼女でもいいやと考えた。
これからもっと楽しくなるんじゃないかなんて、思ってたんだ……。

「好きヨ」

少女が呟いて抱きしめてくる。
そして消える。

何が起こってる?

少年は一旦考えて、そんな瞬間が過去にあったと思い出す。
でも彼女は、そうやって甘えるのが苦手なのか、なーんてな!と殴りかかってきた記憶がある。

「そーご」

呼ばれて振り返ると彼女が消える瞬間だった。

なんだ?何が起こってる?

わからなくて幻覚を見ないようにと走り出す。
それでも通行人として彼女が現れる。それをどうしても目で追って、消える。

いっその事、本人に会えば消えるんじゃないか?
2人現れることになるのだろうか?

考えついたらすぐ行動。万事屋へと足を走らせた。

「いい夜だな」

万事屋の下に着くと、来るとわかってたように、銀髪の男が話しかけてくる。

「旦那」

そう呼ぶと、相手は手招きをする。
その手に招かれるように階段をあがり近づいた。

「今日の雨、PM8251が混じってたんだってな」

え?と問いかけると間髪入れずに銀髪の男が死んだ魚のような目をして答えてくれる。

「なんでも、初恋の相手が幻覚で見えるんだと」

最近は天人の経済活動も大きくなり、異国の薬などが流通し、燃やしたものが雲に乗って流れてきたり、雨になって薬が降ったりするようだ。
その中のPM8251らしい。

「旦那は誰が見えるんですかィ?」

「……んなことより、あいつの様子、見てきてやってくれや」

とても不満そうにそんなことを言われて、ドキリと心臓が高鳴る。
アイツの初恋は誰なんだろう。
旦那がこんな態度をとるんだから、もしかして、俺?

ドアを開け、中に入る。
少女は、少年を見るなり、泣きそうな顔で言った。

「私の初恋がお前とはナ」

どうも、幻覚と勘違いしてるようだ。

「そういえば、今年は言えてないね、誕生日おめでとうアル」

そう言われてやっと去年のことを思い出す。そうだ。去年も晴れた夜空の下で祝ってもらった。1年前、あの場所で……。そして、最近その場所で別れを告げたんだ……。

でもきっと、彼女の初恋は自分ではない。だって自分は本物だからだ。

もし他のものが見えたら……、嫌だ。

「チャイナ」

俺だけを見ろ、そしたら何も見えなくなる。
でもそんなこと言えなくて、そのために、できること……。

神楽の瞳の中でいっぱいいっぱいに入り込んで、唇と唇を重ねた。

「!?」

彼女が飛び退こうとしたが、抱きしめることでそれを回避した。
真剣な視線で相手を黙らせて、ずっと自分だけを見てるように仕向ける。

唇を外すと彼女はむず痒そうに顔を歪めた。

「本物かヨ」

何も見えなくなるように彼女を腕の中におさめて、視線を自分の肩で遮る。

「な、何アルカ?さっきから、変アル」

何も見えないと言いたげな彼女に彼は説明しようとしない。
長いことそうしていた時だった。
そういえば自分にもう幻覚の症状がないことに気づき、彼女を見る。

「な、何アルカ?」

困惑の表情で頬の赤みはとてもじゃないが恥ずかしくて死にそうっと伝えてくる。

「いや、俺たちってなんなのかねィ」

初恋の相手であり、今好きな人では無いのだろうか……?
そして、神楽には本当に自分の姿が幻覚として見えていたのだろうか……?

「元カノ元カレ」

そうだけど、そうじゃない。と言いたくて、少年はもう一度キスがしたくなり、やめる。
さっきは必死だったから出来たものの、またするとなると、難しいのだ。

「やっぱり私にはしたくない?」

キスをしようとしてやめた自分を見て不安そうに見上げる彼女を一蹴する。

「さっきしただろィ」

したくないわけではない。出来ないのだ。
この気持ちはプライドだろうか?
どうしても凝り固まった何かが錆び付いて動き出さないように、彼女に唇を落とそうと思うと体の部品が固まってしまう。

「でも、いつものサドは、私にこんなことしないアル!」

「はぁ?お前だって甘えてこねェし!」

可愛くないやつ!と言い合い喧嘩になる。物を投げまくり、万事屋はめちゃくちゃだ。

「また、キスしてヨ……!」

彼女からの直球な言葉に簡単に瞬きで返す。

「してこいよ、雌豚」

付き合っている時にこんな喧嘩ができていれば今の関係は変わっていたのかもしれない。
それでも、今で良かったとどこか思ってる自分がいた。

「ムカつくアルー!」

俺にはお前が見えたけど、お前には何が見えた?
なんて聞けなくて室内でお互いを殺し合うように喧嘩する。

「俺が見えたもの、わかるかィ?」

その問いかけが精一杯で、沖田の言いたいことがわかるようになってしまっている彼女は苦笑いする。

「私の見えたものはわかるアルカ?」

わざとそう問いかけてから、怪訝そうな顔をする少年を楽しんでいた。

「……銀ちゃん」

そう言ってみればポーカーフェイスをしているつもりでも表情は暗くなる。

「嘘ヨ」

少年はバタバタと攻撃から避けるようにして、少女を外へと誘い出す。
銀時の姿は無かった。

「別に、誰でもいいんだけどねィ」

外まで出ると、少女の攻撃を避けながら空を見上げる。

「余裕ぶるナ!」

怒っている神楽に、見てみろよ、と目線で空をさす。

「わ、綺麗」

彼女が誰を見たのかなんて、どうでもよくないが、いい。
今同じものが見れるなら……。

星が、綺麗だ……

心の中で茶髪の女性が、微笑んだ気がした。
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