SS5
□恋とは
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でかい白い犬とチャイナ服の少女が銀髪の天パを追いかけて走っていくのを見ていた。
少女をじっと見つめる。
見えなくなるまでずっと。
総悟、と土方に呼ばれてやっと我に返るが、土方の言うことなどほとんど耳に入らなかった。
好きすぎて、つらい……
沖田と神楽は相変わらず公園での喧嘩を繰り返していた。
今日も喧嘩して途中まで一緒に帰ったところ、銀時を見つけた神楽に置いていかれる。
いつも、負けてばっかだな……
そんな気持ちになる。
土方と屯所に帰るあいだ、自分のいい所を数える。
こんなにいい男なのになんでチャイナは旦那の方が良いんだ?
ダメンズのあの男のどこがいいんだ?
嫌になる考えに、はぁーっとため息をつく。屯所につくと、さっさと自室に籠る。
土方にはまだ仕事残ってるだろ!と怒られたが、書類整理しやすー。と適当に返しておいた。
どうすればこの気持ちは成就するだろうか、考えてみる。
好きになってもらうには、どうすればいいのだろうか。わからない。
あいつの好きな奴を思うが、どうやったら勝てるのか考えられない。
旦那との勝負事に勝つことはほとんどない。
無理もねぇよなぁ……
生きてる時間の長さすら負けてるんだから……
悲観的になる。Sは打たれ弱いのだ。
明日はなにかいつもと違うことをしてみよう。戦略を考える。いや、戦うんじゃなくて、いや、戦いに変わりはないか。
次の日、沖田は神楽を探し歩く、よく居る場所は察知済みだ。
今日は河原にいた。犬と散歩をしている。
そこへ刀をいつでも切り込めるように構えて近寄る。
今だ、という瞬間に襲いかかれば、神楽はそれに反応して傘を構える。
簡単に始まる戦いに、沖田はニヤリと笑う。
こんな簡単に、こいつも落とせれば良いのに。
そんなことを考えながらも、戦うのも楽しい。つい夢中になってしまう。
「今日は入り甘くねェ?」
懐に入ってくる瞬間がどうもいつもより適当な気がする。1番の仕掛ける場だと思うのだが今日は何か変なのだ。
「ちょっと考え事してたアル」
その言葉に沖田の刀がとまる。
悩みを相談して、仲良くなる!という名案を思いついたが、嫌な予感がする。
「旦那のことかィ?」
「ウーン……」
「恋の悩み?」
「まあ……」
やはりそうだ。嫌だったことが現実になって押し寄せてくる。
だがしかし、ここまで聞いといてまた喧嘩を再会しようなんてこともできない。
「なんかあったのかィ?」
ハーっと溜息をつきながらも沖田はそう聞き直す。
「悩んでるって言うか、わかんねぇんだヨ」
神楽は戦意を失ったらしく、河原に座り込み定春を撫でる。沖田も刀を鞘に納めて隣に座る。
「何がでィ」
お兄さんがきいてやる、というような大人ぶった対応で聞いてやる。
しかし、本当は聞きたくない、旦那の話なんて。
「銀ちゃんのこと好きなんだけど、これって恋なのかなぁって……みんなから言わせれば恋なんだってヨ」
「だろうな」
神楽の周りの人間を考える。どうせ精神年齢の低い奴らだろう。
みんな恋だ恋だと言うだろう。とは言え沖田はここで大変な任務を自ら託す。
銀時に恋しているという自覚をさせてはいけない。どうにか、逸らすんだ。
そしたら、告白することもないし、アタックすることもない。もし、自分に気があると勘違いさせることに成功出来れば、もしかしたらということも有り得る。
それを狙うのだ!
「でも……恋とは違うんじゃないかィ」
適当に言い訳しようとするが、なかなかうまい言葉が出てこない。
「恋ってまず何アルカ」
神楽はそこからだった。恋を知らない乙女なのである。
うーん、と唸る沖田。言われてみれば沖田も恋というのは初めてでよくわからないことが多かった。
「とにかく会いたくなる、みてぇな、見つけるだけでドキドキする、みてぇな」
「銀ちゃんには毎日会いたいアルナ!居なかったらなんか寂しいし!」
ぐっとどこから出たのかわからない言葉が口から出る沖田。
神楽はそれを気にしていないし、恋の話に興味津々だ。
「でも、ドキドキ、がわからないアル」
そういったところにちょうど銀時が通りかかるのが沖田には見えたが神楽は気づいていないようだった。
「わかんねぇなら見てみろ」
距離をよせ、神楽の顔を両手で掴み無理矢理銀時が居る方へと向ける。
「痛!痛いアル!」
抵抗して拳でパンチしてくる神楽にバランスを崩し、沖田と神楽が雪崩て沖田が押し倒す形に倒れてしまう。
だが、ちょうど寝転がる体勢になった神楽に銀時が見える。
「あ、ドキドキする……」
俺も、と言いたいところだったのだが、それは好きだとバレてしまうので言わなかった。
ドキドキするは恋だわ。
これは自分でもよくあることだ。
チャイナにドキドキしまくっている。
今日もドッキドキってな。
「って、ええええええ!?????」
ドキドキしないもんだと思ってた……。
ドキドキするんかい!
