SS5
□スマホ
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ポストの中からゴトンと音がする。
気になって見に行った神楽は『神楽様へ』と書いてある封筒を手にする。
少し厚みのあるその封筒は壊れ物注意のハンコまでついていてなかなか立派だ。
早速開けてみると中にはスマートフォンが入っていた。
使い方がわからなくて万事屋の応接間であくせくする。
「神楽ちゃんそれどうしたの?」
新八が不思議そうにスマホを持つ神楽を見つめる。
神楽はスマホを見せつけるように掲げるとニッと笑った。
「きっと神楽様への貢ぎ物アルヨ!」
神楽が嬉しそうに答えると、新八は訝しそうにそれを見つめるのだった。
「新種の詐欺かもしれないから気をつけた方がいいよ」
確かに、これは誰からだろう?
そんなことを思った瞬間に、スマホがピロンと可愛く鳴った。
「わ!」
驚く新八とそれを訝しげに見返す神楽。
それでもスマホは何かを受信し続ける。
なんだろう?
疑問に思った神楽はスマホの画面を開くことに成功する。
とはいえロックも何もされていないものなので簡単ではあった。
サド丸13?
開いた先にあった宛先の名前だった。
サド丸13からメッセージと言うやつが届いているらしい。
内容を見ると、『こんにちは』と一通目、
『使い方わかりますか?』と二通目。
返事の書き方はどうにかなりそうだったので、『わかる』とだけ返した。実はカタカナへの変換や濁点などの打ち方はわからなかったが、なんだか変なプライドが邪魔した。
たぶんこのサド丸13ってあいつだろうし……。
どうにかこうにかアドレス帳を開くと、サド丸13しか登録されていなかった。
誰かのお古、と言うよりは神楽のために買われた新しいスマホと思える。
「なに?大丈夫なの?」
新八が心配そうにしているが、神楽はそんなこと気にもしない。
「誰のかわかったから行ってくるアル」
サド丸13なんて、あいつしか居ない。
新八に見せてはいないからただ心配そうに神楽を見送るのだった。
いつもサボっている場所を知っているため、いつものサボり場である公園に来た。
「サド」
木陰のベンチで寝る沖田を傘でつついて起こすと、とても不機嫌そうだ。
「なんでィ、チャイナ。こっちは仕事中だっての」
「これ、お前からだロ」
神楽がスマホを見せつけると、沖田は何も知らないらしく首を傾げる。
「……買ったのかィ?」
考えた結果の答えらしく、返事は少し遅かった。
え?と神楽は聞き返しそうになるが、はぐらかされてるんだと気づきまだ問い詰める。
「サド丸13なんてお前しか居ないアル」
「俺の名前は沖田総悟。サド丸13なんてイカした名前知らねぇな」
沖田は呆れたように答えている。そう言われて見れば沖田がこんなわかりやすい名前でこんなものを送ってくるわけがない。
「そうか、勘違い……!!」
言いかけたところで後ろからの強烈な視線に振り返る。
誰かいたはずの公園の入口の木陰に人の気配はない。
だがしかし、そこから視線を感じたのだ。
「なんか居たねィ」
沖田も気づいたらしくそう言いつつ公園の入口まで見に行った。
何もいなかったらしく、首を横に振ってみせる。
沖田は気だるそうに見えたが、少し殺気を放っているようにも見える。
嘘をついているようには思えなかった。
行って損した。
そんなことを考えながら万事屋に帰る途中、サド丸13からメッセージが届く。「わからないことがあったらなんでも聞いてください」と優しげな文章。
それに疑問形で返す『てんてんはとうやつてうつの』
サド丸13は意外と良い奴で丁寧にスマホの使い方を教えてくれる。
それからサド丸13とは世間話をする仲となった。
「なんか神楽ちゃん最近、楽しそうだね」
新八も楽しそうにそんなことを言ってくるので、神楽はうん、と大きく頷く。
「メル友が出来たアル!」
