SS5

□誓い
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遊び人なのは知っていた。男女構わず誰にでも手を出すとそんな魔性の男だと噂で聞いた。明るい茶色のサラサラヘアーをしていて目は切れ長の赤茶色で女にも見える風貌だ。

「チャイナ、さっきからぼーっとしてね?」

いつものじゃれあいをしている間、こいつ、モテんだろうな。なんて考えてた神楽は確かにぼーっとしていて、沖田の刃の背でつつかれる。

神楽はそれを無視して公園のベンチに座るのだった。

「なんでィ、変なもんでも食ったか?」

ベンチに座って傘を持ちながら伸びをする神楽に沖田は刀を納めて隣に座る。

「ねぇ、1番好きなのって誰アルカ?」

「あー、うるせーわかんねーし」

「わかんねーのかヨ」

それはお前だよって言って欲しかった神楽に気づかない振りをする。
沖田は複雑そうな顔をして立ち上がる。

「そういうめんどくせぇこと言うならもう会わねーぞ」

「な、なんでそんな脅しみたいなこと!」

そこまで言いかけたが諦めて言葉を変える。

「ううん、良いの。サドはサドだから。良いの」

そう自分に言い聞かせてる。

こんなの私らしくないよ……

沖田が魔性の男だと気づいたのは歌舞伎町を歩いている時だった。
ホテルから出てくるのを何度も見た。神楽とも付き合っているのだが、神楽とそういう行為に及ぶことは無かった。
非番の日、仕事の日関係なく、沖田はホテルから男女関係なく連れて出てくる。
それが一番の原因だったが、沖田にそのことを聞くのは彼女として怖かった。

神楽の様子がおかしいと沖田は気づいているようだが指摘はしなかった。

「また、ね」

立ち上がった沖田を置いて神楽は駆け出す。
誰もいないところへ。

誰にも会いたくなかった。
誰にも知られたくなかった。
自分がこんなにも弱いってこと。
誰にもわかってもらえないとしても、好きなことに変わりはなかった。
こんなに酷い扱いを受けても、また会いたいと思ってしまうのだから。

それからまた歌舞伎町を歩けば沖田と誰かが2人で出てくる。
気になって仕方ないのに、踏み込んだら嫌われそうで何も言えなかった。

もうやめよう。
追いかけるのも、好きでいるのも、我慢するのも
もう全部やめて忘れてしまおう。

神楽は歌舞伎町から抜け出すと、万事屋に帰った。

きっと万事屋にまで、あいつがくるわけがないから。

もう、会わない。





「神楽ちゃん最近家にばっかいるね?」

神楽は新八の声にうーん、と唸り声で答える。

「たまには外に出ないと!ちょっとこれ買ってきてよ」

イヤイヤと神楽が首を振ろうとも、新八は酢昆布をチラつかせてくるので神楽は行くしか選択肢はなかった。

言われた通りに買い物に出かける。どうにか沖田に会わない道を探して。

「いたっ!」

「いってーな、どこ見て歩いてんだ!って、チャイナ娘」

その時だ、たまたま通りかかったであろう土方とぶつかる。

「なんだ、マヨラーアルカ」

沖田に見つかったわけじゃないのでそこは安堵の溜息を零して、土方を見上げる。

「なんだよ、残念だったか?」

「いや、逆に安心したアル」

土方は神楽に困ったような顔で言う。

「お前の総悟どうにかしてくんねぇか」

「あの浮気男アルカ」

「浮気男?」

そういえば土方には付き合っていることを言ってなかったかもしれない。と神楽は思い出す。

「なんでもないアル」

そんなことを言われなくても土方は2人の関係をわかっていた。

「最近総悟のやつ仕事ばっかりしてっから、もうちょっと気にかけてやってくれや。じゃあな」

そっか、探すことすらしてくれなかったんだ……。
こんなに気にしてるのは私だけなんだ……。
大嫌い、こんなに振り回されるのは大嫌いだ。

土方の後ろ姿に沖田を重ねて見えてしまう。
走り出して、沖田に見える土方を抱きしめる。

「会いたいのは、私だけアルカ!!!」

そう叫ぶと周りがザワつく。土方も振り返って変な顔をした。
ハッと気づいて手を離した時には、腕を違う人に掴まれていた。

「サド……」

そう呟いた時には腕をすごい力で引っ張られて、どこかへ連れていかれる。
人の居ない小道に入り、沖田から壁に押しやられ、逃げようにも沖田の手で囲われている。
赤茶の瞳には神楽しか映っていなかった。

「で、土方とはいつからそういう関係でィ?」

「は?」

聞き返す神楽に、沖田は暑そうに汗を服で拭った。

「だから、いつから好きだったかって聞いてんでィ!俺とは遊びだったのかよ」

いつもではありえない声の荒らげ方に、神楽は少し不安になる。何か逆鱗に触れてしまった、と。

「私はお前のことが好きで、マヨがお前に見えて……!それで……」

必死の言い訳に沖田は驚いたような顔をする。
そんな顔をしてる沖田には強気になれたのか神楽は続ける。

「お前こそ毎回ラブホから違う男や女と出てきて何アルカ!?ずっと言えなかったけど、私のこと好きアルカ!?好きだったらなんでこんなことするアルカ!?浮気するくらいなら……別れる……お前なんか……嫌いになる……」

「あれは援助交際の取り締まりで……。ていうか、嫌いになれんのか……」

沖田が顔を寄せて迫ってくるので神楽はそんな沖田に唾を吐いた。
沖田はそれを袖で拭う。

「ずっと会ってなかったのに、なんも言わねぇし会いにも来ないやつなんて、嫌いアル」

沖田はサド心が折れそうになる。

嫌い、嫌いになる、嫌われる、チャイナが俺のものじゃなくなる。
そんなの、許せねェ。

黙って神楽を抱きしめる。

どこにも行かせねェ。
チャイナは俺だけのもんだ。

「汗くせぇんだヨ」

抱きしめられたことが照れくさいのか神楽は暴れ回るが、沖田は離したりしなかった。

「付き合い始めてから、そういうのずっと聞いてなかった」

神楽はそう言われてから気づく、確かに、嫌われるのが怖くてそんなこと言うことはしなかった。ただじゃれて遊ぶだけ。
本気で罵倒することなどなかった。

「そういうチャイナも、猫かぶってるチャイナも、好きだ。別れるなんて、有り得ねェ」

沖田が泣いてるのを背中で感じる。

なんでお前が泣くんだよ、と神楽も泣き出しそうになっていた。

「もう、別れないから、泣かないの!」

沖田の背中に手を回してトントンと摩ってみるが、逆効果で泣く声は大きくなる。

「泣きすぎアル!」

「だって、チャイナが悪いんでィ」

確かに少し悪かったかも、なんて感じてしまう。

魔性の男は自分に対してだけだったんだと気づいた神楽は、嬉しくなってギュッと沖田を抱きしめ返す。

「いってぇ」

「バカサド」

「バカチャイナ」

2人はしばらく抱きしめあってから、もう別れるなんて言わないと誓いのキスをしたのであった。
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