もう恋って確定じゃないかよ!
「……恋、アルカ」
「…………恋、ですねィ」
いや、と否定したいと思ったがなんて否定すればいいかわからなかった。
それからの神楽は早かった。犬と一緒に走り出して銀時に抱きついた。
もちろん神楽は振り払われてたが楽しそうにかけて行った。
沖田は置いてけぼりで、いつも味わう寂しさよりも何倍も寂しく感じたという。
次の日、どうしてもいつも通り神楽を探してしまう沖田。
河原まで歩いてきて、何かルンルンしているような神楽に気づく。
会いに来るんじゃなかった……なんか絶対いい事あったじゃん。
絶対昨日の絡みじゃん。会いたくなかった〜……。
いや、会いたかったけどー……!
「……よう、チャイナ」
声をかけるか悩んだが声をかける。だって仕方ないだろう。好きなんだから、知りたいんだ、全部を。
「よう、サド!」
元気そうじゃねぇかコノヤロー!こっちはお前の元気で元気なくなってるがな!
「元気そうだけどなんかあったのかィ?」
ムカつくが聞いてやる。心折れそうだが聞いてやるしかない。やはり知りたいのだから。
「銀ちゃんとー銭湯デートしたアルー!」
それただ銭湯行っただけだろうと思ったのだが、こいつはなんだかすごく楽しそうだ。
「銀ちゃんお風呂早すぎてずっと暑い中待っててくれたアル!で、神楽神楽って構ってくれてネ!」
「おめーみたいなメスゴリラにかィ。へー、もの好きだねェ」
話は尽きない。こんなこと言われた、あんなことを一緒にした、こんなことを思った。なんて言って俺の話なんて聞いちゃいねぇ。
楽しそうなのはいい事だと思うのだが、わかっているのだが……。
ダメだ……俺はダメだ……。
「サドは絶対長風呂だロ。待たせる側どころか帰って風呂はいって彼女を銭湯に置き去りにするタイプだロ。マジきもいアル!」
完全な想像で罵倒されてしんどい沖田に神楽はまだ野次を飛ばす。
「お前の場合は構うと言うより構えってタイプだロ。だからめんどくせぇんだよナ」
そうかもしれないが、どちらかと言えば沖田は神楽を構っている方である。そんなことを神楽は考えもしない。
「お前さ、Sは打たれ弱いって知ってるよな」
心折れ掛けの沖田は神楽を恨めしそうに見やる。
「事実を言ったまでアル」
「全然お前の捏造だったけど!?」
ツッコんでみるも、神楽はうんうん、と納得したように頷くだけである。
「で、旦那との距離は縮まったってか?」
神楽にそう投げやりに問いかけると、神楽は嬉しそうに頷く。
「それでネ、思うんだけど……!」
まだ神楽の妄想は続く。銀時も神楽のことを好きになって、どうのこうの、許されない恋だからどうのこうの。といろいろ妄想は続きを語る。
もうわかんねーよ!と思っていたが、その妄想に時々自分が出てくることが嬉しかった。
「で?その話が何」
次の日になって沖田は銀時に遭遇したためパフェを奢ると言ってファミレスに連れていった。そして神楽の話をしたのだ。
「だからー、チャイナあんたに惚れてんでさァ。旦那はどう思ってるんですかィ?」
「どーも思ってねーけど?」
適当に返ってくる言葉に安心とどこか悲しさも湧いてくる。
なんで、なんで悲しいんだろう。あいつがとられなくて済むはずなのに。
なんでだろう。
そうだ。なんで悲しいのかわかった。
神楽の気持ちも大事にしたいと思っているからだ。
神楽が温めてきた想いを簡単に吐き捨ててしまうのは、もったいないことなんじゃないだろうか?