「メル友か〜!文通みたいな感じかな?楽しそうだね」
「うん、この相手がめっちゃ良いやつで、面白いから返事が楽しみヨ!」
いつの間にかサド丸13からのメッセージが待ち遠しくなり、会ってみたくなる。
新八が応接間に掃除機をかけている間に、メッセージを打つ。
『会いたい』
『僕に会ったらきっと後悔するから』
それはいつもサド丸13が言うセリフだ。いつもそこで深追いはせずに諦める。
銀時と買い出しに行った時だった。
「お前、最近楽しそうだな」
買い物袋を持って帰り道に銀時から言葉を投げかけられる。
「それ新八にも言われたアル」
「なんかあったの?」
そう聞かれてサド丸13の話をしたくてたまらなかった神楽は、このときを待っていたと言わんばかりにサド丸13の話をするのだった。
いかに沖田より優しいか、いかに沖田と違うか、というのがメインであった。
「それ、本当に良い奴なのかね?会ったことないんだろ?」
「サド丸13は良い奴アルヨ〜!前は道に迷ったばあちゃん助けたって言ってたアル」
「へー、会ったことないのによくそんな信じ込めるなぁ。実在しねぇかもしれねぇぜ?」
「サド丸13は、そんな奴じゃないアル!」
怒ってその場を飛び出す。
そして、サド丸13にまたメッセージを送るのだった。
『会いたい』
会いたい、会って話がしたい、本当に良い奴なのだと信用はしているが、みんなに自慢したかったのだ。こんなに良いやつなんだと。
サド丸13からの返事はいつもの通りだった。
『僕に会ったらきっと後悔するから』
『後悔ならしても良いから会いたい』
初めての深追いに彼も納得してくれたのだろう。今度会う。ということになった。
約束の日、約束の場所で神楽はおめかしをして待っていた。
「来ないアルナー」
約束の時間はとうにすぎていた。
神楽は待つ。
急に曇り始めて雨が降ってきた。
それでも神楽は待った。サド丸13が来るのを。
そこへ沖田が現れる。
心のどこかでホッとする自分がいた。
沖田は口を開く。
「濡れてるぜ、これ着ろィ」
暑苦しい上着を脱ぎ、神楽の頭にかける。
「なんでここに……」
「……見回りでィ」
「うそ、こんなところいつも来ないもん!」
神楽の問いに、沖田は難しそうな顔をして答える。
「……サド丸13なんてこの世に居ねぇんだよ、だから、誰も来なかった、それでいいだろ?」
誰もサド丸13に会いに来たとは言ってないのにそんなことを言う沖田へスマホでメッセージを送る。
ピロンと可愛らしい音が沖田のズボンのポケットから聞こえてくる。
ほら、やっぱり君だ……。
優しい自分を見せてはくれない君だ。
いつも隠してばかりなのに、本当は気づいてほしそうにしている。
いつもじゃれあってばかりで中身なんて見た事ない君を、メッセージだけでずっと見てきた。
「メッセージ、見てヨ」
その言葉に沖田は素直に従ってポケットから出した。
「……後悔、したか……?」
メッセージを見るのが怖いのか質問を投げかけてくる。
「良いから見るアル!」
神楽はそれには答えない。
知ってる?私は君を見た時ホッとしたんだよ。
沖田はとても見たくなさそうにメッセージを開いて、読めたのか目を見開いたと思えば、顔が赤くなっていく。そこには神楽から『すき』のメッセージ。
「どうせサド丸13に言ってんだろィ」
「サド丸13はお前だろ」
「俺に言ってのかィ?バカか!?」
「バカアルヨ、大バカアルヨ!でもその2文字の意味もわからないお前はそれ以上のバカネ」
そういって笑いかける神楽に沖田は照れくさそうに見つめ返す。
「おれも」
そう返ってきた瞬間に雨なんて気にせず抱きつく神楽であった。
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「あの視線は何アルカ?」
「時々見に来てるおめぇんとこの旦那でィ」
「まじか、過保護」
「ほんと過保護だから手が出せない」
「出してこいヨ」
「え?」