大事にしてきた気づかなかった想いを、今気づいて大事に育てているのだ。
今更捨て置くなんて、出来ないと思った。
「旦那、チャイナのこと意識することねぇんですかィ?例えば風呂とか」
「ねぇよ、あんなガキ」
銀時に即答されてしまった沖田は、どうやったら報われるのかと考える。
でもそんな柄にもないことできねぇか、なんて考えも浮かんでくる。
恋のキューピットなんて、鳥肌がたつくらいだ。
「真剣に向き合えって言いてぇんだろ?」
ずっとくどかった話に銀時は結論を出してくれて沖田も助かる。だがそんなことを考えているんだろ?と言われた内容はなんだか恥ずかしかった。
「チャイナのことでこっちもぐちゃぐちゃなんでさァ。ちっとはてめぇもロリコン自覚しろ。ロリコン天パ」
適当なことを言ってお金を置いてファミレスをでる。
たぶん、沖田の恋心をわかっている銀時だから上手いことやってくれるだろう。
と、同時に疑問が浮かび上がる。
チャイナは旦那に振られたらどうするんだろう。
銀時は上手いことやるだろうと思ったが、その上手いことと言うのは神楽の気持ちをすっぱり浄化させる。というのが目的であり、自分の方を向いて欲しいとは、どうも思えない。
神楽の気持ちを知ってしまった今、思い浮かべるのはずっと思い続ける神楽だ。
ずっと気づかなかった恋を、温めてきた恋をすっぱり諦めるなんてそれは恋だろうか?
それに、もしそう簡単に諦められるなら、こっちを振り向いてもすぐそっぽを向いてしまうのではないだろうか。
もしそんな時が来たらと思うと胸が締め付けられて死にそうになる。
そんなのは嫌だ。
沖田の脳内は混乱していた。
神楽が好きだけど銀時と上手くいって欲しいような、行って欲しくないような。上手くいかなくてずっと想っていてほしいような。
いっその事チャイナが俺のこと好きだったら良かったのに。
そんなことを思ったら、泣きそうになる。届かない思いは涙となって消えるのか?なんて思ったが、涙が零れることなどなかった。
次の日は神楽が屯所まで来るというミラクルが起こった。
「何しに来たんでィ」
「振られたアル」
その言葉に目を見開く、上手くやれって言ったけど、上手くやれてねぇんじゃねぇのか、旦那
家出しに来たってことじゃねぇのかよ、と察する。
「それで落ち込んでここに来たと?」
「ウン」
落ち込んだ彼女に、かけてやれる言葉を探す。
見つからない。
そんな簡単な魔法の言葉なんてないのだ。
「お前は、振られたらどうするアルカ」
神楽の言葉に自分を重ねて考える。もう既に振られているんだ。
振られているから、考えられること。
「好きな人のそばに、ずっと居る、かねィ」
「気まずくない?」
「居たいから、仕方ないんでさァ」
辛いながらも答える言葉に神楽はなにか思いなおしたように笑う。
「好きって大変アルナ」
そう言って沖田を抱きしめた。
え?え?これなに?
沖田が動揺して固まると神楽はそんな沖田を引っ張って行き、いつもの公園への道を歩く。
「な、なんでィ、チャイナ」
呼びかける沖田に神楽は止まらない。嬉しそうに、蝉のなく林をかけて行く。
「気づいたアル」
そう言って何を問いかけても神楽はフフフ。と笑うだけで返事をしてくれない。
沖田はなんだか、どうでも良くなって公園に着くまでただ神楽に引っ張られていた。
公園に着くと、ベンチがある広場で神楽が止まる。
「私、お前が好きみたいネ」
「旦那がダメだったからこっちに来たのかィ?」
「な、ちがっ」
「何が違うんでィ!いつもいつも旦那旦那ってはしゃいでただろうが」
「銀ちゃんは、好きヨ」
「だったらなんで「でも、違うんだって気づいちゃったんだヨ」
遮るように神楽は話し始める。
「銀ちゃんのことが好きだと思ってたネ。でも、違ったアル。お前の会いたくて仕方がないんだって気持ち聞いて、気づいたアル」
沖田が公園で大声を上げたことを思い出す。
確かに、あの時初めて嫌いだと言った。
「好きだから、会いたいって思っちゃう
んだヨ」
沖田が、でも、と反論しようとするが、神楽は続ける。
「振られて1番にお前の顔思い浮かんで、会いたくなったアル。たぶんきっと、美味しい物食べた時も、綺麗な花を見つけた時も、面白い映画を見つけた時も、沖田に1番に教えたくなるんだヨ」
ねぇ、これを好き以外に言い表す言葉があるの?と神楽聞くと、沖田も引き下がれなくなって呟く。
「友達として好き……みたいな?」
「じゃあキスしてみてヨ」
は!!????と沖田が後ずさると神楽は沖田にじわじわと近づく。
「お前のそばにいるとドキドキするアル」
ジリジリと攻防戦が続いて、神楽から抱きつくという攻撃を受けた沖田は撃沈する。
「ほら、聞こえるアルカ?この心臓の音」
これが好きってことなんじゃないの?と聞く神楽に可愛くてたまらなくて抱きしめ返す。
「大胆だねィ」
「好きだから、仕方ないアル」
驚きを隠せない沖田に神楽は顔を寄せて笑いかける。
キスしろってか
沖田は唇を寸止めする。
「この心臓の音はどっちだと思う?」
ぎゅっと引き寄せてからキスするフリをしてもっと近くまで、と抱き寄せる。
「「好き」」
2人重ね合わせた声に、2人笑った。